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ペンドラの求道者 小西海偉 
第5回 練習方法とメッセージ(最終回)

 その道をストイックに究めようとする者を「求道者(ぐどうしゃ)」という。40歳を越えてなお、ペンホルダーのフォア面のみを使い、シェークハンドの先鋭たちに抗う小西海偉(東京アート)を言い当てる言葉ではないだろうか。
 この特別企画では、ペンドラ(ペンドライブ型)というプレースタイルを究めようとする求道者・小西の卓球観と技に迫る。
 最終回は、小西の練習に対する現在の考え方と具体的な練習内容、そしてペンドライブ型の選手へ向けたメッセージを紹介しよう。
※本文の技術解説は右利きプレーヤーをモデルにしています

けがに注意し、もっと卓球を続けるために自己管理を徹底する

−小西選手が長くプレーを続けられる理由として、体の強さもあると思います
 体の強さは関係ありますね。自分はストレッチやアイシングなどをしっかり行い、誰よりもしっかり自己管理している自負はあります。練習前後のストレッチなどにかける時間は、若い頃に比べると長くなっていますね。
 たまに、チームメートが練習が終わって早く帰るとき、うらやましいなって思うときがあります。自分も練習が終わってぱっと帰りたいなって。ストレッチやアイシングは、正直時間がかかるし面倒くさい。
 でも、けがをするのが怖いんですよ。何歳まで卓球を続けるかは分かりませんがもっともっと続けたい。そのためには自己管理をしっかりしないといけないと思って取り組んでいます。

--練習内容は若い頃と変わりましたか?
 そうですね。昔みたいには練習できません。昔みたいに練習してしまうとけがをしてしまうと思います。なので、けがを防止するためのトレーニング方法をしっかり考えていますし、練習内容も考えています。
 毎回試合が終わった後、反省をしながら練習メニューを少しずつ変えています。試合前に行っていた練習内容が合っていたかどうかを試合が終わってチェックし、だめだったらまたメニューを変えます。フットワークのメニューなど、全部そうです。

--今でもフットワークの練習には時間を割きますか?
 特に、試合前は結構フットワークの練習をします。でも、普段はけがが怖いのでマイペースでフットワークを練習していますね。
 繰り返しますが、やはりけがが1番怖い。そのあたりは20代の頃とは違います。

節制を欠かさないという小西。その体躯は若手以上に精悍だ

 競技生活を長く続けるためには、技術や戦術に秀でていることはもちろんだが、「けがをしない体づくり」が占めるウエートも大きい。けが予防に細心の注意を払い、ストイックな日々を送っているという小西の言葉を聞くと、彼が40歳を越えてなおトップレベルの力を維持できていることもうなずける。 
 ここからは、小西が現在、取り入れることが多いという練習メニューを3つ紹介してくれた。

【練習1】
左右に1本ずつフットワークする練習

練習相手はフォア側→ミドル(センターライン付近)に1本ずつ交互にブロックし、練習する選手は左右に動いて全てフォアハンドドライブで打球する

【練習2】
フォア側→ミドル→バック側→フォア側の順にフットワークする練習

練習相手はフォア側→ミドル→バック側→フォア側の順にブロックし、練習する選手は全てフォアハンドドライブで打球する

【練習3】
フォアハンドドライブとショートを1本ずつ切り替える練習

練習相手はフォア側→バック側に1本ずつ交互にブロックし、練習する選手はフォア側に来たボールはフォアハンドドライブ、バック側に来たボールはショートで打球する
 小西が紹介してくれた3つの練習は、どれも基本的な内容のメニューだ。これらの練習メニューは、強くなるためにはフットワークやフォアハンドドライブ、切り替えなどを地道に継続して磨くことが大切だということを教えてくれている。ペンドライブ型の選手はもちろんだが、シェーク攻撃型の選手もぜひ参考にして、日々の練習に取り入れてみてほしい。
 最後は、小西がペンドライブ型の選手たちへのメッセージと、自身の目標について話してくれた。

今の時代、ペンは大変だけど良い部分もある。
自分は死ぬまでペンドラ

--シェークハンドの選手をうらやましいと思ったことはありますか?
 それはあります。奥さん(元日本代表の小西杏さん)に「俺、シェークだったらもっと勝てていたな」と話したことがあるんですが、そうしたら「あなたがシェークだったらもっと弱い。多分、相当早く引退している。ペンだからここまでプレーできているのよ」と言われました。

--それはどういう意味でしょうか?
 最後まで聞いていないから分かりません。でも、恐らく、「ペンだから努力し続けてこられた」という意味だと思います。やはり、ペンは大変な仕事です。だから、自分の性格に合っているんだと思います。負けず嫌いだとか、テナジー64をずっと使い続けているとか、裏面を貼らない頑固な部分だとかが。これで(ペンドラで)勝つ。その気持ちが強いです。

--ペンドライブ型の選手たちへメッセージをお願いします
 今の時代、ペンは大変ですけど、楽しい部分はあります。特に、勝った瞬間はマジでうれしいんですよね。だから、シェークに変えないように、ペンでずっと頑張ってほしいなと思います。
 ペンには必ず良い部分があります。カットマン(カット主戦型)みたいに粘り強いし、かっこいい。確かにシェークの方が簡単かもしれませんが、ペンにはペンの良いところがあるし、特徴がある。それを忘れないでペンをずっと続けてほしいと思います。
 私も死ぬまでペンを変えません。勝ったときに、やっぱりかっこいいですから。

--最後に、今後の目標をお聞かせください
 ちょっとあり得ない夢があります。もう1回全日本チャンピオンになりたい。2年くらい前に、隼(水谷隼/木下グループ)や張本(張本智和/木下グループ)に勝つ夢をよく見ていました。まあ、ちょっとあり得ないんですけれど。でも、やはりチャンピオンになりたい気持ちがまだあります。
 隼や張本がオリンピックや世界選手権に出ている様子を見ていると、「懐かしいなあ。俺にもそういう時があったなあ。もう1回日本代表に入りたいなあ」という思いが強くなります。
 日本代表では良い思い出があります。特に、横浜の世界選手権(2009年世界卓球選手権横浜大会男子シングルス)で韓国の選手(金廷勲)に勝ってベスト8に入った時、チャンピオンになったみたいに両手を掲げました。あのシーンは何回も見ました。たまに娘にも見せるんですけど、全く興味ないんですよね、必死だったのに(笑)。それが悔しい。
 だから、もう1回日本代表になりたい、チャンピオンになりたい。まだ引退しないし、続けるからにはそういう目標を持っています。ただ、言えなかっただけです。でも、聞かれたから、今言うしかないなと。

夢を追い求めて、小西のペンドラを究める道は続く

 もう1度チャンピオンになって日本を背負いたい。あり得ない夢と前置きしつつ、小西は最後に秘めた目標を明かしてくれた。
 40歳を越えた小西が、精鋭ひしめく日本代表に返り咲くのは、確かに夢物語なのかもしれない。しかし、その可能性が決してゼロではないことは、若手を上回る気迫と動き、そして年齢を重ねたからこそ備わるうまさで勝利を重ねる小西のプレーが証明している。
 誰よりも卓球を愛し、現役にこだわり、ストイックな日々を過ごす小西。ペンドラという険しい道を究めようとする求道者の旅は、まだ道半ばだ。

↓動画はこちら

(取材/まとめ=卓球レポート)

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