史上稀に見る激戦になった男子シングルス決勝・宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園)対張本智和(木下グループ)の攻防を、水谷隼(木下グループ)が圧倒的な分析力と説得力で読み解くスペシャル企画。
ラストは、水谷による決勝全体のまとめと、今後の卓球界のトレンド予想を紹介して締めくくろう。
「取るべきポイントを取った方が勝つ」を証明した宇田
決勝の総得点を計算すると、宇田が72点、張本が74点で、負けた張本の方が宇田より点数を多く取っています。しかし、内容を見ると8割以上は宇田が攻めていて、終始押していました。卓球は、たくさんポイントを取るよりも、取るべきポイントを取った方が勝ちますが、そのことが表れた決勝だったと思います。
試合内容としては、サービス・レシーブでお互いが崩そうとしていたので、ラリーはあまりなかったと思います。終始、宇田は甘いボールに対してとにかくフルスイングする、張本はその宇田の強打をしのぐという構図でした。
サービスの配球が明暗を分けた
あらためて宇田の勝因を挙げると、サービスが最初から最後まで非常にいい配球でした。サービス自体の質というよりも、コース取りと各コースへの配分がとてもよかった。特に、フォア側へ少し長めに出すサービスとバック側へのロングサービスを出すタイミングは、どちらも完璧でした。
一方の張本は、サービスが単調でした。9割のサービスが宇田のフォア前に集まってしまったので、もう少し違うサービスを出していれば、もっと点数を取れていたと思います。
張本は、レシーブもチキータに頼りすぎてしまいました。チキータにはいい部分と悪い部分があります。チキータが得意な選手は、チキータが決まっている時は強いですが、チキータができなかった時、封じられた時に動揺してしまう。とはいえ、張本は調子が上がらない中でもレシーブミスはほとんどありませんでした。最後は防ぎ切れませんでしたが、苦しみながらも宇田によく食らいついたと思います。
今大会の張本は、華やかなプレーはあまり見られませんでしたが、その分、決勝の総得点で上回っていたことからも分かるように安定していました。無駄なミスが本当になかったし、チキータしている時はほとんど得点していました。やはり、張本の持ち味はチキータであることを再認識しました。
宇田は「ミスを減らすこと」が課題
今回の優勝で、これからの対戦相手は宇田を倒そうと向かってくると思います。そうすると、今までみたいにはいかなくなる。周囲は、さらに積極的に攻めてくるでしょう。
宇田に対しては、「いいボールを打つ代わりにミスも多い」というイメージを、僕だけでなく、多くの選手が持っていると思います。今回の決勝ではいいボールが何本も決まりましたが、宇田は今後、もっともっとミスを減らしていく必要があるでしょう。
対戦相手は今まで以上に攻撃的にプレーしてくると思うので、宇田はそれに負けないように必死に食らいついていかないといけないと思います。
こうした負けが、張本の成長を促進させる
張本は、終始プレーが消極的でした。勝たなければいけない上に、相手がみな向かってくる全日本の舞台では仕方がないことではありますが、そうした中でもいいプレーはありました。
特に、最終ゲーム8-8の場面でロングサービスを出した配球などは、僕自身が大いに学ぶべきところでした。今回は宇田の対応力が一枚上でしたが、普通の選手であれば、あの張本の戦術転換に対応できないでしょう。
ともあれ、勝ち続けるだけでは必ず停滞するので、今回の負けは張本の成長につながると思います。いい感じでリードしてからの逆転負けはすごくバネになるので、彼にとってはいい敗戦だったと思います。
今後は、チキータとフォアハンド、打ち合う勇気が鍵
今大会は、宇田や戸上(野田学園高)など、勢いのある選手が強かったですね。今後は、彼らのように積極的に自分からどんどん仕掛けていく、あるいはチキータを多用して、チキータからどんどん積極的に攻めていくことが重要になってくると思います。
また、今大会で活躍した選手はフォアハンドに威力がありました。彼らがフォアハンドで打つときはほとんど決まっていたので、すごく威力があったと思います。
今の卓球は回転の変化で点数が取れないので、相手と真っ向から打ち合わなければいけない。そうした傾向の中、気持ちで弱気になったり、ループドライブの回転量に頼ったりしても点数が取れません。
決定打を磨き、打ち合える勇気を持たないと、これからの卓球ではなかなか点数を取ることはできないと思います。
(まとめ=猪瀬健治 動画=小松賢)