「作戦あれこれ」第138回 こうすればしのぎがうまくなれる

 今年のビッグ大会をすべて終えたD君。
 この1年で「フォア前レシーブ」も「バック技術」も「ドライブ処理」もかなり上達した。しかし、振り返ってみると、試合では絶好調の波が激しかった。県大会で優勝を争ったかと思うと、2回戦で負けてみたり...。「来年は安定したプレーのできる選手になりたい」
 そう思ったD君。負けた原因を考えてみると、攻めるプレーばかりのため、自分より攻めの速い選手や変則プレーに取りこぼしが多かったようだ。
 「しっかりした守りができるようになれば、作戦に幅ができるし、調子の悪い時もがんばるプレーができるに違いない」
 来年の飛躍のため「冬の間に"しのぎ"を身につけたい」そう思うD君である。

 守りのある選手は強い

 D君は非常に大切なところに気がついた。
 ドライブマンに限らず、守りのしっかりしている選手は取りこぼしが少ない。ラリーで勝つ自信があるので、速攻にも余裕がある。特にドライブマンは、ショートでゆさぶられるケースが多いため、中~後陣の守りがしっかりしているのといないのでは、作戦のたてかたが大きく違ってくる。
 守りに自信があれば、相手に打たせて逆用するプレーや、思いきってフォアで動き回るプレーが可能になる。逆に自信のない選手は、すべて先手をとろうとするので相手に読まれて逆用されたり、イチがバチかの勝負が多くなり、安定性に欠ける。
 たとえば、回り込んで攻める時、次に飛びついてしのげる自信がないと、バクストレートに思い切ったドライブ攻撃はしづらい。つい安全なバッククロスにドライブが集まり、相手に読まれてしまう。
 また、作戦のたてかたでも、例えばロビングが得意であれば「ドライブは得意だがスマッシュできない」といったタイプの選手には、速攻に加えて「ガッチリ粘り、相手のスマッシュミスを誘う作戦」がとれる。そうすればたとえ相手が威力のある変化サービスを持っていても「打たせても守ればいいんだ」と怖くないし、相手がスマッシュミスして「大事にいこう」という心理になった時に、速攻でしとめることができる。
 このように、守りを身につけ、相手のプレーを大きく包んで大事なところで思いきった勝負に出られるようになれば、ドライブマンとして「負けない」大型プレーヤーに成長する。

 すぐ下がらない

 さて、ドライブマンのしのぎには
①.前陣でのショート
②.中陣での両ハンドロング(ドライブ)
③.後陣でのロビング
...があげられる。
 ドライブマンのしのぎというと、ついロビングを考えがちだが、前での守りがまず大切である。いくらロビングが得意になっても、すぐ下がって守りの体勢になるようではいけない。積極的に攻めることが基本。守りもまず前でしのぎ、連続的に攻められて前ではミスがでそうな時や、作戦的にロビングが有効な時に初めて下がるようにする。

 しのぎのコツ

1.ショートでしのぐコツ
 前陣ショートで相手のスマッシュ、強ドライブをしのぐコツは、手首、指の力を抜いて、柔らかくボールを受け止めるようにすることである。キャッチボールでスピードボールを取る時に少しグラブを引く、あの感覚である。こうすれば、相手ボールのスピードが殺せ、相手コートに入る確率がグンと高くなる。
 逆に「打たれた」と思うと、体に力が入り、ボールを押してしまう人はうまく返せない。まぐれで入ることはあっても、続けては入らない。柔軟性に欠ける。
 まず確実に返すこと。それを覚えることが基本。その柔かく受け止める感覚でなら、ラケットを横や下に動かし、横回転やナックル(下回転)性のショートにしてもよく入る。プッシュで相手強打をカウンターするようなプレーはよほどレベルが高くない限り不利になる。
2.両ハンドロング(ドライブ)でしのぐコツ
 相手の強打や強ドライブを中陣でのロング、ドライブでしのぐプレーもドライブマンには必要になる。
 この時のコツは、相手を左右に1本ずつゆさぶるようにすること。例えば、バック、フォア、バックとゆさぶると、フットワークの悪い選手なら打球の威力が落ちたり、ショート、バックロングになったりする。そこをすかさず強ドライブで反撃していく。
 難しいボールは両ハンドでていねいにコースをつき、相手が攻めあぐんだり待っているコースにきた時はすかさず強ドライブで逆襲する。これが中陣でのしのぎのコツである。
 そして相手の強行に対しては、ロビングに移る。
3.ロビングでしのぐコツ
 ロビングのコツは"真上にあげる感じで高くあげる"こと。手首でボールをこすりあげ、ドライブをかけて伸ばしてやると相手にとって打ちづらいロビングになる。
 あまりロビングの上手でない選手は、つい45度ぐらいの角度でロビングを飛ばそうとするが、この角度は一番飛距離がでやすく、オーバーミスがでやすい。中陣で低くつなぐボールと、一転して頭より高くバウンドするロビングのほうが、有効なしのぎになる。
 70~80度の角度で高くあげ、ネット際に落とす感じでドライブをかけてやると台のまん中に入りやすい。そこから、余裕のある時はもう少し伸ばしてエンドライン近くに落とす。
 ロビングは時間的な余裕がある。そこでミスを減らすため、順足(右ききのフォアハンドは左足前、バックハンドは右足前)にする。そうすれば、重心移動がきちんとできて安定する。体から遠いボールの時は、順足で交差させながらロビングするとよく入る。
 ロビングした後は、相手の次打球の最もとりやすいニュートラル(ラリー中の基本位置)に素早くもどる。

 しのぎを覚えるには

 しのぎを覚える基本練習としては
①.ツッツキを強打、強ドライブで攻めてもらいショートでしのぐ
②.連続強打(強ドライブ)をショートでしのぐ
③.連続スマッシュ(強ドライブ)を中陣ロング(ドライブ)でつなぐ
④.連続スマッシュをロビングで何本も拾う
...といった方法がある。
 ワンコースで何本でもしのぐ基本練習をしたり、カウントをとってゲームをしてみたり(必要ならハンデをつけて)するのもおもしろい。集中してやればかなりの効果が期待できる。ロビングであれば、オールや前後のフットワーク(ストップを使う)練習をすればより実戦的だろう。疲れた練習の最後に、5分間ほどロビングの練習を毎日やるのも良い練習方法である。
 しかし、こういった「しのぎのための練習」にたくさん時間をかけられる選手は少ないことと思う。そこで、練習時間の少ない選手は普段の練習の時に"しのぎ"を意識して練習することで、かなり良い練習ができる。
 例えば、筆者が一番しのぎのために役だったと感じている練習は「オールフォアで動くフットワーク練習」である。
 これはもともとしのぎのための練習ではないが「ノータッチは恥だ。どんなボールでもつなぐ」と考えて行なったことで、フォアサイドの体から遠いボールや、バックにつまった時のしのぎを、何度も転倒しながら体で覚えることができた。実戦では当然バック技術を使うから、両ハンドを使う練習も平行して行なったが、作戦としてオールフォアで戦う必要性のある場面や、こういったしのぎの強化のため「オールフォアで動くフットワーク練習」は大変良い練習であったと感じる。
 また、相手の攻める練習のパートナーを務める時や、ゲーム練習の時に「どんなボールでもあきらめないで絶対に返すぞ」と心がけることで、良いしのぎの練習になる。この心の持ち方が最も大切な点である。

 しのぎで一番大切なのは、気迫とがんばる心。実戦でこの心がなければいくら注文練習をやってみても試合ではなかなかしのげるものではない。
 実戦で相手に攻められた時「しのぎを身につけるチャンスだ」と必死にボールに飛びつき、しのぐ。この実戦でのがんばりが、試合でしのぎのうまい選手になる一番の近道である。
 D君、そして読者の皆さんも、がんばってしのぎのうまい選手になるよう期待しています。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1987年12月号に掲載されたものです。
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