強化のフロントライン16 日韓合同強化合宿について②

〜宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策〜

日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。今回は前回に引き続き、15歳以下と12歳以下の選手を対象に韓国で開催された日韓合同強化合宿の模様について、宮﨑強化本部長が語ってくれた。


●韓国との指導法や文化の違いを子どもたちが肌で感じることができた

 
日韓合同合宿でミーティングを行う日本チーム

屋外トラックでランニングを行う両国の選手たち


 日本卓球協会は、9月に韓国で「15歳以下」と「12歳以下」のトップレベルの選手を対象にした日韓合同強化合宿を行いました。前回も述べましたが、この合宿では日本と韓国との指導法の違いを強く感じました。
 そのことがはっきり表れていたのが、選手たちが「バック側に回り込んでフォアハンドドライブ」したときです。日本では左足を踏み込みすぎないよう指導するのが一般的ですが、韓国のコーチは左足を大きく踏み込んで威力を出すよう指導していました。
 今回は、この違いについてもう少し掘り下げてみたいと思います。

 まず、回り込んでフォアハンドドライブするときに、左足を踏み込む場合と、踏み込まない場合とのメリットとデメリットから述べましょう。
 左足を踏み込んでフォアハンドドライブするメリットは、「打球に威力が出しやすい」ことです。その半面、次球を空いたフォア側に返された場合、届かない可能性が高くなることがデメリットです。
 一方、左足を踏み込まない場合は、左足を踏み込んだときほど打球の威力は望めませんが、フォア側が大きく空かないので「次のボールがどこに返されても素早く対応しやすい」ことがメリットです。
 これらのメリットとデメリットを踏まえると、左足の踏み込みをどうするかという問題は、「"威力"と"ピッチの速さ"のどちらを優先するか」という議論に置き換えることができると思います。

 今から30数年前、私が現役選手で日本代表だった頃は、回り込んだら左足を大きく踏み込み、打球にできるだけ威力を出すことがセオリーでした。しかし、やがて中国の前陣速攻や欧州の両ハンド攻撃に遅れを取った日本は、威力よりもピッチの速さに着目し、そこに活路を見いだそうとしました。回り込んだときに左足を踏み込まなくなったことは、ピッチの速さを重視するという日本の意志表示だと言えるでしょう。このモデルチェンジが功を奏し、今の日本は世界の頂点に近づきつつあります。
 一方、韓国も現在、日本と並ぶ強豪国ですが、今なお私が現役のときと同じように威力重視の選手育成が行われている光景を目の当たりにして、両国がたどってきた道のりの違いに感じ入るものがありました。

 今回の合宿では日本と韓国との目指す方向性の違いが明らかになりましたが、どちらの指導法が正解だとは言い切れません。強くなるためには、"ピッチの速さ"も"威力"も等しく大切だからです。
 合宿の練習試合でも、技の多彩さやピッチの速さでは日本選手が上でしたが、ボールの威力やフィジカル(身体能力)の強さでは韓国選手が上回り、勝敗はほとんど互角でした。
 現在のシニアの成績を見ても、女子は韓国を上回っていますが、男子は5月に行われた世界卓球2018ハルムスタッドで韓国に敗れており、両国の総力はほぼ互角と見ていいでしょう。

 威力を重視する韓国の練習メニューは、今の日本の風潮からすると「しごき」と取られそうなハードな内容でしたが、その背景には韓国の文化も大きく影響していると思います。
 韓国は、上下関係の秩序を重んじる儒教が広く浸透しており、今回の合宿で見たコーチと選手の関係も必然と緊張感の高いものでした。一本筋の通った上下関係があるからこそ、コーチは選手のためを思って厳しいメニューを課すことができ、選手はコーチの要求に応えようとがんばるのだと思います。
 今回垣間見た韓国のハードな練習は、フィジカルはもちろんのこと、メンタル(精神面)を鍛える上でも効果的だと感じました。
 卓球はメンタルが勝敗を大きく左右するスポーツです。厳しい局面でもあきらめずに緊張せずに戦い抜くメンタルを身につけるには、厳しい練習を乗り越えることが方法の一つです。
 歴代の韓国選手は総じて粘り強く、大舞台で力を発揮する選手が多いですが、その理由は、日々の厳しい練習でメンタルが鍛えられているからなのだと納得しました。

 日本の指導は選手本人の人間性を尊重しながら競技力を高めるという考えがベースにあるため、韓国のようにハードな練習を取り入れることは難しいでしょうし、日本はこのままピッチの速さやプレーの合理性を追求していくべきだと思います。
 とはいえ、どんなスタイルを目指すのかは国籍を問わず、選手本人次第です。
 今回の合宿に参加した日本選手の中には、フィジカルやメンタルがより鍛えられる韓国の厳しい練習が魅力的に映った選手もいたと思います。反対に、韓国選手の中にも、日本のように威力よりもピッチの速さを追求したいと思った選手もいたでしょう。
 今回の日韓合同合宿は、そうした異なる指導法や文化を子どもたちが肌で感じることができたという点において、とても有意義だったと思います。

(取材=猪瀬健治)

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