「作戦あれこれ」第18回 サービスのこころえ(1)

 私は、高校時代も社会人になってからも、負けた試合や苦戦した試合を反省すると、サービスの失敗からが実に多かった。
 たとえば、コート上で2バウンドする小さいサービスを出すつもりが、1バウンドで出てしまってレシーブから強ドライブで攻められる。バウンドの高いサービスを出してしまってスマッシュで打ち抜かれる。サービスを出す直前に迷ったためにサービスミスをしたりする、などの初歩的な失敗。相手にこちらが出すサービスを読まれて待っているところに出してボクシングのカウンターのように強打されて3球目攻撃に失敗したり、コースや変化が単調であったり、いろいろあった。
 または私はインターハイの季節になると、高2のとき初出場したインターハイで強く印象に残っている試合があるが、それもサービスの失敗から逆転負けした試合である。この試合は参考になる人が多いと思うので紹介しよう。

 気構え、作戦が中途半端で逆転される

 試合は準決勝で、優勝候補の筆頭といわれていた左腕の大型ドライブマン石井選手(東京・関東商工)と対戦したときであった。私は試合前、2人の実力を比較してみた。同じドライブマンであるが、サービスもレシーブもドライブの安定性と威力も相手の方が一段上である。私が優っているのは、追う身でやれる強さだけだと思った。そこで私はぶつかっていく気持ちで思い切ってやる。サービスを持ったときの3球目は、できるだけフォアで動いて、思い切ってドライブをかけて、その後の打ち合いはがむしゃらに動いてフォアハンドロング(このときロング戦ではドライブをかけられなかった)の強打で相手をゆさぶる作戦でいくことを決めた。その作戦が当たって、第2ゲームを取り第3ゲームに持ち込み、第3ゲームも17対13とリードを奪い、しかも次からは私のサービスでチャンスだった。
 次の1本、ヨシ、効いているしゃがみ込みサービスを相手のバック側へ出して、相手のレシーブを得意のフォアハンドで思い切り攻める。しっかり動く。強気だ。と作戦を立てた。相手は苦しい表情をして、少し間を長く取っていた。このとき私は「ひょっとしたら勝てるかもしれない」と思った。そのとたん、勝敗を意識して気構えも、作戦も消極的になってしまった。そのために中途半端なサービスから3球目攻撃になって、そのスキをつかれて相手に得意のドライブで反撃にあい、そこから1本も取れずに17対21で逆転負けしてしまった。
 高3のインターハイのときは、相手がサウスポーで苦手意識もあったが、やはりシングルス第1シードでしかも前回3位という成績から、負けられないという気持ちが非常に強かった。そのために勝敗にこだわりすぎて、大局的な作戦を誤まり、相手のドライブを恐れて小さいサービスばかり出す単調な戦い方。焦った気持ちから心にまったく余裕がない気構えで、相手にほとんどコース、作戦を読まれて岡田選手(京都・東山高)に1対2で負けてしまった。
 試合後、私はなぜもっとロングサービスを使って攻めなかったか、なぜもっと積極的な気構え、自信を持った気構えでやらなかったかと悔んだ試合だった。
 最近いろいろな大会を見ていると、試合に弱い人ほど私の高校時代と同じような気構えから3球目攻撃に失敗して自分の力を発揮できないまま負けている人を多く見受ける。私の経験からもこのように気構えをしっかり立てないままサービスを出したときは、たとえ相手より実力がうえであっても負けることが多い。サービスを持ったときはチャンスでもあるが、中途半端な気構えでサービスを出したときは大きな危険でもある。またいくら変化のあるサービスを出しても、3球目攻撃以後に有利なラリー展開に結びつくものでなければいいサービスとはいえない。
 では自分のサービスを最大限に生かし、3球目攻撃を成功させるにはどのようなことに気をつけたらよいか。

 レシーブの構え、心の動きを読み、大局を考えて出す

 作戦の立て方はいろいろな考えから立てるが、はっきり言えることは相手はレシーブの直前にレシーブの構えを変えることがある。だから、サービスを出す直前まで相手のレシーブの構えを見て、心の動きを読んで、そのときの弱点、または3球目攻撃が一番やりやすい位置へサービスを出すことである。
 たとえばレシーブの構えと心の動きからフォアの深いロングサービスが相手の一番の弱点で、しかも3球目攻撃が成功すると思ったとき、思い切って出す。または、2番目か3番目の弱点だがフォア前の方が3球目攻撃、または3球目をすばやくバックに返して5球目作戦がもっともやりやすく勝ちやすい。それが大局的に見てもいいと思った場合は、フォア前に出して攻めることである。とくに勝負どころでは、このようにもっとも3球目攻撃がしやすい攻撃法をとることがいい。しかし、やや3球目攻撃はやりづらいが大局的に見てここで点を取られてもロングサービスを出した方が、次からのサービスが生きると思ったときは思い切ってロングサービスを使って勝負すべきである。
 私は19対16とか17対13とかリードしたときなどによく使ったが、3球目攻撃が一番やりやすいのは自分の一番得意のフォア前からの3球目攻撃である。だが大局的に見て次に得点しやすいフォア側にナックル性ロングサービスとか、ドライブ性ロングサービスを出して攻める。そこでもし取られたとしても、次に小さいサービスが効きやすいからである。1球目からフォア前に出して点を取られた場合、次の攻め手がむずかしく逆転されやすいからである。大きく離されたときの打開策の1つとしてもよく使った。または試合のスタートから積極的な気持ちでやれるようにとか、意表をついて相手の読みをゆさぶるとか、小さいサービスを生かすなどのために、試合のスタートにいきなりフォアへドライブ性のロングサービスをよく使った。

 3球目攻撃の作戦を立てて臨む

 しかし、折角いいサービスを出しても、サービスを出す前に3球目の作戦、または5球目の作戦、7球目の作戦を立てて臨まなければ、いい3球目攻撃ができない。また、3球目攻撃のとき、ただ得意のボールでコースを考えないで打つ人がいるが、余り感心した攻め方ではない。やはり試合を進めながら相手のレシーブ位置による弱点、打球フォームからの弱点、4球目の読み方あるいは相手のフットワークのスピード、からだのひねりのスピードやクセなどから生じる弱点などが必ずあるが、それを頭に入れておく。そして出すサービスを決めたとき「相手がここに返してきたらこう打つ、こう返ってきたらこう打つ、次はこう打つ。相手がこちらに返してきたらこう打つ、こう返ってきたらこう打つ、次はこう打つ」というように、3手、4手先の作戦を立てて臨むことである。まだレベルの低い人は、3球目の作戦もしくは5球目の作戦ぐらいでいい。そうすると3球目攻撃、5球目攻撃が迷わずやりやすい。だがいつも思ったとおりくるとは限らず、強く打たれたり小さく返されるときもあり、守りの準備を考えておかなければならない。そのためにも、サービスを出した後、すぐに基本姿勢で構えることが大切であることがよくわかる。
 たとえば、私が試合でフォア前にサービスを出すと決めたとき、次のような作戦を立てた。
 ①相手が「3球目はフォア側にくるな」と警戒してレシーブがバックに1バウンドででてきたときはまわり込んで3球目をバッククロスへ強ドライブで攻める。それをストレートコースへ打ち返す。5球目をバック側、と読まれたときはクロスに攻める。
 ②レシーブがフォアに来たとき、スピードのないボールはストレートに思い切って攻める。強く払われて3球目を攻められないときは台についてバックに返し、相手の4球目のボールがバックに返ってきたときはバックハンドで5球目をバックへ打つ。このボールが再びバック側に返ってきて相手が次球をバックで待っているときはバックハンドでストレートに攻める。それ以降は、ドライブでしっかり動き攻めていく、というような作戦。
 ③もし、小さくストップしてきたらバックのツッツキでバックに変化をつけて返す。再度ツッツいてきたら低いツッツキでフォアに長く返す。そして相手が6球目をドライブかけてきたらショートでバックに止めて、バックハンドを振らせたのをドライブで攻める。表ソフトの選手であればドライブをかけかえして攻める、という作戦を使った。
 その他に、フォアへドライブ性ロングサービスや、表ソフトの選手にはナックル性ロングサービスをよく使ってたが、そのときはドライブで攻めてくるのを待って、3球目をバックに返して相手にバックハンドやショートをさせてそれをドライブや強打でねらい打つというように、常に相手の弱点対自分の長所とやるようにした。
 もちろんサービスを構えたときの作戦が最終作戦ではない。相手のレシーブがネットを通過したあたりでどのような3球目攻撃をするのがベストであるか決めた。サービスのときから3球目を打つと決め、どんなボールでも強打する選手をよく見かけるが得点は相手がしていることが多い。

 気構え、信念を持つ

 次のための気構え、信念を持ってやることはすべての打球にいえることであるが、サービスを出すときも非常に重要なことである。せっかく一生懸命立てた作戦も、これによって生かしも殺しもする。言わば人間のからだであれば心臓かもしくは次に重要な部分であるように私は思う。
 たとえば、チームが勝つか負けるか、または自分が勝つか負けるかの勝負どころで、いいサービスできわどいコースをつく。低く返ってきたレシーブを思い切った3球目攻撃をする。または強く攻められたレシーブを攻められないコースにつなぐ。これらをやるためにはごくふつうの気構えではスピードについていけないし、判断も遅れ局面は苦しくなる。高度な技術や高度な作戦をするならば、それによって気構えも備わっていなければできない。つまり気持ちも体も1つになって初めて効果的なサービスになり、相手を倒すことができる。
 だからサービスを構えたとき、またはサービスを構える前に相手以上の力が発揮できるように気構えを立てて臨むことが必要である。だからといって弱い相手にも常に限界に近い気構えでなければならないのとは違う。練習のときは限界に近い気構えでやるのがいいいが、試合では1本1本勝てる気構えを持ってやることである。自分のレベルや対戦相手によって気構えや集中力が当然違ってくる。
 私はサービスのとき、サービスの構えに入る前に必ず相手の目、構えを見て相手の集中度、気力の高さを観察してそれに応じて自分の集中力、気力を持った。そしてできるだけ緻密でかつ勇敢な攻撃をする心構えを常時持ちその場面で特に必要と思った気構えを心に激しく言い聞かせ、1本に臨む気構えとボールを打つときの心構えを立てるようにした。気構えの中には練習の気持ちでやるとかラクな気持ちでやるとか、まだまだいろいろあるが集中したからだ、積極的な気構え、打球の際の心構え、それに作戦の心、技、体、智がぴったり呼吸があったときにはすばらしいサービスから3球目、5球目攻撃ができて勝つことが多かった。しかしこのようにやることができたのは、練習の量、質とも多かったときであった。
 今まで多くの選手を見てきたが、気構えをしっかり立てて臨んでいる人は、試合の勝負どころで強い選手達ばかりだ。

 相手の目を中心とした表情や、レシーブのかまえをよく観察してやろうとすることを自分自身で確認してからサービスを出そう。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1976年7月号に掲載されたものです。
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