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2019年世界ジュニア 渡邊ジュニア女子監督個人戦総括
「個別の選手対策の成果が出た」

世界ジュニア卓球選手権タイ大会が、コラート(タイ)のターミナル21で11月24日~12月1日まで開催された。卓球レポートでは大会最終日、全種目終了後に渡邊隆司ジュニア女子監督に日本女子の個人戦の戦いぶりを振り返ってもらうと同時に、各選手の、またチームの課題と展望についても話していただいた。

メンタルのコントロールに成長を感じた(長﨑美柚)

 長﨑は試合をしていくごとに調子を上げていきましたが、準々決勝の陳熠(中国)、準決勝の呉洋晨(中国)戦は、出来はそれほどよくなかったと思います。それでも、いろいろな局面の中で、凡ミスもありましたし、たぶん迷いもあったと思いますが、劉楽コーチの助けもあって、できるだけいい展開になるような選択をしながら勝ち切れた、そういう内容だったんじゃないでしょうか。
 決勝の小塩戦は、中盤くらいまでは非常に慎重にプレーしているという印象を受けました。いつもだったらもっとパワーで押しにかかるところを、回転をかけて慎重にプレーしているなと思いました。中盤以降は小塩もいいプレーをしていましたし、勝ちを意識したのか、ちょっと焦って雑にはなっていましたが、自分から声を出したり、気持ちの大事さは今大会を通して学んだことだと思います。第6ゲームは、自分で自分を鼓舞しようとしているな、コントロールしようとしているなというのは見ていて成長を感じましたね。
 私はJNT(ジュニアナショナルチーム)の監督になって今年で3年目です。今までは大会ごと、合宿ごとにキャプテンを設定していましたが、今年度は選手全員が集まった最初の合宿で「今年度のキャプテンは長﨑にする」と皆に伝えました。
 後輩たちに対して責任感が芽生えることで、精神的にも粘り強さが増すのではないかと期待してのことです。アジアジュニアでも今回の世界ジュニアでも団体戦の試合の直前に、長﨑には、その時のチームの状況に合った言葉をチームメートにかけてもらってからスタートするようにしました。
 団体の準々決勝、準決勝でチームが対戦相手に向かっていけなかったことは、長﨑本人もおそらく理解していたと思うので、決勝では「向かっていきましょう」というメッセージをチームメートに伝えてくれていました。試合前から戦う姿勢を示してくれていたのは非常によかったと思います。チームのまとめ役としてもよく頑張ってくれました。

大会期間中に急成長を感じた(小塩遥菜)

 小塩は素晴らしかったですね。特に、石洵瑶との試合は素晴らしかった。他の試合と並行して見ていたので、深くは見れていませんが、石洵瑶は小塩のフォア側にドライブを集めて、決定打をバックサイドに打つという戦術だったと思いますが、小塩のフォアカットがミスなく、ある程度深く入っていて、石洵瑶がなかなか決定打を打てませんでした。石洵瑶にはアジアジュニアに続いて2連勝、しかも、今回は完勝と言っていい内容だったので、大会期間中に急成長を感じました。大会前にそれがわかっていれば、団体戦のオーダーも違ったかもしれません。
 準決勝で対戦したキム・ウンソンとはアジアジュニアでも団体の準決勝で当たっていて、5ゲーム目の途中で促進ルールが適用されて、促進になった瞬間に、小塩がリードを離して勝ちました。それを踏まえておそらく序盤から促進にしようと思っていたのだと思います。攻撃も練習してきて、本当はもっと実戦で使えるレベルになっていますが、キム・ウンソンを上回っていました。
 決勝は少しナーバスになっていたのかミスが多かったですね。長﨑のドライブは見た目よりも回転がかかっていて威力もあるので、そこでちょっと戸惑ってしまったのかなという印象です。第4ゲームでしっかり球質をつかんでからは、カットのみすが少なくなったので能力は高いと感じました。

出澤対策を乗り越えてほしい(出澤杏佳)

 出澤さんは、大会前から中国が対策を立ててきているという情報も入ってきていて、団体戦も苦しかったと思いますが、個人戦はもっと苦しかったんじゃないでしょうか。団体戦で2試合やってそこですべてを見せ尽くしてしまったので、中国の対策も進んだでしょうし、シングルスで対戦した呉洋晨も対戦するときのイメージをしていたと思います。監督の閻森のベンチコーチも研ぎ澄まされていった印象を受けました。そこは出澤に不利に働いたかもしれません。
 呉洋晨との試合では、呉洋晨が少し距離をとって緩い球を入れてきたので、1球目から「まずいな、対策されてるな」と思いましたね。出澤はやりにくいだけではなく、力のある選手だと思っていますが、中国はその上をいく対策をしてきていました。出澤さんには「対策されたら厳しい選手」ではなく、相手が対策してくるのは分かっていることなので、その1歩も2歩も先を行くような進化を見せないといけない。それは今朝、2人でミーティングした中で、おそらく理解してくれたので、これから出澤さんのプレーがどんな風に変わっていくのかというのはすごく楽しみですね。
 ツブ高ラバーも北朝鮮のキム・クムヨンのような多彩な使い方ができるので、強く打たれたボールやツッツキに対しての技術はまだまだ改善の余地があると思います。今回の世界ジュニアで出澤さんは苦しんだと思いますが、非常にいい経験をしたのではないでしょうか。

ダブルスは練習の成果が出ていた(木原美悠)

 木原は、2回戦の蒯曼(中国)戦の1ゲーム目でリードしていて、追いつかれそうになってタイムアウトを使ってしまいました。そのゲームは取ったので、タイムアウトを使ったことは悪くはなかったと思いますが、このゲームをすんなり取れていれば、タイムアウトを後半にとっておけたので、そこはもったいなかったですね。2対0から追いつかれた後半の苦しい局面で、相手の流れを止めたり、戦術を立て直すのにタイムアウトを使いたかったというのはありました。
 ダブルスに関しては、レシーブが課題で、ダブルスの練習の50%くらいレシーブに費やしたんじゃないかというくらい練習をして今大会に臨みましたが、その成果がすごく出ていました。混合ダブルス決勝の第1ゲーム7-7から木原のレシーブエース2本で9-7になってそのゲームを取って、そのまま勢いづいてストレートで勝つことができました。女子ダブルスにもその勢いが加わったと思います。もともとサービスがいいので、そこにレシーブでの得点や、4球目につながる台上プレーが成長したのはダブルスにおいてはすごくよかったですね。
 シングルスはアジアジュニアに続いて、早めに負けてしまったので、今年の長﨑のようにリベンジして優勝を目指してほしいなと思います。

個別の選手対策に成果

 中国がチームとして強いというのはもちろんあると思いますが、今回の4人の代表の中でもすごい差はあるんですね。陳熠には、長﨑も木原も勝っていますし、小塩は石洵瑶に勝っています。特定の選手ではなく「中国選手」が競り合いに強いとか、ちゃんと技術の選択ができているとか、そういう考え方には危険なところがあると思っています。そう考えてしまうと、強くない中国選手まで強く感じてしまうことにつながります。それは日本としてやってはいけないと僕は思っています。
 たとえば、石洵瑶は対攻撃には強い、凡ミスをしないとか個別の分析には意味がありますが、「中国対策」と言っているだけでは本当の中国対策にはなりません。中国が「日本対策」をしているかと言ったら、そのようなことは絶対にしていないですよね。やっているのは、伊藤美誠対策であり、平野美宇対策であり、石川佳純対策なわけです。
 そこで今大会は初めての試みとして、情報スタッフにお願いして、たとえば石洵瑶と対戦する時に日本のそれぞれの選手が見るべき映像を用意しました。長崎であれば、過去の対戦に加え、同じ戦型の早田ひなが石洵瑶と対戦している動画の中で、サービス集とかレシーブ集などを作ってもらい、それぞれの選手にとってピンポイントで参考になる映像を入れたiPadを渡して見てもらいました。大雑把に中国対策というのではなく、こういう細やかな意識を選手にも植え付けたかったんです。担当コーチにもこの映像を見てもらうようにしていたので、その成果は出ていたと思います。

 とはいえ、石洵瑶や蒯曼など日本選手を破った中国のトップ選手は、競った場面で最適の選択ができているなとは思いました。その戦術の選択にはコーチも関係していると思いますが、コーチの指示通りに選手ができるとは限りません。採用できる戦術の幅も、実行能力もやはり高い。
 日本選手はどちらかというと「攻めて点を取れ」という風潮が強く、僕もそういう指示を出してしまうことがありますが、中国選手は「今は相手に打たせた方がいい」と判断したら平気で打たせることができます。攻守のバランスもよく、できない技術もない。その中で最適な選択をしているように感じます。少なくとも、自分がやりたい戦術を優先させているようには見えません。そこは、チームとして多少の差は感じました。
 前大会も今大会も中国のトップ以外の選手には勝てるようにはなってきたので、今後は中国のトップに技術的にも精神的にも追いついて、勝てるようになっていきたいですね。

詳細な記録等は下記リンクでご確認ください。
大会公式サイト(英語):https://www.wjttc2019.com/
公益財団法人 日本卓球協会:http://www.jtta.or.jp
国際卓球連盟(ITTF):https://www.ittf.com/tournament/5057/2019/world-junior-table-tennis-championships/

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