「作戦あれこれ」第148回 両ハンド攻撃型にフットワークは要らないか?

 D君の友人U君は高校2年生のシェーク攻撃型。前陣両ハンドで合わせるのがうまく、最近は、はやりのバックドライブの練習に取り組んでいる。
 ところが、中学時代は合わせるプレーで県大会のベスト4まで勝ち抜いたこともあるU君が、高校の大会ではなかなか勝てない。合わせるボールをしのがれ、つなぐと威力のあるドライブで狙われてしまう。D君の目には、チャンスボールをフォアで決められないから勝てないように見える。
 そこで「フォアで動く練習をしたら」とアドバイスしたD君。ところがU君は「両ハンドを振る選手はフットワーク練習なんかいらないんだよ」と取りあわない。
 「そんなものかなー!?」
 ペンドライブ型のD君は、どうも釈然としない。

 フットワークは卓球の命

 意見の合わないD君とU君だが、この場面ではD君の言っていることが全面的に正しい。どんなスタイルの選手でもフォアハンドで決定球が打てなくては大成しない。どんな戦型の選手でも、フォアで動くフットワーク練習が必要である。
 U君に限らず、最近の中・高校生のシェーク両ハンド攻撃型のプレーを見ると「両ハンドを使うのだからフットワーク練習は必要ない」と日頃考えて練習しているのではないか、と思うような選手を見かける。そういった選手は特に ①フォアへきたボールを体を回して強く打てない ②フォアストレートのコースが打てない ③ミドルが弱い ④フォアへ動かされると攻めが続かない ⑤攻めていながら連続攻撃にミスが出る...といった欠点が目につく。
 シェーク両ハンド攻撃型に限らず、たとえバックを多用する戦型であっても、将来オールフォアで攻める戦術も使えるように、フットワークの練習を小~中学生のうちから習慣づけておくことが大切である。
 バック技術を全く練習しないでいると、将来速いプレーに対してバック技術が必要になった時にグリップや打法の関係でバック技術がうまく使えずに苦労する。それと同様、フォアで動く練習をせずに大学生、社会人になってしまうと、体の使い方や足の動かし方を1からやり直さなくてはならなくなり、やはり苦労する。大成という点から見ると、バックがへたなことより、フットワークとフォアハンドの悪いことの方が、後で後悔する可能性がより高い。

 一流ほどフットワークを重視

 フットワークとフォアハンドが弱いと、対カットや対ロビング...など、相手の守りがしっかりしている場合に打つ手がなくなる。せっかくサービスからのバックハンド攻撃で先手をとっても逆転されてしまう。
 バックハンドよりフォアハンドのほうが、威力、安定性ともに勝ることは、世界中の指導者の意見が一致するところである。
 体の回転をフルに活用して打てるフォアハンドは、威力が出るうえに、懐が深くなるため微調整がききやすくミスが少ない。また体を十分ひねることによって、ストライクゾーンが広がり、コースを読まれづらい。
 バックハンドにも長所が多いが「平行足になりやすいため、ストライクゾーンが狭い」「バックドライブはどうしてもフォアドライブよりも空振りがふえる」等、短所もある。
 そこで、中国のシェーク攻撃型は、サービスの後の3球目攻撃はオールフォアに近い形で行なう。相手にツッツかせ、3球目フォアドライブ一発で決める。そしてバックドライブを補助的に使う。
 ヨーロッパのグルッバ(ポーランド)、ワルドナー、パーソン(スウェーデン)といったバック攻撃の名手たちも、ここぞという時はフォアで回り込み狙い打ちする。
 バック技術を使う部分はバック技術を強くする。そして、戦型の必要性に応じて、フォアハンドとフットワークの強化練習をすることが大切である。

 基本的な三歩動

 さて、それではまずどんなフットワーク練習が必要だろうか?
 基本的なフットワークとしては、まず1本1本の左右動のフットワーク練習から始めたい。
 相手のショートやロングを左右に1本交替で回してもらい、それを3歩動(フォアへ動く場合、右利きの選手は右足を半歩動かし、左足を寄せ、右足をフォアへ動かして移動する方法)で動く練習は、日本の伝統的ともいえる良いフットワーク練習法である。
 「バック側のサービスをフォアでレシーブした後のフォアへの飛びつき」「フォアから攻めた後のチャンスボールを回り込んで攻める」...等、どのタイプの選手にとっても動きの基本になる。シェーク両ハンド攻撃型の選手であっても、バック側に回り込んでレシーブしたり、フォアドライブで回り込んで攻めるケースは多い。絶対に必要な練習である。

 必要な動きをマスターする

 ただし、フットワーク練習はあくまで「強くなるために必要なフットワークをマスターする練習」である。技術面での上達をまず考えるべきである。
 ところが、後で述べるが、フットワーク練習は体力面や精神面も鍛えられる練習であるので、つい技術面よりも体力面や精神面のための練習になってしまいやすい。
 体力面や精神面を鍛えるなら、それなりのテーマをもってフットワーク練習に取り組むのがよい。技術面を鍛えるのであれば、あくまでフットワーク技術を効果的にマスターすることを主眼に練習し、体力面、精神面の強化はそれに自然についてくる、という形が望ましい。
 「自分が強くなるために必要なフットワークをマスターする」意識が低いと、ゆっくり続けるだけのフットワーク練習のためのフットワーク練習になったり「不必要な回り込みや動きをして自分を振りにしている」と外国選手から批判されるようなムダな動きになってしまう。
 「自分にとってどういうフットワークが必要なのか」を常に考え、より速く、より大きく正確に動くためのフットワーク練習にしよう。

 レベルに合わせて行なう

 さて、その他のフットワーク練習の例としては
 (1)前後の1本1本のフットワーク
 (2)バックハンド+回り込みフォアハンド+飛びつき
 (3)オールフォアのランダム(レベルによって動く範囲を決める。攻撃的なボールでつなげるように)
 (4)ランダムに大きく回してもらい両ハンド
 (5)多球練習で飛びつきスマッシュ(強ドライブ)
 (6)多球練習で回り込みスマッシュ(強ドライブ)
 (7)多球練習でネット際に上げてもらい、レベルに応じた距離から飛び込んでフォアスマッシュ
 (8)(7)と同じ形でバックスマッシュ
...などの練習があげられる。
 この時に大切なのは、各個人のレベルに合わせて練習内容を決めること。まだ大きく動けない小学生や中学生の選手を必要以上に大きく動かすと、フォームや動き方がおかしくなって逆効果になる。小学生なら5分のフットワーク練習でもよい。各選手のレベルに応じて、時間、動きの大きさを設定しよう。

 技術と体力が身につく

 スマッシュをロビングでしのいでからの回り込みカウンタースマッシュ。フォアへ遠く離された後、バックへきたボールを飛び込みざまのバックハンドスマッシュ...等、フットワークのいい選手のプレーは豪快で、見ていて楽しくなる。もちろん、そういうプレーはやっている選手が一番楽しい。フットワーク練習の効果である。
 フットワーク練習には、こういった素晴らしい技術をマスターできると同時に、体力面、精神面を強化できる効果がある。
 例えば、体力面では、30分間フットワーク練習をやれば、これはランニングやダッシュと同じようなトレーニング効果があげられる。練習時間の少ない選手であれば、トレーニングがわりに、必死にフットワーク練習をやる手もある。そういった意味では、例えば基本的な3歩動の足の動きをマスターするために「ノーミスで1000本続ける」といった左右動の練習方法も考えられる。フットワーク練習は体力面の強化に最適である。

 精神的に強くなる

 さて、もうひとつ、フットワーク練習の効果として見逃せないのが、精神面の強化である。
 苦しいフットワーク練習によって、自分に自信がつき、「何くそ」というハングリー精神がでてくる。
 また、苦しい練習の中で「今の打ち方はどうか?次はこういう点に気をつけてやろう」と考えるクセをつけるようにすれば、試合後半の苦しい場面でも冷静にプレーを考えることができるようになる。大きな試合でも体力が落ちず、苦しい時でも最後まで我慢強く自分のプレーができるようになる。
 フットワークの練習はこのように心・技・体にわたって効果の高い練習である。スケールの大きい選手を目指しグングン強くなるためにフットワーク練習をしよう。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年10月号に掲載されたものです。
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