「作戦あれこれ」第24回 ネットプレイ

 台上のボールの処理をネットプレイというが、このネットプレイは試合で大変重要である。
 しかし、試合をみているとまだどのぐらい重要であるか認識している人は少ないようである。では、ネットプレイはどのくらい使われているのだろうか。いつもの試合を冷静に振り返って、相手のサービス、レシーブ、自分のサービス、レシーブを思い出してみれば分かる。最近はドライブマンが増えたことから、攻撃対攻撃の場合ショートサービスとロングサービスの割合は、5本中3本から4本がショートサービス。つまり、6割から8割がショートサービスからはじまる。
 また、19オール、19対20、20オールなどの勝負どころになったとき、どのようなサービス、レシーブが多いか。やはり7割から8割がショートサービス。レシーブ側は強く打たれまいとするから、小さく返すことが多い。ということから、勝負どころにおいても7割から8割ぐらい、全般的にも6~8割が台上のボールからはじまり、試合の過半数はネットプレイからはじまっていることが分かる。

 バック前のネットプレイが下手で苦労した現役時代

 私は、ネットプレイで負けた今でも忘れられない試合がある。大学2年のときの全日本学生選手権の決勝戦で対戦した鍵本選手(早大―荻村商事。'67年世界団体優勝。'65年全日本ダブルス優勝)との試合である。
 鍵本選手は、台上のボール処理とショートとドライブのうまい前陣攻撃型。それまでの対戦成績は1勝1敗。前回はドライブ攻撃で12本と11本で私が勝っていた。打ち合えばドライブの強い私が有利。試合はサービス、レシーブが大きな鍵を握っていた。
 決勝は2対2になり、ファイナルセットにもつれ込んだ。鍵本選手は作戦をがらりとかえてきた。サービスはショートサービス主体。レシーブはバックのネット際に短く返して私にドライブをかけさせない作戦。私は何とか回り込んで攻めようとしたが、攻める自信がなくバック側にツッツキで返した。鍵本選手はそれを回り込んでバック寄りのミドルにドライブで攻めてきた。私は1本ショートでしのいだあとフォアハンド・ドライブとバックハンドで対抗したが、ピッタリ台につかれて積極的に攻めてくる作戦にドライブを封じられ9本で負け、2対3で負けた。
 もう1つ忘れられない試合がある。'66年の北京国際招待試合で荘則棟選手に負けた試合である。私の一番弱点であるバック前を集中して攻められ、そこからピッチの早い攻撃にあって得意のドライブを封じられ、ストレート負け。またその後に行なわれた日中対抗でもネットプレイの悪さから北京で何試合も負け、そのため私は「1本差しグリップの卓球では中国に勝てないのではないか。第一線を退いて日本選手の練習相手になろう」と中国の遠征中に真剣に考えたことがあるが、その原因はネットプレイの悪さが大きな原因であった。

 速攻型、カット型も同じ

 速攻型でもカット型でも同じであると思う。速攻型はネットプレイができなければ速攻型と言わないかもしれないが、ショートやバックハンドやスマッシュやツッツキ打ちがうまくても、先に攻められては守らなければならなく、止めるショートや止めるバックハンドなどになってしまう。無理な攻撃をすればミスが出る。まったく速攻のいいところがなくなってしまうのである。
 たとえば、現日本チャンピオンの河野選手のプレイから分るように、ネットプレイを同じモーションから左右に払うのがうまい。しかもストップもできるという同じモーションから3種類のボールが打てるからフォアハンドとバックハンドで自由自在に速攻ができているのだと思う。しかし、もしネットプレイが下手であったらどうだろうか。長い間一緒にやってきた感じから推測すれば、それほどパワーもないし守備も得意ではない。したがってあのすばらしい速攻も生まれず、また世界的に活躍はできていないと思う。
 カットマンもやはり同じだろう。もし、小さいサービスを出されたときやストップされたときに、変化のない軽いボールやエンドラインぎりぎりに返すでもなくコートで2バウンドするでもないという中途半端なレシーブをしたり甘いコースに返した場合、台に寄ったところを次の一発で叩かれてしまう。一番取りにくい打球処理で相手のコースに返すことはよほどの熟練者でなければむずかしいもので、ネットプレイの下手なカットマンとはもっともやりやすい相手といえる。
 このように、ネットプレイの苦手な選手はネットプレイからの攻撃がうまい選手と合うと、たとえ威力のあるドライブを持っていてもすばらしいプッシュ性ショートやスマッシュ、あるいは安定したカットを持っていたとしても、台に寄せられたところを叩かれて、自分のエースボールを封じられ力を出せないままに終わってしまいやすく、ネットプレイがいかに重要であるか分っていただけたと思う。

 ネットプレイの練習方法

 では、ネットプレイにはどのような練習方法があるか一流選手がやっていた練習や自分がやった代表的な練習方法を紹介しよう。
 (1)試合の中で一番多いと思われるサービスは、フォア前とバック前のカット性サービス。そのためにほとんどの人が次のフォア前のレシーブから4球目攻撃、バック前からの4球目攻撃をやっていた。
 (2)また、フォア前に出された場合、バック側にストップやツッツキ、払うレシーブをすることが多く、そのレシーブをしてからの4球目、6球目攻撃の練習もよくやった。
 (3)サービスから3球目、5球目攻撃の代表的な練習方法として、フォア前のストップレシーブを払ってから回り込んでスマッシュ、バック前のストップを回り込んで打ちフォアへ飛びつきスマッシュ等、ネットプレイからはいろいろな攻撃があるが、私は相手に小さく出されたり、ストップをされることが多かったのでこのような練習を多くやった。

 注文練習の注意点

 そして私は、ネットプレイの練習をするとき、次のように気をつけながらやった。
 ①コースや球質を決めてやる場合、分っていることから集中力が低くなりやすいため、はじめる前に試合と同じ気持ちにさせてから練習に臨む
 ②コースが決まっていても、逆にくるかもしれないと考えながら、相手の動きをよく見てから動作をはじめる
 ③できるかぎりボールの頂点を打つように努力する。それとクロスにもストレートにも打てる態勢から返す
 ④台上の主導権争いは動きのスピードが大事で、打球後すぐ基本姿勢に構え、相手の動きに集中する
 ⑤いい感じのフォームで打てるようになったら、一発で打ち抜くようなスピードを追求する
 ⑥小さく止める場合は、ラケットをネットの近くまで運ぶような感じで返す
 ⑦ボールを最後までよく見る
 ⑧腰が低くなりすぎないように気をつける
 ⑨打ったあとからだのバランスが崩れないところまで、足を十分に踏み込む
 ⑩何も考えずにたくさんの回転をバシバシと打つのではなく、一球一球ラケットの角度、手首の使い方、腰、腕の使い方などを頭と体で感じをつかみながら打つ。
 私は、'66年の中国遠征以後ネットプレイの練習を真剣に考えるようになり、そして普段の練習の中にできる限りネットプレイの練習を組み入れた。ネットプレイの練習ができなかったときは試合練習の中でネットプレイを考えながらやった。一球ごとに頭とからだで感じをつかみながらやったことによってネットプレイが上達した。そして現役の後半、中国選手と互角、あるいは互角以上の試合ができるようになり、中国が参加したアジア選手権で2連勝を飾る幸運に恵まれた。

 私もそうであったが、若いときはロングを派手に打ち合う方がおもしろく細かいネットプレイは地味であまりおもしろくない。そのためにあまりやりたがらない人が多いが、試合の6割から7割はネットプレイからはじまることをしっかり認識して、普段の練習にも大会前のコンディション作りにも欠かせないことだと思う。もし好きな練習ばかりやって嫌いな練習をやらない人は、片輪な卓球になってしまう。最近私は、フォーム作りとネットプレイをうまく組み入れてやっていくならば、試合で自分の力が出せるようになると思えてならない。また、ネットプレイは良いフォーム作りにも役立つものである。
 試合は、力の差があまりなければネットプレイで先手を取ることができるかどうかが、勝敗の鍵を握っているものであるとわたしは思う。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1977年3月号に掲載されたものです。
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