三十六計と卓球 〜第三十二計 空城計〜

「日本の友人と世界の卓球界に『三十六計と卓球』を捧げる」 荘則棟

第三十二計 空城計  空城の計

「虚」と「実」を混在させて、敵に真実を悟られないようにし、
「虚」で「実」を固め、自分の力を温存する。

 古代戦術の例

 紀元726年唐玄宗(とうげんそう)時代、吐蕃人(とばんじん)が瓜州(かしゅう・現甘粛省安西県)を攻めていた。
 瓜州の将軍王君煥(おうくんかん)は戦死し、張守珪(ちょうしゅけい)が瓜州刺史(官名)として派遣された。彼は赴任後すぐに市民を組織し、城壁の修理に取りかかった。
 しかし、城壁の修理が終わらないうちに吐蕃人がまた攻撃をしかけてきた。城の中には防御設備がなく、市民はおびえ、闘志を失っていた。
 この時、張守珪は「敵は大軍を率いており、数の面では到底勝てない。槍(やり)や石で抵抗しても負けは見えている。ここは計略を用いて敵を撤退させるしかない」と言い、部下に命じて城門を大きく開かせた。そして城壁の上には宴席を設けて楽隊に華々しく演奏させ、自ら将兵を仕立てて宴に参加し、酒を呑(の)んで楽しんでいた。
 吐蕃人はこの状況を見て、城の中には必ず罠(わな)がしかけられ、待ち伏せされていると思い込み、撤退した。


卓球における応用例

 私は攻撃選手と試合を行うとき、短いサービスを相手のバック側のネット近くに出し、それと同時に体を強引に左に移して、いかにも半身で速攻するかのように見せかける。
 この時、私のフォア側には当然隙(すき)ができる。しかし、これは故意に隙のように見せかけて、相手がそこに打ちこむように誘うのである。体が左側に傾いていても重心は依然として左足爪先(つまさき)に置いてあり、フォアコーナーに来る球を。勢いをためて待っているのである。
 相手が私のフォア側の隙を突くことは私の願うところである。これは空城実兵と言い、襲撃してきた者が逆に攻撃をうけるのである。


感想

1.「虚」と「実」の運用は、自分を温存し、敵を消滅することが原則である。
 盲目的に正面から当たることは、不必要な犠牲者を出す。
2.実質的な力を基礎として、「虚」の運用を援護し、敵を惑わせ「虚」を「実」に変え、敵の乱れを攻撃して勝ちを得る。
3.この計略は特殊な状況下で緊急あるいはやむを得ない場合にのみ用いる。『緩兵の計(時間稼ぎの計)』とも言える。
(翻訳=佐々木紘)
筆者紹介 荘則棟
1940年8月25日生まれ。
1961-65年世界選手権男子シングルス、男子団体に3回連続優勝。65年は男子ダブルスも制し三冠王。1964-66年3年連続中国チャンピオン。
「右ペン表ソフトラバー攻撃型。前陣で機関銃のような両ハンドスマッシュを連発するプレーは、世界卓球史上これまで類をみない。
1961年の世界選手権北京大会で初めて荘則棟氏を見た。そのすさまじいまでの両ハンドの前陣速攻もさることながら、世界選手権初出場らしからぬ堂々とした王者の風格は立派であり、思わず敵ながら畏敬の念をおぼえたものだ。
1987年に日本人の敦子夫人と結婚。現在卓球を通じての日中友好と、『闖と創』などの著書を通じて、卓球理論の確立に力を注いでいる」(渋谷五郎)
本稿は卓球レポート1995年8月号に掲載されたものです。
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