「作戦あれこれ」第83回 対カットのチャンスの作り方②

 私は長い選手生活を通し、数多くのカット攻略の名手の試合を見たが、その中でも特に印象に残っているのは、'69年ミュンヘン世界大会のシングルス決勝戦で、伊藤選手(本誌の技術担当者)が、西ドイツの名カットマン・シェラー選手と対戦し、0対2のピンチから大逆転劇を演じた試合。同じ大会の団体決勝で、河野選手がやはりシェラー選手を倒した試合。小和田、大関の両選手が'71年の名古屋世界大会で、3冠王になった林慧卿選手を倒した試合である。今回はみなさんにもそういった名カット攻略ができるよう、今述べた試合も思い出しながら、前回に続いてカット攻略のコツを紹介しよう。

 ツッツキに横回転を入れて叩く

 ツッツキを切ったり、切らなかったりして変化をつけチャンスボールを叩く、という戦法はよく知られている戦法だ。しかし、一流のカットマンと対戦した場合、この戦法だけでは通用しない。最近では異質ラバーの選手も多く、単調なツッツキでは逆にツッツキに変化をつけられて狙い打ちされる。一流のカットマンを「ツッツキからスマッシュ」の戦法でやっつけるには、縦回転のツッツキの変化プラス、横回転のツッツキを入れてさらに変化を大きく複雑にすることである。
 たとえば、フォア側に切ったツッツキで攻めたあと、もう1本同じコースかミドルに鋭く横回転を入れたバックのツッツキ(左回転)で攻めると、自分のフォア側へツッツキが浮いて返ってきやすい。バック側に切ったツッツキのあと、鋭く右回転を入れたツッツキでバックやミドルに攻めると、バック側へツッツキが浮いて返ってきやすい。これを叩くのである。また最近では、攻撃選手も異質ラバーを使う選手が多いので、こういった選手は異質と横回転をまぜて変化をつけるとチャンスをなおつくりやすい。

 ストップを混ぜ、前後に激しくゆさぶる

 縦回転+横回転のツッツキの変化から叩く戦法ができるようになったら、次はストップを使おう。横回転のツッツキや縦回転のツッツキの変化でつくったチャンスボールを、強打すると見せかけてストップ。あるいは深いコースに攻めたあと、ネット際に短く攻め、相手を前後に何往復か激しくゆさぶり、浮いてきたのを叩く。この攻撃が決まると、ほとんどといっていくらい得点になる。ツッツキの名手・大関選手が一流のカットマンにあまり負けなかったのは、この戦法が大変うまかったからである。
 このとき大切なことは、短いラリーで決めようと思わないで、20~30球じっくり粘ってからチャンスボールを叩く気持ちでやること。ツッツキで攻めるときに、ボールをしっかり引きつけて変化をつけること。スマッシュするとき、しっかり踏み込み、ミートを鋭く打ちこむこと...などである。
 ツッツキを中心としたカット攻略の研究は、特に女子選手において必要である。カットマンも攻撃力のある男子の場合、この戦法だけではややむずかしい所がある。しかし、女子や、男子でもショートに自信のある選手は研究の余地がある。もちろん男子の攻撃選手も、プレーに変化をつける意味や戦術に幅をつける意味でマスターする必要がある。

 相手に打たせてとる

 次はカットマンに攻撃させて攻略する方法である。というのは、カットマンの中にはまだ攻撃が極端に下手な選手が多い。その弱点を引き出してミスを誘うのである。この戦法はこれ自体の得点のほかに相手のカットのリズムを狂わす狙いもある。
 この戦法を使うときは、したがって相手がつい反撃したくなるループドライブや表ソフトの軽打、ふつうの切れ味のツッツキで深く何本も粘り、打たせるようにする。
 中でも一番よく使われるのは、ループドライブで粘って打たせる戦法である。このときは、打球後いつでも守れるように心もからだも準備しておくことが大切。そして相手がスマッシュをしてきたら、素早く一番守りやすい位置までさがり、両ハンドのロビングやドライブで返す。ふつうは高いロビングがきく場合が多い。また、表ソフトの速攻であればナックルショートや、中陣からの両ハンド攻撃で相手を左右にゆさぶってミスを誘う。
 このとき大切なことは、足を止めず前後にしっかり動くこと。ただ守るだけでなく、相手のコートに入って伸びたり、曲がったりするボールで返したり、コースをついて相手をミスさせることである。
 このボールに対し、1本打ったあとは、無理せずカットにもどるカットマンも多いが、このカットは反撃したときとからだの使い方が全然ちがうために、球質、コースとも甘くなりやすい。このボールを待っていて狙う。したがって、このような戦術ができればカット打ちが苦手な選手でも余裕が出て、不思議とカットマンに勝てるようになる。私は、カット打ちの下手な選手がこの作戦を使って勝った試合を何度も見たことがある。

 反撃のうまいカットマンには攻め返せ

 同じ打たせる戦法でも、カットもうまい、反撃もうまい、というカットマンに反撃をされた場合はどうしたらよいか。というと、この場合は、相手の反撃を守っているだけでは危ない。初め打たせて、伸ばしてもコースをついても打ち抜かれてしまう場合は、相手が反撃してきたとき「相手はロングマンに変身した」と頭を切り返え、攻撃選手と戦っているつもりで思い切り攻め返していくことである。そうすると積極的に攻撃でき、打ち勝つことができる。相手のカットも崩しやすいものである。

 フォア前から右肩口攻撃

 次にフォア前からカット攻略するときのコツをいくつか述べよう。
 一般的には、フォア前に寄せて、バック深く、一番遠いところに攻めるというのが基本的なやり方だが、相手のレベルが高くなってくると相手の動きが速く、このコースは読まれて意外と効かない。こんなときは、フォア前に変化サービスを出し、バック側にレシーブしてきたのを相手の右肩口へ思い切り3球目攻撃すると得点に結びつく。カットマンは、フォア前のレシーブのとき右足前の逆足で踏み込むため、もどりが遅くなる。フォア前の斜め下や横回転サービスをフォアのツッツキで返すのはなかなかむずかしいので神経を使う。そうしてコートにもどった直後に、右肩口に強打を浴びるとからだをひねる余裕がなくラケットの角度も出せない。そのため得点に結びつきやすい。
 この戦法は、"この1本どうしても取りたい"というときに使える戦法である。これが成功すると、またバック深くへの攻めも効く。また、フォア前サービスを効かせるためには、ロングサービスを多用しておいて相手がロングサービスを警戒するときに使うことである。そうすると相手のフォア前レシーブが甘くなって、この攻めが一段と決まりやすい。
 カット攻略をよく知っている選手は、サービスから3球目だけでなく、フォア前ストップからの右肩口狙い攻撃をよくやる。中国の攻撃選手がよく使う戦法である。

 3球目をストレート攻撃

 また、フォア前からは両ストレートコースもよく効く。なぜならば、カットマンといえども"レシーブしたコースのクロスに打たれる"と基本的に考えているからである。特にやっとフォア前をレシーブした後はそう思いやすい。その甘いチャンスボールのときに威力のあるボールでストレート攻撃を浴びせたならば、完全に相手の逆をつくことができる。
 しかし、高島選手クラスになると、そんなボールでも逆にフォアハンドやショートでゆさぶり返してくるものである。どんなときでも打球後は素早くもどって次球に備えることを忘れてはいけない。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1983年2月号に掲載されたものです。
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