「作戦あれこれ」第131回 こうすれば強くなるバック前レシーブ

 試合で大切なことは色々あるが、強くなるために必要なのは同じ失敗をくり返さないことである。
 「フォア前レシーブができずに負けた」「ドライブがとれなかった」「山場でストレートにロングサービスが出せなかった」...等々。敗因は様々であるが、強くなるには負けも良薬。それでいい。次に同じ失敗さえくり返さなければ、その分確実に強くなっていく。
 そこで、今回から敗因(弱点)をどのように克服していったらよいかを考えてみよう。

 バック前レシーブで敗れる

 ある高校の地区大会。ペンドライブ型のD君はシェークドライブ型のH君の逆転負けを喫した。前半リードしながら、後半バック前にフォアサービスを集められ「ミスしないように」バックへツッツいたレシーブを3球目ドライブで狙われて連続得点されたのだった。
 「ああ、勝てた試合だったのに...」とD君は悔やんだ。が、バックハンドでH君のバックへ払っても、フォアへツッツいてもフットワークのいいH君にはやはり狙い打たれた気がする。ドライブ処理もそう自信はないし、ストップを使ってもうまくは止められなかっただろう。
 ではどうすればよかったのかなあ?
 D君は悩んだが、地区の強豪・H君とは次の地区大会で再戦する可能性が高い。さて、次の対戦までにD君はどのような作戦をたてたらよいのだろうか?

 一流選手のバック前レシーブ

 D君に限らず、バック前へ斜め下回転やナックル性ショートサービスを出され、甘いレシーブを狙われた選手は多いことだろう。
 悩んでいるD君のために、世界の一流選手がもしH君と対戦したなら、どのようなレシーブをみせるか考えてみよう。
 (1)ハーフボレーで(フォア)へ払う
 シェークでハーフボレーのうまい滕義(中国)やグルッバ(ポーランド)であれば、バックハンドでストレートに払ってレシーブすることだろう。スピードがあり、しかも二人ともいかにもバックへ返すような顔をしてフォアへ払う逆モーションがうまいから、高校生のH君のレベルであればおそらくノータッチ。やっと飛びついてドライブで返しても、滕義なら頂点スマッシュ、グルッバならパワードライブであっさり得点してしまう。
 (2)バックへ切ってツッツく
 ショートのうまい陳竜燦、江加良(中国)ならバックコーナー深くいっぱいに、タイミング速く、鋭く切るツッツキレシーブをよく使う。威力あるツッツキに押され、少しでも持ち上げぎみのドライブになればフォア強打。体勢を崩しながら3球目強ドライブで勝負しても(切れているのでドライブにスピードがでず)、ガラ空きのフォアサイドに楽々ショートで返球。
 テクニシャンの江加良は、H君が回る気配を逆用し、打球直前にラケットの先を遅らせ、フォアコーナーいっぱいに、フォアへ逃げる横回転ツッツキで、ノータッチをとることもできる。
 (3)横回転ショートでレシーブ
 中国はじめ、韓国、中国台北等のペンホルダー選手は横回転ショートでのレシーブが多い。このレシーブになれていないH君は(右対右の場合)フォアへラケットが動くのにボールはバックへ喰い込んできて、とても回り込めないことだろう。狙ってドライブしようとしても、低くて深く曲がるショートをドライブするのは難しい。山をかけて回り込むとゆるいショートでもフォアを抜かれてしまう。
 (4)ストップレシーブ
 郭躍華(中国、'81~'83年世界チャンピオン)がもしH君と対戦したら、徹底的に絶妙のストップレシーブをしておそらくH君に1本もドライブをかけさせないことだろう。そして、H君がやっと台上のボールをツッツくと、パワードライブで一発で決めてしまう。
 郭躍華は横回転系のサービスでもストップしてしまうし、サービスが大きくなれば、すかさずレシーブからパワードライブ攻撃する。

 D君に1番合ったレシーブ

 さて、次の対戦までにD君がこのうちのひとつでも完璧にマスターすれば、H君のバック前サービスからの3球目ドライブも怖くない。バック前サービスを逆用して簡単に勝つことができるだろう。しかし、バックハンドストレートやストップレシーブはD君の今のレベルではなかなか難しい。切ったツッツキや横回転レシーブからの展開も、4球目のドライブ処理がうまいからこそ効果が高い。D君の今の技術では不利になる可能性が高い。
 さて、それではドライブマンD君の今の技術で絶対に有利になるレシーブはないのだろうか?
 D君の主戦武器はフォアハンドのドライブとスマッシュ。ショートやバックハンドは苦手なD君だが、フォアドライブで攻める形になればかなりの得点力がある。
 D君はフォア主戦型だから、台上処理もバックよりフォアのほうがうまくできる。横回転サービスなら強く、下回転サービスに対しても軽打やナックル性ボールで払うことができる。しかも、フォアで払えばその位置から次球もフォアで攻めやすい。
 となると、現在のD君の技術では、フォアハンドで回り込んで払い、H君にハーフボレーさせて、そのボールを4球目ドライブで攻撃するのが一番よい作戦のようだ。

 勇気をもって回り込む

 前回の対戦では、いかにもフォアへロングサービスを出しそうなH君のサービスに、思い切って回り込むことができず、みんなバックツッツキでレシーブして失敗した。しかし、考えてみれば、フォアへは1本もサービスを出されてはいなかった。いや、もし出されたとしても80%以上はバックへくるのだから、そのうちの半分を得点できれば5本中2本は得点することができ、十分だった。相手のミスを期待してツッツキでしかレシーブしなかったので、5本とも全部得点されてしまったのだ。
 と考えると、次の大会までにD君のやるべきことは、バック側へ回り込んで両サイドに払い、次をフォアドライブで攻める練習を徹底してやることである。得意を生かすほうが、苦手をマスターするより時間がかからない。

 回ったら強く攻める

 さて、それではフォアでバック前サービスを払う作戦について少し考えてみよう。
 バック前サービスをフォアで払うレシーブは、別にドライブマンのD君にだけ適したレシーブではない。ニューデリー世界大会では速攻型の江加良や陳竜燦も多用していた。江や陳は相手のフォアサービスに対して回り込むことが多いが、同じ速攻型でも日本の河野満選手('77年世界チャンピオン)などは相手のバックサービスに対しても自然にサッと回り込み、レシーブ得点を数多くあげていた。
 回り込んでフォアハンドレシーブする場合、大切なのは攻めのレシーブをすること。回り込んだのなら強く払う。もしくは逆をついて払ったり、止めたりして先手をとることが重要である。レシーブで攻め、攻めの形になってこそ、次球もフォアで打球しやすいメリットが生きてくる。
 理想は強打でのレシーブである。

 回り込んで払うコツ

 しかし、強打でレシーブするためには、それなりの基本が必要である。ただ強打してもミスばかり多くなる。回り込みレシーブの注意点をあげると
①バック側へ素早く回り込む
 回り込むコツは、歩くようにして、右足を左足より先にエンドラインの内側に入れ、次に落下点に合わせ、左足をグーッと前に踏み込んで、ネット際で頂点を払えるようにするのがコツ。
②回転に合わせ、スイング方向を変える
 相手のサービス回転を判断する。横回転や前進回転のサービスであれば、スマッシュ同様の横殴りのスイングで払っても入る。難しいのはよく切れた下回転サービスが小さくきた場合。この時の基本は、手首と前腕、指先の動きを使い、台上でドライブをかけるように下から上に払うこと。強く払う場合も、その下から上へのスイング方向で、全力スイングをしてスピードを出す。当然、切れないサービスを払う時よりスピードはでずらいが、その分、角度を上に向けて前に振るナックル性の軽打(逆モーション)やストップがやりやすいので、それを混ぜて相対的に強く払うレシーブの威力を出す。
③どのコースにも払えるように
 回り込むクセのある選手にはバックストレート(相手のフォア)に払うと効果が高い。
 両ハンドで待つ選手にはミドルへ払う。
 バックの弱い選手(または左きき)には、流しぎみに払えるようにする。
④払った後、連続攻撃できるように
 払った後のもどりと4球目の攻めが大切。練習では、バックへ払い、フォアへハーフボレー強打してもらい、それを狙い打てるようにする。次に、バックへハーフボレー強打してもらい、フォアで狙い打ち、またはショートで相手のフォア(またはバック)へしのぎ、打ち合いにもっていく。
 フォアへ払って、4球目ドライブの練習もする。

 このような払うレシーブからの4球目攻撃をやり込めば、バック前サービスは怖くない。前回の対戦より、次は必ずよい試合ができるだろう。
 「もしH君にさらにうまく攻められたら、また対策を考えよう。さらに強くなるチャンスだ」
 そう考えたD君は、試合が待ち遠しく感じられた。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1987年5月号に掲載されたものです。
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