「作戦あれこれ」第163回 相手の読みをはずす

 ヨーロッパの躍進、中国の不振

 ここ数年の世界の男子卓球の流れを見ると、最強を誇った中国の牙城(がじょう)が崩れ、ヨーロッパ勢、韓国勢が中国を上回る力を見せている。
 その原因はいくつかあげられるが、最も大きな要因はテクニックで中国に引けをとらなくなり持ち前のパワーに結びつけられるようになったことだろう。
 かつて中国が全盛を誇っていた当時は、サービス、レシーブで先手をとり、ラリー戦になる前にかたをつける、もしくは中国が有利な形でラリー戦に入るケースがほとんどだったが、最近では、全体的なピッチの速さは中国が上回っているものの、ヨーロッパ勢、韓国勢にはしのぎの強さとプレー全体の変化があり、ここぞという時はサービス、レシーブから中国に一歩もひけをとらない速攻を見せる。むしろ中国勢の方が手の内を知られ、打つしかない単調なプレーでミスを重ねているのが現状である。
 世界選手権というと新手をみせ「相手に何をするか分からせない」多彩なプレーで勝ち進んできたのが中国。それが逆に相手に手の内を知られ、相手の手の内は良く分からないというのでは、最近の不振もやむを得ないものがある。

 世界チャンプが心がけていること

 オリンピック金メダリストの劉南奎(韓国)は「ヨーロッパ勢に比べ、日本選手のプレーは型にはまって素直で、次に何をするか読みやすい」と言う。また世界チャンピオンのワルドナー(スウェーデン)は、プレーする時、常に心がけているのは、次に何をするか相手に読ませないことだと言う。両者の話からしても、最近のヨーロッパ勢のプレーの傾向がうかがえる。
 戦型のいかんをとわず「相手に次に何をやるか読ませない」ことは勝つために非常に大切な要素である。同じボールを打っても、相手がそのボールを読んでいるかいないかで、こちらの得点になったり、相手のチャンスボールになったりする。超一流になったような選手は、初めて対戦する相手は思わずノータッチをくらってしまうような、個性的なエースボールをもっているものなのである。

 同じボールに対し3種類の攻めを

 読者の多くは、サービスの時はおそらく相手の意表をつくようなサービスを何種類か持っていることだろう。また、そこまではいかなくても、同じようなフォームから数種類の変化サービスを出したり、ロングサービスとショートサービスを使い分けて相手の読みをはずすことができることと思う。
 では、他の技術の時はどうだろうか?スマッシュ、ドライブ、ツッツキ、ショート...等になるとコース、回転が決まっていて、試合後半になると相手に慣れられてしまう、というようなことはないだろうか?サービスと同じとまではいかなくても、何種類かのボールを使い分けられれば相手の読みをはずすことができる。勝負強い一流選手になると、得意のコース、攻めをなるべく使わずにとっておいて、後半の山場に使うから、競り合いに圧倒的な強さを見せるのである。
 筆者は以前「サービスはじゃんけんと同じ」と書いたことがある。これはじゃんけんで「相手がグーを出しそうならパー。パーを出しそうならチョキ」と相手を読んで次に出すのを決めるのと同じように「相手がフォア前を狙っているなと思えばバックへのロングサービス。相手が回り込みそうだなと思えばフォアへのロングサービス」と相手を読んで出すのがサービスのコツという意味である。
 じゃんけんでグーしか出さないのでは勝負にならない。同じように、同じコースにしかスマッシュしなかったり、一種類のドライブしかかけられないのでは、まず試合に勝てない。同じボールに対し、最低3種類の球種で攻められるようにしたいものである。

 決定打のコースを読ませない

 それでは、どんな打法を身につけたらよいか、いくつかの例をあげてみよう。
 まずスマッシュである。
 スマッシュやパワードライブは「相手に読まれても効く」だけの威力がある打法なので、試合の時には「スマッシュ、パワードライブで攻められる時はテクニックに走りすぎず、パワーで押しきる」ことが基本である。
 しかし、そうはいっても待たれればやはり止められてしまうので、フォア、ミドル、バックへの打ち分けは絶対に必要。特にストレートに打てなくてはいけない。「相手の読みをはずす」ためには低いボールもスマッシュで狙えることでが、これは危険性も高い。まず浮いたボールをドライブでもスマッシュでも攻められるようにすること。そして低いボールはドライブの変化で攻め、チャンスボールを流しスマッシュや、バックスイングで体を大きくひねってからストレートに打てるように研究すべきだろう。
 フォアハンドのドライブは、ドライブマンであれば絶対に相手の読みをはずす工夫が必要である。
 ループドライブ、スピードドライブ、流しドライブ、巻き込みドライブ...等が基本だが、そのほかにも回転をあまりかけないドライブ、スピードと回転を組み合わせた様々なドライブ、逆モーションの工夫、強打との組み合わせ...などで、多種多様なドライブをかけることができる。最近であれば早い打点のドライブなども相手の読みをはずす武器である。速いドライブばかりかけるより、ループを混ぜることで速いドライブがいっそう効くことを理解しよう。振りが遅いと、ドライブが単調になるので、スイングを速くする体の使い方の研究、トレーニングを忘れずに。

 台上処理で読みをはずす

 ツッツキは、それ自体でも切るツッツキ、切らないツッツキ、流しツッツキ、早いタイミングのツッツキ...等、色々あるが、相手の読みをはずすという点から考えると、台上処理としてストップや軽打といっしょに考えたほうが分かりやすいだろう。
 相手の小さいカットサービスに対してツッツく、もしくは相手のストップレシーブに対してツッツくという時に、回転量の少ない素直なツッツキでバックにツッツくだけでは、レベルが上がるに従って勝てなくなる。
 右対右の対戦で、バック前のボールに対して先手をとるためには、切ってバックへツッツく、バックへ食い込むように横回転を入れタイミング早くツッツく、小さくストップする、流してバックハンドで払う...などのプレーで相手の読みをはずすことが大切である。一度に全部マスターすることは難しいので、次の自分のプレーがやりやすいことを前提に、3~4種類の威力ある技術を選びしっかり使えるようにしていこう。
 台上ボールでの先手争いはつい無理をしがちだが、相手もこちらのプレーを読んでいなければそうそう全力では攻められない。あせってミスしないよう、コースをついてミスしないように返球し、ラリーに持ち込むように心がけよう。

 バック系技術も単調にしない

ショート、ハーフボレ―は、同じようなバックスイングからクロス、ミドル、ストレートに打ち分けられることが何よりも大切である。
 ペンの選手で、ショート、バックロングのコースがクロスにしかいかない選手が多いが、これでは苦しい。スムーズにコースを打ち分けられるよう研究しよう。ショート的な体の使い方をすれば、ペンのバックロングもスムーズにストレートに振れるはずである。
 バック側の得意な選手は、ドライブに対し、ストップぎみにカーブやシュートの横回転を入れたり、パンとはじいて返すことで、相手の読みを完全にはずすことができる。高校生クラス以上のシェーク選手であれば、ぜひこういった技術を目標にがんばってほしいものである。

 作戦的に相手の読みをはずす

 ひとつひとつの打法について書いてきたが、実戦ではそういった技術をどのように使っていくかが大きな問題になる。
 細かい作戦についてはまたの機会に述べるとして、試合運びのうまい選手が実戦でやっていることを大別すると「回転系の攻めとスピード計の攻めの組み合わせ」「自分で攻めるのと相手にやらせて逆用する作戦の組み合わせ」がある。このことを頭においてプレーすると相手の読みをはずすことができる。
 たとえば下回転の切れたサービスからのループで得点をとったとする。相手は回転の変化のほうに頭がいき「どのようにレシーブしようか。どのようにループを処理しようか」と考える。その時にバックへのロングサービスから3球目強打のスピード系の攻めに切り替えると、相手は十分な対応ができなくなり、また回転系の攻めが効く。
 同じように、こちらの攻めに対し、初めから守りと決めつけている相手には、例えば大きいカットサービスや3球目ツッツキを使って相手に攻めざるを得なくさせ、崩していく。こういった作戦を使い分けていく。
 攻めに守りに、無理をするのではなく自然な形で、相手の読みをはずすプレーをしていこう。



筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1990年2月号に掲載されたものです。
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