「作戦あれこれ」第126回 前半戦の戦い方

 最近、試合をみていて「前半戦(ラブオールから、10本とるまで)の戦い方がよければ勝てる試合なのになー」と感じることがよくある。「立ち上がりでリードを奪えないために作戦が後手(ごて)後手に回る」「相手にリラックスして試合をさせてしまう」「前半の戦いぶりが悪いため後半で逆転される」...などが代表的なものだ。
 その点、試合巧者は前半戦の戦い方がうまい。「出足、相手の意表をつくプレーでサッとリードし、相手を焦らせて自滅させる」「立ち上がりのリードを軸に、相手の作戦を先手、先手で読む」「相手の手の内を覚えておいて後半サッと逆転する」といったプレーをする。
 卓球の試合は前半戦の戦い方が非常に大事だ。これは当然のことなのだが、意外とそのことを意識して上手に戦っている選手が少ない。ただ何となく「勝ちたい」ばかり思って試合にのぞみ、「どうやったら勝てるか」を考えていない。「相手はバックが弱い。だからバックを攻めよう」と試合全体の作戦はたてても、どうやったら効果的なバック攻めになるか、を考えていない。立ち上がりから最後まで同じ作戦を使えば、相手に読まれてしまうのは当然だ。
 では、どのように前半戦を戦ったらよいか?
 その点を、私の体験をふまえ、今回から4~5回にわたって考えてみたい。

■卓球は21本勝負

 言うまでもないことだが、卓球の試合は21本勝負(硬式ルール)である。なにをあたり前のことをいまさら書くのか、と思われるかもしれないが、意外とこのことをわかっていない選手が多い。
 たとえば、中・高校生の試合では「1ゲームは31本とか41本勝負だと思ってやっているんじゃないかな」と感じてしまう試合がある。またその逆に「試合は5本勝負じゃないんだけどなー」と思わせられることもある。
 もし試合が41本勝負の長丁場であれば、10本ぐらいまでは調子を出すためにスマッシュをバンバン打ったり、ミスの多い技術でも使っておく、ということはあるかもしれない。しかし、21本ゲームでそんなプレーをして、3-12とかいうカウントになったら、まず逆転は不可能だ。また、5本勝負なら相手のミスを期待したり、出足から連続して奥の手を出すのがよいかもしれない。が、21本の勝負では息切れしてしまう。
 試合でこういった過ちを犯さないためには、まず「卓球の試合は21本勝負」ということを再認識しておく必要がある。卓球の試合は21本勝負、そしてこれは、短期決戦型に近いゲーム形式である。

■後半に勢いのでる戦い方を!

 試合全体を考え、いかに前半戦を戦うかを考える時、一番重要なことは、勝負が決まる後半戦に調子が出るプレー「ここ一本」をとりやすいプレー、を前半戦にしておくことだ。
 本当の勝負は紙一重の差で決まる。21-8、21-10といったカウントで楽に勝とうとするのは間違いだ。ギリギリの20-19といったカウントになった時に一本とれるかどうか、それが勝負。そして、それは前半での戦い方に大きく影響される。
 ではどのようにしたら後半で調子がでるか?というと
①自分の得意なサービス、得意の技術が練習と同じようにできるかどうかためしておく
②スマッシュ、ショートなどが狙ったコースにいくように、意識して打っておく
③相手のミスを待つプレーでなく、無理なく自分から攻めて得点するように心がける
④自分のサービス、レシーブ、ラリー中の打球のコースを読ませないようにする
⑤逆に相手のプレーは記憶しておき、後半では狙い打ちできるように心がける
⑥後半戦を考えたサービス、レシーブ、ラリー展開を前半戦でしておく
...といった点に気をつけてプレーする。それが基本である。一本一本どう点を積み重ねていくかも大切である。が、試合全体をどう戦っていくかという大局観をまず持つことが、それ以上に大切。それにしたがってプレーするようになれば、勝率もグンとアップするだろう。

■大局観と前半戦のプレー

 大局を考えた前半戦のプレーには、いく通りかのやり方がある。初めて対戦する場合と手の内がわかっている場合は違うし、相手の戦型、性格などによっても異なってくる。
 例えば、将棋の対局やマラソンの試合では、前半にリードするとグッと勝ちやすくなる。同じぐらいの力の者同士の対戦で、前半リードされてしまうとそれを逆転勝ちするためには、リードしてそのまま逃げきる時の2~3倍の努力が必要である。
 卓球の場合も同様の面があり、前半パッとリードしてしまえば、メリットは大きい。相手によってはそれだけでそのゲームをあきらめてくれる場合も、ままある。勝っている時は気分よく、いいプレーが次々にできるし、負けている時にいいプレーをするためには、勝っている時以上の集中力が要求される。
 しかし、将棋の対局では「相手に前半リードされてもよい」という考え方は絶対になりたたないが、卓球の試合の場合は、最後に調子をあげて勝つためには、出足はたとえリードされてもいいから、大局観に基づいて思いきったプレーをする、ということもままある。その逆の悪い例としては「ミスを待つプレーで出足リードして、後半、調子の出た相手に逆転される」といったケース。これでは何にもならない。
 このように、卓球の大局観の持ち方(全体を通しての作戦)と、それにしたがった前半戦の戦い方にはいく通りかの方法がある。「試合運びのうまい選手」になれるよう、その具体的な戦い方を、次回から例をあげて紹介したい。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1986年12月号に掲載されたものです。
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