「作戦あれこれ」第66回 異質ラバー作戦② アンチの攻撃と対戦した場合

 今春、ユーゴのノビサドで行なわれた世界選手権で異質ラバーを使用した選手が大活躍をした。
 男子シングルスに優勝した郭躍華(中国)は、ペンのドライブマンだが裏面にイボ高ラバーを貼っていてときどきイボ高でサービスを出す。2位の蔡振華(中国)は裏ソフトとアンチのシェーク攻撃型でアンチを多用する。3位のベンクソン(スウェーデン)は、フォア裏ソフト、バック表ソフトのシェーク攻撃型。3位以内で異質ラバーでない選手は、シュルベク(ユーゴ)ただ1人だった。
 女子も1位の童玲(中国)が裏ソフトとイボ高のカットマン。2位の曹燕華(中国)は郭躍華と同様にペンの裏にイボ高を貼っている。3位の李寿子(韓国)もベンクソンと同型。女子も4人のうち3人が異質ラバー選手であった。その外でも女子ではアンチのカットマンが多くみうけられ、またたった1人ではあったが謝賽克と組んで混合複に優勝した黄俊群(中国)などは裏面に裏ソフトを貼っているイボ高のショート主戦型だ。
 男子でも韓国、フランス、イングランドにはアンチを使用したカットマンがいた。

 異質ラバーは現行どおり

 世界選手権期間中にルール等いろいろなことを議決する国際卓連の総会が開かれた。総会の議題の中には、用具規制に関する提案があった。その3つあった提案の1つに「ラバーの種類には関係なく両面は異色にする」というのがあった。
 しかし、この提案には、日本・中国をはじめとする全アラブ諸国とアフリカ諸国が反対し、規定の4分の3の票に達せず(賛成56%)、今回もまたラケットの両面を異色にする案は否決された。このため、各国、各チームで異質ラバーの研究はますます進むだろう。したがって、異質ラバー選手でない人も、異質ラバー選手も、対異質ラバーの研究をますます真剣にやる必要がでてきた。
 さて今回は、世界選手権で大活躍した蔡振華を例にとり、裏ソフトとアンチの攻撃マンと対戦したときはどのように戦ったらよいかを述べよう。

 変化をこわがるな、勇気と自信を持て!

 蔡振華のようなアンチの攻撃マンに強くなるには、心、技、体、智にわたって大切なことがいろいろある。が、中でももっとも重要なことは「変化をこわがらない」「勇敢な精神と自信を持って行なう」ということだ。まず精神面を充実させることが、対異質攻撃に強くなる秘けつだ。
 6年ほど前にアジア指導者講習会が行なわれた。そのとき、講師であった中国男子コーチの李富栄氏('61、'63、'65年世界第2位)が、中国選手のドライブ処理について説明をした。そのときに李富栄コーチが最初に言った言葉も「まずドライブをこわがらない。勇気を持って処理することが大事だ」と精神面を強調していた。アンチの攻撃マンと対戦したときもまったく同じことがいえる。
 つまり「自分はアンチの変化サービスがとれない。ナックルのツッツキやショートが苦手だ」とこわがり悪い自己暗示をかけてしまうと、相手がサービスを出す前から「もうダメだ」という気持ちが先にたち、レシーブに必要な肝心な点にまったく頭が働かなくなるからだ。また、集中力もなくなり足の動きが極端に悪くなる。さらに腰も引けてフォームを崩しレシーブできなくなるからだ。
 しかし、逆にアンチの変化サービスなんかこわくない。絶対に打てる、と勇気と自信を持ってレシーブするとまったく逆の好循環を生む。自信を持てばいうら相手にわかりにくい変化サービスを出されても、冷静になれる。自信から頭の働きがフル回転し、いろいろな情報(ラバーの色、打球音、ボールについているマーク)を冷静に判断できることから変化がわかる。集中力が高いことから動きも早くなるし「何くそ」と向かっていく気持ちから腰がしっかり入り、インパクトのときのミートも鋭くなる。したがって凡ミスが減る、打ったあとのもどりも早くなり連続攻撃がやりやすくなる、などラリーに入っても互角以上に戦える。異質型と戦うときは、まず自信をもって戦うことが大変大事なことだ。

 「人間が出すボールが打てないはずはない」

 私も、アンチの攻撃マンや異質ラバー選手と対戦したときは、勇気と自信をふるいたたせて向かっていった。「同じ人間が出すサービスの変化を見わけられないはずはない!必ず打てる」と考えてプレーした。また「相手がラケットを持ちかえてサービス、レシーブをしてきたときこそチャンスだ」と思ってプレーした。
 なぜならば、相手が持ちかえたときに強打したり、ストップをして攻めれば、相手がラケットを持ちかえている間にボールがいくので一番得点しやすい。また、こうして相手がラケットを持ちかえたときに攻撃をしていけば、相手はだんだんラケットをかえられなくなり、戦力が大幅に低下するからだ。
 しかし、アンチの攻撃に強くなるには、アンチの選手と練習して変化に慣れることが絶対に必要だ。アンチの攻撃マンがいないチームは、アンチのカットマンにサービス、レシーブに変化をつけてもらってレシーブから攻める練習を行なおう。どちらのタイプもいないチームは、アンチと裏ソフトのラケットを1本こしらえて、下手でもよいから毎日15分ぐらいサービスを出しあえば1ヵ月後、2ヵ月後にはかなり慣れるだろう。

 最適打球位置へ早く動くこと

 次に大事なことは、最適打球位置へ早く動くようにすることだ。このことはとくにレシーブのときに重要だ。
 アンチと裏ソフトの異質型は、最大の武器である変化サービスからの3球目攻撃で決めようと猛烈な変化サービスを出してくる。このサービスは、ラケットの面を相手にわからせないようにコートの下かからだのうしろに隠して、そこから機敏な動作で出してくるので変化を見分けにくく、しかも変化の差が大きい。それをうまくレシーブするためには、ボールを体の近くでとらえる必要がある。もし、レシーブのとき正確に打球位置まで動かずにボールをからだから遠いところで打ったのでは、正確な角度と押しや手首のかえしができずミスが続出する。
 わかりにくい変化サービスを正確にレシーブするには、変化に応じてラケットの角度と押しが自由に変えられる体勢でボールを迎えることが重要だ。また、打球位置までできるかぎり早く動くようにすると、たとえレシーブが悪くなったときでも素早くもどることができるので3球目攻撃を止めることができる。
 それから、人間の目というのは、正常な目であれば小さい字を読む場合30センチぐらいが一番読みやすい。30センチから距離が遠くなればなるほど見えにくくなる。
 たとえば、相手がサービスを出したときには、回転するボールのマークが見えないときでも早く動いてボールに近づくと見える。ネットを越えるまでにはっきりと変化を見分けられることもあるし、ネットを越えて自分から30センチぐらいでマークが見えて回転が見分けられることもある。そのためにも、早く動くことが非常に大切だ。アンチの攻撃マンにやすやす3球目攻撃をさせると、調子にのって手がつけられなくなる。5本サービスのうち、1本でも2本でもレシーブから攻められるようになると、試合展開がずいぶん違ってくるものだ。

 前後にしっかり動こう

 打球位置までしっかり動くことは、レシーブのときばかりでなく、サービスを持ったときやラリーになったときにも重要だ。とくにアンチを使う攻撃マンは、アンチと裏ソフトの特長を最大限に生かすために、必ず前後に激しくゆさぶってくる。
 その代表的なのが、強烈な3球目攻撃、5球目攻撃で強く攻めたあと、相手が後陣にさがる動作をした瞬間に素早くアンチ面に持ちかえてストップをしてコートに寄せる、そして寄ったところを思い切り強打して決めるプレーだ。
 それと、レシーブに回ったとき、アンチで短く止めて次を思い切り攻撃する戦術。したがって、アンチ攻撃マンとやるときは、その戦略を頭にしっかりたたきこんでサービスを持ったときにも、ドライブをかけたときにも素早く基本姿勢にもどって、いつでも前に動けるように心も体勢も備えておくことが大切だ。そして相手のストップを逆にねらっていけるようになれば前後の攻めは封じられる。攻撃チャンスが増えて打ち崩せるようになる。
 しかし、それにはいうまでもなく、普段から前後のフットワークをしっかりやっていなければ動けない。試合で急に動こうとしても無理だ。アンチ攻撃に強くなるには前後のフットワークもしっかりやっておこう。

 スピードロングサービスを使え、そして止めてくる3、4球目を狙え

 戦略1。対アンチ攻撃マンとの試合では、レシーブが大切だが、サービスも非常に大切だ。もしレシーブのとき、相手のサービスからの3球目攻撃がうまくて4本~5本失うようであれば、自分がサービスのときに同じように4~5本得点するようにすれば勝てる。
 しかし、それには平凡なサービスではムリだ。どうしたらよいかというと、スピードのあるドライブ性ロングサービスを多く使うことと、それに逆モーションで出す変化サービスを混ぜるとよい。
 その理由は、そうすることによって相手はレシーブでラケットを持ちかえることが困難になり、フォアで処理するときは裏ソフト、バックで処理するときはアンチと用具の使い方が単調になるからだ。これはアンチの攻撃マンを倒すときの秘けつだ。忘れてはならない。
 こうすれば、ドライブ性ロングサービスをバック側でレシーブをしてきたらナックルボールで短く返ってくる。フォアでレシーブをしてきたら深いコースに落ちて伸びてくる。カットサービスをバックで返してきたら切れないツッツキで短く返ってくる。フォアで返してきたら切れて返ってくる。というようにコース、球質がはっきり読めるので思い切った3球目攻撃がやりやすい。また、このような攻撃をすると、相手は4球目以後も前陣で止めるだけの守りになりやすい。おそらくアンチを使っていることから、さがってラリーを引くというのがむずかしいからだろう。そのことを知っていると3球目攻撃したあとの5球目攻撃が実にやりやすい。
 私は、今年の2月に3年連続西日本選手権に出場したアメリカのチャンピオン・ダニー・シ―ミラー選手(片面裏ソフト、片面アンチのシェーク攻撃型)と、3回連続決勝を争ったが、やはりドライブロングサービスとショートサービスを混ぜてダニーのレシーブ、4球目を単調にさせ、中陣から得意のラリー戦に持ち込んだことがよく、逆転勝ちした。
 スピードのあるドライブ性ロングサービス、同じモーションからの変化のあるショートサービスの練習をしてサービスから激しくゆさぶって、積極的な3球目、5球目攻撃をするようにしよう。

 中盤から勝てる試合のやり方が大事

 戦略2。「前半はリードされてもよい。中盤から勝てる試合のやり方をせよ」。この試合運びが非常に大切だ。
 よく目先のポイントにこだわって常に消極的なレシーブ、3球目をする選手がいるが、これが一番まずいやり方だ。常に入れるだけのプレーだとますます異質ラバーのペースとなり、ズルズルと負けパターンにはまり込む。サービス、レシーブに限らず中盤や終盤になったところで積極的に打とうと思っても打てない選手は、ほとんどこのような選手だ。
 では、中盤から勝てる試合運びとはどんなやり方か?それは中盤から自分の考えたことが何のためらいもなくできるように出足から準備しておくことである。とくにレシーブが大事だ。変化がわかりにくいからといって、ツッツいてばかりいたら中盤、終盤で打たなければ勝てないと強く思っても、ミスがでそうでなかなか打てないものだ。打ってもこわごわ打つのでミスが出る。
 しかし、変化をよく見てレシーブから積極的に強打したり、ストップをしたりして攻めていけば前半はミスが出てリードされるかもしれないが、変化がわかる中盤から入り出す。そのため、中盤から一気に得点でき逆転できるものだ。もし1ゲーム目を落としたとしても、2、3ゲームをとることができて逆転できる。
 アンチの攻撃マンと対するときは、消極的になったら負ける。中盤、終盤から勝てるように前半から積極的なプレーをすることが勝つ秘けつだ。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1981年8月号に掲載されたものです。
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