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ペンドラの求道者 小西海偉 
第1回 卓球への思いと用具へのこだわり

 その道をストイックに究めようとする者を「求道者(ぐどうしゃ)」という。40歳を越えてなお、ペンホルダーのフォア面のみを使い、シェークハンドの先鋭たちに抗う小西海偉(東京アート)を言い当てる言葉ではないだろうか。
 2回の全日本王者や世界卓球ベスト8など輝かしい経歴を持つ小西は、ベテランと呼ばれる年齢をとうに越えた今も、さらなる強さを求めてラケットを振り続けている。
 引退してもおかしくない年齢を過ぎてなお、小西を突き動かしているものは何なのだろうか。この特別企画では、ペンドラ(ペンドライブ型)というプレースタイルを極めようとする求道者・小西の卓球観と技に迫る。
 第1回は、小西が卓球への思いと用具に対するこだわりを話してくれた。

※本文の技術解説は右利きプレーヤーをモデルにしています

卓球のことを、愛しています

−40歳を越えてなお、ペンドラとして第一線で続けられる理由は何ですか?
 理由ですか?自分が天才だからじゃないですか。やっぱり天才は最後に残るじゃないですか(笑)
 それは冗談として、「なぜまだできるのか」と自分自身に質問することはあります。ただプレーするだけじゃなくて、まだ勝てる。それは、やはりほかの人とは少し違う才能を持っているからだと思います。

−ほかの人と違う才能とは、具体的にお聞かせください
 僕は高校生の時に(中国から)日本に来て、高校時代(青森山田高)から厳しい練習をスタートしました。そこがベースです。厳しい練習にきちんと取り組んでいろいろな試合に出て、そこで成績を出して、一つ一つ自信を重ねることができました。
 40歳を過ぎましたが、幸いにも大きなけがをしなかったことも才能でしょう。でも、ちょっとプレーするとどこかしら痛くなりますが(笑)
 それと、やっぱり卓球のことを愛しています。

--卓球に打ち込める才能ということでしょうか
 そうですね。勝ちたい気持ちは強いし、楽しいです。たまにやりすぎると、「卓球はもういいかな」と思うこともありますが、でも2日くらいたつと「ああ、やっぱり卓球やりたいなあ」と思うんです。なので、やっぱり自分は卓球を愛している。その気持ちが強いですよ。だから、まだ続けているんですね。



 卓球を好きで愛している選手はたくさんいると思うが、面と向かって「卓球を愛している」と言える選手はどのくらいいるだろうか。なんのてらいもなく、卓球への愛を宣言できる純粋無垢さに、小西の本質的な強さを見たような気がした。
 続いて、ペンホルダー最大の武器であるフォアハンドドライブについて尋ねたところ、小西は技術的なポイントの質問をさえぎって、用具へのこだわりから話し始めた。

ラバーが重要。テナジー64を使い続けています

−ここから、技術的なことについてお聞きします。まず、フォアハンドについてですが......
 正直に言っていいですか?(技術的なポイントの前に)ラバーですよ。自分のフォアハンドドライブは威力があると言われますが、それはテナジー64だからです。テナジー64はスピードが出るので、ずっと使い続けています。これは宣伝じゃありません。やっぱり自分の腕だけでは限界がありますから。
 テナジー64はスピードが出る上に、後ろに下がってもロビングがやりやすい。私はフォアハンド中心のプレースタイルだから、このラバーの良さがよく分かります。
 ほかのラバーもいろいろ試しました。テナジー05は回転がすごくかかるし、深いボールも出せますが、スピードではテナジー64に及ばない。ディグニクスシリーズも試してみましたが、自分もコントロールしやすい半面、ブロックしたときの軌道が高くなって相手にとっても打ちやすいボールになると感じました。
 テナジー64は打球の軌道が低くなりやすい上に、テナジーシリーズの中では使っている人の割合が少ない。使っている人が少ないということは、相手にとってやりにくいということでもあります。
 このような考えから、自分はテナジー64をずっと使い続けています。

--技術的なことの前に、まずラバーが重要なんですね。ラケットについてはどうですか
 ラケットは自分のモデルである吉田海偉です。いいですよ、飛びます。19歳の時に(当時用具担当だった)久保さんに勧められて使ってみて、最初はあまり良いと思いませんでしたが、西日本(西日本卓球選手権大会)の決勝で朱世爀(元韓国代表)に勝って、「このラケットいいですよ!」って思い、使うことに決めました。それからずっと使い続け、31歳の時に新しい吉田海偉に変えて今に到ります。

2002年西日本卓球選手権大会時の小西。小西はこの大会の優勝を機に吉田海偉を愛用する



--特殊素材が入っているラケットは試しましたか
 試しましたが無理でした。水谷隼 ZLCとかいろいろ試してみましたが、全部真っすぐ飛ぶので自分でコントロールできない。ああいうラケットは超天才じゃないと使えないですよ(笑)。確かに打ちやすいし入りやすいけど、ボールが全部真っ直ぐなので、大事なときにコントロールできません。逆に、(自分が使っている7枚合板の吉田海偉のように)木の7枚の方が自分の力とかラバーの性能を生かせると思っています。
 よく奥さん(元日本代表の小西杏さん)にも「新しいラケット使ったら?そしたらもっと勝てるよ」って言われるんですけど、ラバーもそうですが、なかなか変えない。結構、頑固っす(笑)

−小西選手のラケットは比較的軽いですよね
 軽いです。この年になって重くしようとしても慣れません。ラケットには癖があって、プレーがうまくいかないときは絶対にラケットの影響があります。若いときはあまり気にしませんでしたが、この年になると、グリップ部分がちょっと細いとか高いとか、すごく気になるんですよね。超神経質です(笑)
 夏だと、たまに汗がラケットに入るんです。そうすると、下の方(ラケットの先の方)が重くなって、次の日、全然感覚が違う。なので、ドライヤーを使ったり、天気が良ければ外に出して乾かしたりすると、軽くなって飛ぶようになるんです。

--ラケットの裏面にはスポンジを貼っていますね
 奥さんからもらったものです。普通のスポンジですが、1グラムでも重くなるとラケットが重くなるし、今よりちょっとでもスポンジが硬くなると指が痛くなるのでだめです。本当に神経質ですね。

--裏面にラバーを貼ろうと思ったことはありますか
 日産自動車時代にちょっとだけ試したことがあります。角ペン(日本式ペンホルダー)も。角ペンは、ラケットが小さくてショートが難しいんですよね。ショートやサービスが全部ラケットの角に当たるので、どんだけセンスないんだって(笑)。3日でやめました。
 裏面も重すぎて打ったら戻れないんですよ。回り込みができなくなるし、自分には合わない。だから、もうあきらめました。

--ラケットの削り方にはこだわりがありますか
 グリップは普通のペンよりも太いので、少しずつ削りますが、あまり奥までは削らないようにしています。

小西が絶対の信頼を置く、吉田海偉×テナジー64。指が触れる部分はあまり削りすぎないことがポイントだと小西

裏面には、指がすべらないよう、重さや硬さにこだわったスポンジが大きめに貼られている

 何よりも重要だとして、用具のこだわりについて語ってくれた小西選手。用具への絶対的な信頼と1グラムにこだわる妥協のない姿勢、繊細な感覚が、小西選手の強さのベースになっていることがお分かりいただけたと思う。
 次回は、ペンドラ最大の武器であるフォアハンドドライブの具体的なポイントについて紹介しよう。

↓動画はこちら

(取材/まとめ=卓球レポート)

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