「作戦あれこれ」第52回 高性能ラバーの上手な使い方(2)

 山なりの短いドライブを混ぜろ

 第1回目の高性能ラバーの使い方で「高性能ラバーの一番の特長である、パワードライブ(回転のかかった速いドライブ)による連続攻撃をしよう」と述べた。しかしこの攻撃1本やりでは、強い相手を打ち崩すことはなかなかできない。それは、同じような速いパワードライブばかりで攻めていると、途中から相手に慣れられて逆にショートでゆさぶられたり、タイミングを合わせられてさらに強烈なドライブで返球されたり、スマッシュで狙われたりする恐れがあるからだ。
 ところが、速いパワードライブの中に山なりのドライブを混ぜると俄然(がぜん)パワードライブが効く。つまり速いドライブを待っているところに山なりのゆっくりしたドライブがくると、とまどってタイミングが狂ってミスが出る。そこで相手は、山なりのドライブをも警戒しなければならず、待ちの読みが不安定になり速いドライブが常に効くようになるからだ。
 しかし、最近の中学生、高校生のプレイを見ていると、あわてて攻めているせいもあるが速いドライブ速いドライブという考えしかないようだ。これでは、ますます一本調子になり相手にかわされてしまうことが多い。また、いつまでたっても試合上手になれない。

 ドライブの使い方がうまかった大屋選手

 日本の選手の中では、私と同期の大屋選手(日本楽器男子監督'73年サラエボ世界代表)がこのドライブの使い分けが大変うまかった。私は、大屋選手と7~8度対戦したことがある。今でもはっきりと覚えているが私が大屋選手のショートサービスをナックル性の払うのとツッツキでレシーブすると、素早く動いて全身を使った回転のかかっている豪快なパワードライブと、インパクトのときにスナップを鋭く使う短いスイングの山なりのループドライブ、それとゆっくりとしたドライブでネット際に落とす浅いドライブの3種類のドライブで攻めてきた。そして、全身を大きく使うパワードライブは、バックサイド、ミドル、フォアサイドの3つのコースに打ち分け、山なりのループドライブとゆっくりした短いドライブで私に攻撃されないバック側に攻めてきた。それも、私の態勢、動きを見て、深いコース、浅いコース、真ん中のコースといろいろと使い分けてきた。その攻撃に私はタイミングを狂わされた。そして威力のないショートやバックハンドで返したため、次を私のもっとも弱いところに思い切り攻めこまれた。
 大屋選手はフォアクロスでドライブ対ドライブの引き合いになった場合も、ふつうの選手とは一味違っていた。最初の2、3本はまっすぐに伸ばすドライブで攻めるが、4本目あたりから思い切りサイド回転のかかったドライブでフォアサイドぎりぎりのところへ曲げて攻める戦法を使った。しかも大屋選手はフットワークがよく、基礎がしっかりしていたことからラリーになったとき、ほとんどといってよいくらい凡ミスがなかった。これも大変な脅威(きょうい)であった。大屋選手にミスさせるには、威力のあるボールで攻めなければいけないと強く思うので、無理して打つときに力んでフォームを崩し自滅することが多かった。そのために私は、都市対抗の決勝戦、国体の決勝戦、それに社会人の準々決勝と大屋選手に3度負け、他の試合でも常に苦戦した。河野選手(青森商教員、'77年世界チャンピオン)も何度か苦汁を飲まされていたし、'71年の名古屋の世界大会では強豪ヨハンソン(スウェーデン、'73年世界単2位)を打撃戦で打ち破り、ベスト16でも世界チャンピオン伊藤選手をフルセットのジュースとあと一歩まで追い込む活躍をした。
 また、大屋選手と対戦して強烈に印象に残っていることは終盤戦が滅法強かったことだ。17対13、19対16とリードしているときでも、いつばん回されるか気が気でなかった。これも、強烈なドライブと山なりのドライブとをうまく混ぜた変化攻撃ができたからだった。同様に最近ではハンガリーのクランパ選手がパワードライブ、ループ、曲がるドライブの3種類のドライブを使い分けて活躍している。
 高性能ラバーは、よく回転がかかることからこのような変化攻撃がやりやすい。だから常に変化攻撃のことを頭に入れてやることが大切だ。ただ、山なりのドライブをかけるとき、あまり打球点をさげすぎると山なりのドライブと見破られてしまうので、できるだけ高い打球点をとらえて変化をつけることが大切だ。それと、すでに大屋選手の戦法の所で述べたが、相手の構え、動きからどのドライブ攻撃をしたら良いかを考えて打ち返すことも絶対に忘れてはならない。

 基礎練習とツッツキからの攻撃を多くやれ

 では、どうすればこのような変化攻撃をすることができるようになるか。それは基礎練習のときにフォアハンドの基本を守っての打ち込みをたくさんやることだ。フォアハンドの基礎ができていなければ緩急自在な変化攻撃はできない。最近、スタンスの狭い人や腰が落ちている人、逆に上体が立っている人などが多い。正確な基本姿勢を守って打つよう心がけよう。基礎がしっかりすると、からだ全体が使えるようになるのでパワードライブが身につきやすく、しかもスマッシュやフットワークがしやすくなって変化攻撃も安定するなど、将来性のある選手になれる。特に足の構えには注意して打とう。
 次に、変化攻撃を身につける重要な練習として、ツッツキからのドライブ練習がある。このとき、はじめはボールだけをしっかり見て速いドライブと山なりのループドライブ、ゆるいネット際に落とすドライブの練習をして、まずそれぞれのコツをつかむ。そして、ある程度できるようになったら、実戦で相手の動きも同時に見ながら3種類のドライブをマスターしていくことだ。
 それと、変化サービスからの攻撃も平行して行なっていく。このとき、いきなりいろいろなところにレシーブしてもらうとコツをつかむのが遅くなるので、はじめはコースを決めて行なうと良い。この場合もツッツキからの攻撃と同じ要領だ。
 それから、長いツッツキ、1バウンドで出るか出ないかのツッツキ、ナックル性のレシーブを攻撃することもやっておくとよい。私は、1バウンドで出るか出ないかのボールに対し、1発で打ち抜くドライブと山なりのドライブの両方を使い分けることができ、試合で非常に役立った。

 スマッシュでも狙えるようにすることが大事

 高性能ラバーは、ドライブの変化攻撃がやりやすい。が、だからといってそればかりではいけない。最近の選手はドライブ処理がうまくなってきているからだ。それと、試合に勝つにはみんながやっている練習と同じ練習だけをしていたのでは、いつまでたってもトップに立つことはできない。そのいい例が'77年までの男子の日本やハンガリー、スウェーデンである。中国が新しいイボ高ラバーと裏ソフトによる変化カットからの攻撃をやったら、そのあとを追ってマネしてやる。新しい投げ上げ変化サービスを使いはじめたらマネをする、といった状態だったから、カルカッタもバーミンガムも団体で中国を破ることができなかった。そして、シングルスを制したのは、速攻の河野選手、一発のスマッシュのある小野選手、両ハンドドライブのヨニエル選手と独自の技術を持つプレイヤーであった。このことからも、常に一歩進んだ研究と開発が大切であることがわかる。
 そこで、日本独自の技術として、高性能ラバーを使っているドライブタイプがツッツキをスマッシュ攻撃できたら相手にとって脅威であると思う。それに「いつでもスマッシュが打てる」という気持ちがあると「必ず打ち崩せる」という自信から気持ちに余裕ができて、思い切った攻撃ができるようにもなる。
 現在、高性能ラバーを使っている多くのドライブマンは、その自信がないためにドライブオンリーになり相手に読まれて負けることが多い。スマッシュができないとドライブをかけるときにドライブで抜いてやろうと力むだけによけいにミスもでる。また、相手にドライブで攻める情報を早く教えて相手の態勢を崩すことがむずかしい。きっと、このことで悩んでいる人が数多くいると思う。
 このような人は、ドライブ攻撃の練習だけでなくツッツキからのスマッシュやサービスから3球目スマッシュ、または前陣でフォアハンドロング対フォアハンドロングの軽打からのスマッシュやショート打ちからのスマッシュなど、あらゆる練習のとき5本目から6本目にスマッシュを入れるのを数多くやった方がよい。
 また、この練習は、スマッシュがよくなることから戦術の幅が大きくなるだけでなく、フォームの欠点がよくなったりからだの使い方がよくなったり、試合に大切な勇猛心も強化される大変に効果の高い練習でもあるので、できるだけ多くやってほしい。特に試合前に大事な練習だ。

 もどりを早くせよ!

 高性能ラバーは、普通の裏ソフトラバーや表ソフトラバーよりもスピードが出るので、そのぶん相手の返球も速い。そこで高性能ラバーを使用する人はとくに打球後のもどりを速くすることが非常に大切になってくる。もどりが速ければ速いほどいい攻撃ができる。もどりが遅い人はスタートが遅れからだの前でボールをとらえることができず、試合のときの基本である一球一球威力のあるボールで攻める、逆コースをつく、回転やボールのスピードに変化をつける、または高性能ラバーの最大の特長であるスピードのある攻撃をすることができなくなってしまう。
 もちろん、あまりもどりばかり気にして気持ちの余裕を失っては何にもならないが、相手の動きを見ながら次の攻撃が一番やりやすい姿勢に戻ることは重要だ。このことは、卓球はスピードのある競技なので、ふつうの裏ソフトラバーや表ソフトラバーや一枚ラバーや木ベラやイボ高ラバーの使用者全員に大事なことだ。どんなに強い人でも、打球後のもどりをおろそかにしたり、もどりを速くする練習をしないと二流、三流のプレイヤーになりさがってしまう。

 強打対強打、強打で動きまわるフットワークなどをたくさんやれ

 では、もどりを早くするにはどのような練習があるか紹介しよう。
 1.1.2メートルぐらい離れた位置からフォアハンドスマッシュ対フォアハンドスマッシュ。50センチぐらい離れたところから同じ練習。強打対強ドライブ
 2.プッシュしてもらったのを連続スマッシュで打ち返すのと、連続ドライブ強打で打ち返す
 このとき、続けようとする気持ちも大事だが強く打ち合いながら続けようとすることが大事。中学生で3本、高校生で4本続いたら立派といえよう。
 また、いくら速くもどろうと思っても、ボールをからだから遠いところで打ち返すと素早くもどることができない。からだの近くに引きつけて打ってこそ素早くもどれる。そのためには、左右動、前後動のフットワークが必要。
 この場合、初心者なら何本も続けることが大事だが、ある程度のフットワークができる人は、プッシュかフォア強打で回してもらったのをスマッシュに近い強打で動き回る練習を多く入れると効果的だ。それもフォアハンド強打だけで動く練習と、両ハンド(バック側のボールをプッシュで返す人はプッシュでもよい)で打ち返す両方をやるとよい。それは、フォア主戦の人でも高性能ラバーを使ったスピードがあるラリーでは、バック系の技術が必要になるし、両ハンドを使って攻める人も場合によってはオールフォアで攻めなければならないからだ。
 同様に、フォア強打、バック強打の切り替えや、中陣後陣で打ち返す練習なども必要だ。その他では、相手はどこに打ち返してもよいが自分は相手のフォア側かバック側のどちらかに決めて返す、オールサイド対ワイサイドのゲームなども、もどりの動作が機敏になってすべてが高まる良い練習だ。
 それと、高性能ラバーを使うドライブマンは、相手にストップレシーブやストップ性ショートで攻められることが多いので、強打による前後のフットワークもやっておいた方がよい。
 このような良い練習を、現在高校界で一番活躍している熊谷商がたくさん取り入れてやっている。それだけに熊谷商の選手は機敏でもどりが速く、'79年度の全国大会のタイトルを独占することができた、と私は思う。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1980年1月号に掲載されたものです。
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