「作戦あれこれ」第127回 前半戦の戦い方②こうすれば自分より強い選手に勝てる

 試合に勝つには作戦が大事。これは言うまでもない。技術、体力...だけでは、満足な成績は残せない。
 では、どう戦うか? 
 前回の「試合は21本勝負」「前半は、後半に勢いのでる戦い方を!」「大局観をもって前半戦を戦え」の基本にそって実戦をどう戦ったらよいか?今回から、その具体例を紹介しよう。

 ドライブマンが自分より強い速攻型に勝つには

O君対D君の決勝戦


 ある県の高校県大会男子単決勝戦で、日本式右ペンドライブマンのD君と、中国式右ペン表ソフト速攻型のO君が"県No.1"をかけて対戦したとしよう。
 D君はフットワークのよいドライブマン。ドライブになかなか威力がある。特にフォアクロスの打ち合いは県No.1。得意のドライブロングサービス、変化カットサービスからの3球目ドライブは安定性もある。が、その反面、バック系技術がやや弱く、試合ではショートの守りにミスが出て負けるケースが多い。
 一方のO君は、ネットプレー、ツッツキ打ちが抜群にうまく、プッシュからのフォア強打も正確である。サービスはフォアの投げ上げサービスとフォア前・バック前に出すバックハンド変化サービスが得意。弱点は威力あるボールでフォアを連続して攻められると弱い。総合的な力はD君よりO君が上である。
 さて、この決勝戦で、やや不利なD君が自分より強い速攻型のO君に勝って優勝することはできないのだろうか!?

いかにして自分の得意を出すか

 さて、D君が勝つことはなかなかむずかしい。普通に戦えばO君のサービス、台上処理からの速攻でバックをつぶされてしまう。バック対バックになったら、まず勝ち目はない。
 こういった場合、まず考えることは、いかにして自分の得意をだすか。どのようにしたら自分の長所と相手の短所で試合することができるか、である。
 D君の場合であれば、どうすれば得意のフォアクロスの打ち合いが多くなるか?どうすれば勝負どころで得意の3球目ドライブで攻められるか?どうレシーブすれば相手の速攻を防げるか?といった点である。
 実力が上のO君に対して楽勝することは考えにくい。勝つとすれば1ポイントを争う接戦になる。となると、中でも大切なのは、試合後半の勝負どころで自分のサービス・レシーブからドライブ攻撃できるように、いかに前半戦を戦うか、ということになる。

前半戦のレシーブ作戦

 出足のD君のレシーブ作戦は、"強気"でなくてはいけない。なぜならO君の3球目攻撃はミスが少なく、一方のD君はショートの守りに難がある。いくらO君のサービスが良いからといって、ツッツキや入れるだけのレシーブでは入ってもみな得点されてしまう。ストップしても台上処理のうまいO君には逆用される可能性が高い。ここは「レシーブでは2本とればよい」と思って、強気の払うレシーブや強ドライブレシーブを多くするのがよい。そうすればO君の得意の3球目攻撃は不発に終わり、D君の苦手がでないですむ。試合後半でも強気のレシーブをすることができる。前半戦で払うレシーブ、強ドライブレシーブの感触がつかめるからだ。
 そこで試合の立ち上がりの5本のレシーブ。D君は、ショートサービスは払う、ロングサービスは強ドライブでレシーブ、と決心してレシーブする。もちろん、多少のミスは覚悟。どうすれば次からはミスせず入るか、を主眼におく。そうすれば迷わずレシーブできる。

強気とムチャは違う

 さてこの5本のレシーブ。強気で攻めることが基本だが、ちょっと心にとめておくべきことがある。
 それは、「強気とムチャは違う」ということだ。強気で攻めるのは「後半の1本を争う勝負どころで強気のレシーブができるようにする」ためであって、5本ともムチャしてミスしたのでは、とてもそんな展開にならない。
 例えば、「小さいサービスも大きいサービスも攻める」ということは実戦ではまず不可能で、小さいサービスをレシーブで攻めようとすれば大きいサービスに対して、大きいサービスを攻めようとすれば小さいサービスに対して、どうしても弱くなる。だから実戦では「O君の投げ上げサービスやショートサービスをレシーブから攻める」気持ちで待っていて、サービスが甘ければどこにきても攻める。良いサービスに対しては、待っているときは攻め、逆をつかれたら5分の力で攻める、もしくはつなぐようにする。いけないのは、どこにきても安全に入れることや、どこにきても無理して攻めることだ。
 このように、試合の立ち上がりで、ていねいに強気のレシーブをするようにすれば、早く変化サービスに慣れることができるし、互角に試合を運べ、有利な形で後半戦を迎えることができる。

二回り目のレシーブは変える

 さてD君。この出足のレシーブ作戦で2-3、サービスでがんばって5-5になったとしよう。さて、次の2度目のレシーブはどのようにしたらよいだろうか?
 一度目のレシーブ。これは自分の攻めやすいコース、安全な入りやすいコースを狙うほうがよい。となるとクロスボールが多くなるわけだが、それでも相手はD君のコースを読めないし、調子がでていないので十分きく。しかし、二度目のレシーブになると、O君の調子も上がってくるし、レシーブのコースも待ちだしてくる。
 そこで、D君のレシーブもそれに対応しなくてはならない。試合運びはジャンケンと同じで、次の相手の変化を予想し、それに対して有利な方法をとるのがコツだ。
 では、どうするか?
 甘いショートサービスに対してはレシーブ強打する。これは同じだ。が、軽くしか払えないサービスは、切ったツッツキや流しレシーブにする。時には強めに払えそうなレシーブも攻めのツッツキでレシーブする。
 このようにすると、O君のような表ソフト速攻型は待ちをはずされてラケット角度が狂い、攻撃のリズムも崩れてくる。まして、出足は払っておいて、次は強く払う格好からツッツキや流しレシーブすると、O君はおそらくツッツキや軽打でつないでくるだろう。このボールを攻め、得意のフォアクロスの打ち合いにもっていく。
 またこの時、強ドライブレシーブ、ショートサービスに対するレシーブとも、コースをクロスからストレートに変えるようにする。県大会決勝まで勝ち上がるような選手に対して、連続してクロスへレシーブするとまず不利になる。ストレート、時にはミドルへのコースを使っておくと、O君は最後までレシーブコースが読めない。

前半戦のサービス作戦

 さて、今度はD君がサービスを持った時の作戦を考えてみよう。
 D君の狙いは、後半の競り合いで自分の得意のドライブ攻撃を、ミスの多いO君のフォアへ集めることだ。
 となると、一番いいのは、ショートサービスをツッツかせて3球目ドライブで攻めること。次いで、得意のドライブロングサービスでフォアをつき、もしくは3球目プッシュでフォアをつき、次球をフォアドライブでO君のフォアを連続して攻めることだ。
 さて、そのためには前半戦でどのようなサービス作戦をとったらよいのだろうか?
 それはまず、ドライブロングサービスとショートサービスを混ぜて激しくゆさぶっておくこと、特にロングサービスを積極的に使うようにすることである。
 この場合、もともとO君は台上処理とツッツキ打ちがうまい。そんな相手に、台上ボールを待たれたり、ツッツキを待たれたりしたのでは、攻撃にミスが出ない。前半戦では「どちらを出そうかな」と迷った時は、相手に打たせて、もしくはショートさせてから1本コースをつき、次を攻めるくらいのつもりで強気でロングサービスを使っていくべきだ。そうすれば、試合のヤマ場で相手が固くなった時は、ショートサービスがモロにきく。もともと表ソフト選手は回転の変化に弱いので、ヤマ場でカットサービスからループで攻める。もしくはツッツキで攻めると、O君得意の強打やツッツキ打ちもミスが出やすく、軽打やドライブになる。これは狙える。そのようにもっていかなくてはダメだ。
 それを前半戦から「強打で攻められると怖い」とばかり、ショートサービスばかり出していると、ヤマ場で出すサービスがなくなり、思いあまってロングサービスを出して打たれてしまったり、前半戦で使っておかないのでミスが出たりする。勝負どころでは、なるべく勝つ率の高いプレーをするようにしなくてはならない。
 また、前半戦にサービスで相手をゆさぶるためには、ショートサービスはいかにもロングサービスを出すモーションで、ロングサービスはいかにもショートサービスを出すモーションでサービスを出すようにすることだ。

スマッシュとストレート攻撃

 さて、サービス・レシーブのほかにも、後半のヤマ場で得意を出すために、前半戦で心がけておくことがある。
 それはこのD君の場合、スマッシュとストレートコースを使うようにすることだ。
 というのは、D君はドライブとフォアクロスの打ち合いが得意。当然ヤマ場でその攻撃を使えば、ミスも少ないし勝つ率が高い。
 となると、ヤマ場でその攻撃がきくように、相手に待たれないようにしなくてはならない。
 であるから、前半戦では、高く浮いたボールは「ドライブでも決まる」と思ってもスマッシュを打つようにする。同時に「クロスでも決まるがストレートにも打てる」というボールはストレートにドライブ攻撃しておく。そうすると、同じ技術の幅でも、試合全体を通しては多彩な攻撃をすることになる。

 このようにしてD君が前半戦を互角に戦い抜けば、それはもう9分どおり勝ったも同然。試合のヤマ場になってもO君はD君のプレーが読めず、動きや判断がにぶくなって攻撃ミスが出ることだろう。
 前半戦の戦い方をチョッと変えただけで、実力が上の相手にも勝てるようになるものなのだ。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1987年1月号に掲載されたものです。
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