「作戦あれこれ」第159回 点、そして円を狙って打つ

 コースの意識が威力になる

 試合ではちょっとしたボールコントロールの差が、ラリー展開を大きく変えることがままある。
 何気なくフォア、バックに返す、場合によっては何も考えず相手コートミドルに返す...というのではかなりポイントを損してしまっている。コースを意識して打つのと打たないのでは、打球の"威力"がかなり違う。
 例えば、相手がバックに回り込み、ドライブ、強打でバックへ攻めてきた時(右対右)、相手のミドル付近に何となく返すのと、フォアコーナーいっぱいに狙って返すのでは大違いである。
 フォアコーナーいっぱいに返せば、ノータッチで抜けたり、相手がやっと返すだけの展開になる。フットワークのいい相手でも、無理にスマッシュすればミスしやすい。軽くプッシュして返せばまず狙われない。
 それに対し、コースを考えずにミドルに返した場合は連打を浴びることになる。回り込んでドライブし、ニュートラル(ラリー中の基本姿勢、位置)に戻ろうとする相手にとっては絶好のストライクになりやすい。まず十分な体勢で狙い打たれることになるだろう。
 同様に、レシーブ(右対右)でバックへツッツく時も何げなくバックコーナーに返すのと、バックサイドを切ってツッツくように心がけるのでは大きく展開が変わる。
 相手がフォアで3球目を狙っている時、バックへ素直にツッツくと練習どおりの展開となる。十分な体勢で、強ドライブ、強打...を浴びる。しかし、バックサイドを切るようにツッツくと相手はつまる。つまって持ち上げぎみのドライブになりやすい。サイドを切るボールを、無理して思いきって大きく回って攻めてきた場合は、次球をフォアいっぱいに返せば動く距離が大きくなる。4球目の攻勢がにぶる。かなり展開が変わってくる。
 二つほど例をあげたが、このようにちょっとコースを厳しくする意識があるのとないのとでは打球の威力がかなり違う。つまり、コースを意識して狙うように心がければ、打球の威力が増し、その分強くなれる。

 「点」を意識してコースをつく

 このように、コースを厳しく狙うように心がければ、それだけでかなり戦力がアップする。しかし、一流を目指すのであれば、単にコースを狙うだけにとどまらず"点を狙って打つ"レベルの高さが要求される。
 点、とはもちろん得点のことではなく、位置のことであるが、コース(フォア、バック)を漠然と狙うのでなく、ポイント(点)として意識して狙うのである。
 コースをつく時、点を意識して打球するようになれば「左右」だけでなく「前後」の深みがプレーにでてくる。レベルとしてはかなりのものである。すでに「点」を意識したラリーを心がけているのであれば、その選手はコースワークのいい、試合巧者と呼ばれていることだろう。
 「点を意識して打つ」ことは大切である。
 しかし、実際問題としては、打球コントロールのレベル、そして相手の打った打球の威力、その場の状況...によって、点で狙う範囲を変える、すなわち狙う円の大きさを変えたほうがよい。難しい状況で、厳しい「点」を狙ったのではミスになってしまう。
 相手のショートサービスが切れていない。変化も分かる。というなら、直径5㎝ぐらいの円でサイドを切って狙うことも可能だろうし、前陣でパワードライブをしのぐといった場合なら直径50㎝ぐらいの円で狙わなくてはならない場合もあるだろう。さらに、初心者に近い選手であれば、円の大きさはもっと大きくなっても一向にさしつかえない。要は、サイド、エンドを割らないギリギリの大きさの円を「位置を意識して」打つよう心がけることなのである。

 「前」「中」「後」を使い分ける

一般的にいって、点を意識して打つ台上ポイントはフォア、バック、ミドルの「前」「中」「後」各3ポイント。計9ポイントである。そしてその9ヵ所を基準に、円の大きさにより若干中心の点をずらす。場合によっては相手のミドルを狙うために位置をずらすこともあるが、基本はこの9ヵ所を意識して常に狙うよう心がけることがコースの厳しい選手といわれる条件である。
 ところがこの9ヵ所のポイントも狙える時とそうでない時がある。
 例えばバック前にきたショートサービスに対するレシーブであれば、①バック前にストップ ②バックサイドを切り(中間の深さに)タイミングの速いツッツキ ③バックコーナーいっぱいに鋭く切ってツッツキ...といったコースワークが考えられる。ところが、中~後陣に下がってつなぐ...というのでは、せいぜい狙えても台いっぱいの深さと中間の深さで、ネットぎりぎりのポイントは狙えない。またそういう場合は深いボール以外狙う必要性はない。
 一般的にいって、ある程度までのレベルであれば、サービス、レシーブは「前」「中」「後」の9ポイント、ショート、ループは「中」「後」の6ポイントを使い分け、ラリーになってからはフォア、ミドル、バックいっぱい(「後」)の3ポイントを意識して打てればよい。
 また、最近はカット打ちで、ロング(ドライブ)による前後の攻めのうまい選手が少なくなったが、カット打ちの場合は、深いボールと浅いボール(中間位置)を打ち分け、ストップでネットぎわによせる、といった「前」「中」「後」の9ポイントの攻めができるとよい。浅いループや伸びるドライブを使い分けられると、グッとチャンスをつくりやすくなる。
 同様に、攻撃選手を相手にした時も、よく回転をかけたループで前後に攻められると浅いループを処理できない選手は多い。またショートもプッシュばかりでなく、ストップ性のショートを使えるようになると戦い方に幅がでてくる。すぐ下がる相手に対してはプッシュよりも効果的である。

 サービスで「点」を狙う

 このように「円でコースをつく」ためには、なんといってもボールコントロールが大切になってくる。サービス、レシーブ練習はじめ、あらゆる練習の時に円を狙ってボールを打てるように練習することである。
 一番簡単にボールコントロールの練習ができるのがサービス練習である。
 筆者はよくボール落としのサービス練習をしたが、練習しだいでは、ドライブロングサービスで、フォア、ミドル、バック...と連続して当てることも可能になってくる。また、切らないショートサービスでボールを当てることはやさしいが、試合で切るサービスを多用する選手であれば切るサービスでボールを当てられるように練習すべきだろう。一流選手であれば、切らないフォア前サービスでエッジを狙うことはそう難しくない。ただ緊張した場面であると普通に入ってしまったり、ミスがでる、またフェアプレーの感覚からいってやらないだけである。このようにサービスでは小さな円を狙いやすい。すくなくとも必要な時に台上ツーバウンドするサービスが出せるように練習しておこう。

 コントロールをつける練習

 基本練習の時に点を意識して狙って打球練習するクセをつけることも大切である。
 ロング、ショート、ツッツキ、ドライブ...等、直径10㎝ぐらいの円を想定し、そこに入ればOK、入らなければミスと思って練習する。そういう練習をしているとき実戦でコーナーぎりぎりを狙ってつなぐことができる。
 ところが、たいていの選手は、ボールが散ってしまっても、フォア、バックに入ればそれでよしとしている。何の反省もない。これだと、ちょっと緊張した場面でコースをつくと、ポロッとミスがでる。一流選手になるほど、コントロールに対する意識が高くなるのである。
 このボールコントロールをつける練習としては100本ラリー、1000本ラリーの練習がある。
 練習時間の少ない選手があまりゆるく1000本続ける練習ばかりしても意味がないが、1000本ラリーには、フォームを固め、ムダな動きをなくす...など、ボールコントロールをつけるためには意義がある。また、卓球の練習は集中して練習しないと意味がない。一日の猛練習でつかれ、集中力がおちてきた時など、ある程度のピッチで小円を狙い100本ラリーをする、正確に中円を狙い1000本ラリーを続ける...などは、おもしろくて良い練習である。集中力、粘り、自信をつけることができる。
 もうひとつ、集中力が落ちてきた時のおもしろう練習としては、スマッシュ、強ドライブによるボール落としの練習がある。中高生ではすこし難しいが、ボールを台の上に置いて、①フォアスマッシュで落とす ②3球目ドライブで落とす ③切ったツッツキで落とす ④払うレシーブで落とす ⑤ロビングで落とす ⑥ループで落とす ⑦バックスマッシュで落とす ⑧ストップで落とす...など色々な打法でボール当てをするのもおもしろい。
 3球目ドライブでボールが落とせるようになれば、実戦でコーナーぎりぎりにドライブが入るのは当たり前。楽な気持ちで、練習の最後に、ボール落としの練習に挑戦してみよう。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1989年10月号に掲載されたものです。
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