「作戦あれこれ」第69回 異質ラバー作戦⑤ アンチカットマンと対戦した場合

アンチカットの戦術と変化の見分け方

 先月号でアンチカットの変化を見分ける方法として、①打球音 ②ラバーの光沢 ③インパクトの瞬間のボールの飛び出し方 ④ボールのマークを見る ⑤試合のときマークの濃いニューボールを選ぶ...の5つのことを述べた。
 だが、まだ変化を見分ける大切なことが4点ある。そして、その4点は、応援がうるさい、ボールが見にくい、広くて打球音の聞き取りにくい会場、相手がうまくて打球音やラバーの光沢などがわからないときに大いに役立つものだ。アンチカットマンとやるときに大切なことなのでしっかり身につけよう。

 インパクト直後が変化を見分けるチャンス

 1つは、インパクト直後に変化を見分ける方法だ。特に黒色のラバーを貼っている選手の場合に有効だ。
 なぜ見分けやすいか。アンチカットマンのほとんどがなぜ黒色のラバーを使うかというと、黒色のラバーの方が裏ソフトとアンチの見分けがしにくいこと。暗色のため、インパクトのとき切れた切れないが見分けにくい長所があるからだ。しかし、黒色のラバーというのは長所ばかりではない。ラバーが黒、ボールが白であることから、ボールがラケットに当たるときにはっきり見やすい短所がある。対戦者はその短所を利用しないと損だ。
 特にアンチカットマンがサービスのときはとくに見分けやすい。よく見ていると、サービスの構えからボールを上げたときはゆっくり動いているボールのマークが、インパクトの瞬間、急速に回転しはじめるのがよく分かる。だからそのマークの速度によって変化を正確に見分けることができる。
 レシーブのときも見分けやすい。とくにナックル性ロングサービスを出したときや、切れないサービスを出したときによく分かる。回転数が少ないサービスは、相手がサービスのときと似ているからだ。
 したがって、アンチカットマンと対戦したときは、これらのサービスをうまく混ぜるとよい。またドライブで攻める場合も、カットの変化がわからなくなったときは、回転の少ないドライブで返球すると変化を見分けやすい。このことを覚えておこう。

 ボールがバウンドした直後も絶好のチャンス

 同じ意味でコート上にボールがバウンドした直後も変化を見分ける絶好のチャンスだ。
 「コートは、平坦で反射光線を起こさないよう、無光沢(マット面)に濃緑色を塗る。なお、バウンドしたボールがスリップまたはストップするような塗料であってはならない」と日本卓球ルールの第一章総則第9条の6に述べられている。
 つまり、コートは黒色のラバーに近い状態だ。その上相手サービスがコートに落ちたときに生じる摩擦から、1バウンド時ボールの回転数が落ちる。そのため、アンチ側でサービスを出したときは、サービスを出した直後よりマークがはっきり見え、切れていないことがはっきりと分かる。切れているサービスであっても、回転数が少し落ちるためにどの程度切れているかがよく分かる。
 このようなことから、アンチカットマンと対戦したときは、インパクト直後のボールと第1バウンド直後のボールを集中して見ることが非常に大切だ。変化を見分けられる選手は、インパクト直後と第1バウンドの直後を目をさらのように開き集中して見ている。そしてここまでで相手の変化を8割前後読む。アンチカットマンとやるときは、勇気と自信を持ち、インパクト直後とバウンド直後のボールに全神経を集中させて見よう。

 インパクト直前まで見て100%判断

 残りの2割はどこで見分けるか。相手コートに第1バウンドしてから自領コートに第2バウンドするまでの間にボールをよく見てマークの回転度数を調べる。そして、第2バウンドからインパクトまでの間にもボールを同じようにしっかり見て、能力の限界まで変化を見分けて打つのである。
 このときに注意することは、ボールをからだにしっかり引きつけて打つこと。上体がフラフラしているとボールが見づらいので、ボールの近くまでしっかり動いてから下半身をガッチリ安定させて打つことの2つである。これらが"カット打ちは動くことが基本"と言われる所以(ゆえん)である。
 ところが変化に弱い選手ほど、この基本をおろそかにしている。ボールの回転を見極めない。からだから前過ぎる位置で打っている。動かない。逆に動きながら打球している、など。これでは変化の差の大きいアンチカットマンを攻略することは大変むずかしい。アンチカットマンとやるときは、カットマンと対戦するときの基本を厳しく守って打つことが大切だ。

 ふだんからボールをよく見る習慣をつける

 これまでアンチカットマンと対戦したときは、ボールをしっかり見て、マークの回転を見分けることの重要性を何度も述べてきた。それでは、ボールのマークを見て回転を判断できる鋭い目を持つために大切なことはなにか、を考えてみよう。
 鋭い目を持つのに一番大事なことは、カットマンとの練習のときだけでなく、すべての練習のときにボールをよく見る習慣をつけることだ。ロング対ロングの基本打ち、サービスから3球目、レシーブから4球目、フットワーク、スマッシュ、ツッツキなどすべての練習のときにボールをしっかり見ることである。また、強くなろうと思ったら、ボール拾いの時も回転を見分ける練習と思ってやることである。
 また私が他にやったことを紹介すると、練習の合間に、ボールに回転を与えてボールの回転度合いを見たこと。もう一つは、ロング対ロングやカット対ロングでラリーを続けながら、どこのメーカーのボールか当てるテストをしたことである。ふつうの速さのラリーを5本続けるのを10回やって、7個以上当たったらその選手は抜群の選球眼といえるだろう。4個以下はボールを見る努力の足りない選手だ。一度チームで誰が一番いい選球眼を持っているかやってみよう。
 このような練習をつめば、どのような試合環境でも、アンチの変化を見分けることができるようになるだろう。

 アンチカットマンの基本的技術

 これまでアンチの変化の見分け方をたくさん述べてきた。しかし、アンチカットマンの戦術、特徴を知らなければやはり試合には勝てない。そこでここでは、アンチカットマンの基本的戦術を述べてみたい。
 アンチカットマンの基本的戦術は次の通りである。
 ①サービスのときはラケットを反転させて出すが、3球目からはラケットを反転させずラバーの特徴による変化だけで相手のミスを誘うラリー展開
 ②ラケットをコートの下で反転させて変化サービスを出す。ツッツキレシーブで返してきた場合、再びラケットを反転させたり、させなかったりのわかりにくいツッツキで相手を眩惑(げんわく)して、ツッツキミスや攻撃ミスを誘うラリー展開
 ③②の戦法で相手が甘いレシーブ、甘い4球目を返球してきたときは、スマッシュ攻撃をするラリー展開
 ④カットが打てない選手に対しては、ストップやツッツキで返球してくるのをラケットを反転させ思い切り変化をつけてミスを誘うラリー展開
●レベルの高いカットマン
 ①ドライブや軽打で粘り強く攻める選手と対戦した場合は、中陣から前陣でカットに鋭い変化をつけ、相手にストップを強要させる。それを前に素早く動いてツッツキに変化をつけてミスを誘うラリー展開
 ②①のストップ処理からスマッシュするラリー展開
 ③バックのアンチを連続してドライブや軽打で攻めてくる選手に対しては、いつでも回り込んでスマッシュができる体勢でカットし、機を見てスマッシュする。あるいは、機を見てアンチのショートでフォアへ意表をつく攻撃をして、次をスマッシュするラリー展開
●上級者のサービスのとき
 ①変化サービスから3球目ドライブ、3球目変化ツッツキ+5球目スマッシュのラリー展開
 ②相手に異質を警戒させておいて、フォアへ意表をつくロングサービスから3球目スマッシュするラリー展開
 ③3球目ドライブ、3球目スマッシュで相手をコートから下げ、連続攻撃をすると見せかけてカットで攻め、次をスマッシュするラリー展開
 ④3球目ドライブ攻撃した次をアンチのショートで相手をコートに寄せて、スマッシュで攻めるラリー展開
●レシーブのとき
 ①コートの下でラケットを反転させてツッツキレシーブから変化の鋭いツッツキ攻撃、あるいはスマッシュするラリー展開
 ②レシーブからショートやドライブで攻め、4球目スマッシュ、あるいは、ドライブ攻撃などして相手がコートから離れたときは変化カットで攻めて前に寄せ、次をスマッシュやドライブ攻撃するラリー展開
 ③フォア前のレシーブを、ツッツキレシーブのモーションからクロスに鋭く払い、次をスマッシュと変化カットによる4球目攻撃のラリー展開。あるいは、小さくストップレシーブして、次を回り込んでドライブ攻撃のラリー展開
●インターハイで出た新しい技術
 ①サービス、レシーブ、ストップ、ツッツキだけでなく、ドライブに対してもラケットを反転させて変化をつけ、ミスを誘うラリー展開
 このようにアンチカットマンには、多彩な攻撃がある。しかし、アンチカットマンといっても全部のプレーが得意なわけではない。苦手も多くある。試合のときは、相手の弱点をいち早く見つけ出すことが試合に勝つコツだ。

 アンチカットマンはツッツキが恋人

 アンチカットマンのもっとも好きな返球を述べよう。
 それはツッツキやストップだ。ツッツキやストップというのは後退回転で下に落ちる球質。そのため、アンチ面だけでなく、裏ソフト面でも思い切りスイングしゃすいからだ。そして、変化の差が大きいしどちらでスイングしたか打球音も球質もよく似ているので、もっとも得点しやすいからだ。
 このようなことから、アンチカットマンはツッツキやストップをたくさん使う選手と対戦したときは伸び伸びとしたプレーをする。ツッツキの変化からのスマッシュもよく決まり、すごく強そうに見える。

 ドライブの変化が大の苦手

 逆に嫌いなのがドライブ。それもドライブの変化や軽打からの強打によるカット攻めに弱い。なぜならば、ドライブで攻められるとアンチで返しても切れてかえりラバーによる変化があまり出ないからだ。また軽打で攻められると変化をつけにくく、そこからスマッシュを打たれると変化に頼る異質型は拾いきれないケースが出てくる。そのため、アンチカットマンはドライブや軽打でじっくり粘ってからスマッシュされると押されて苦しい展開になることが多い。
 次回は、戦型別に分けてどのように戦ったらよいか述べてみよう。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1981年11月号に掲載されたものです。
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