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水谷隼 男子団体を振り返る
第3回「そんな奇跡的なことが起きていいのかと思った」

 卓球レポートでは、卓球日本にとって悲願の金メダルを獲得し、一躍時の人となった水谷隼(木下グループ)にインタビューをする機会を得ることができた。ここでは、既に多くの場で語られている混合ダブルスではなく、苦心の末に水谷が自身の手で銅メダル獲得を決めた男子団体に焦点を当てて話を聞いた。水谷本人が「初めて話したことがほとんど」というエピソードの数々を味わっていただきたい。
 今回は男子団体銅メダル決定戦の韓国戦を振り返ってもらった。

最後の試合で最高のパフォーマンスを見せた水谷/丹羽のダブルス(写真提供=ITTF)

水谷/丹羽のダブルスが最終戦で最高のプレーを見せてくれましたね。

 内容も押していましたね。相手の調子が悪かったというよりも、自分たちがかなりいいプレーをして、ガンガン攻めていけました。ドイツ戦で負けはしましたが、3、4、5ゲーム目で結構押していたので、自信を持てたというのは大きいですね。ドイツ戦の後半のプレーができれば、韓国戦でも良い勝負ができるとは思っていました。
 相手は勝って当然と思っていますからね。負けるわけがないと思っている相手が強気で向かってきたら嫌ですよね。初めての対戦相手ですし。
 あとは、‪李尚洙‬/鄭榮植‪が右右のペアだったというのが結構大きいですね。右左のペアと違って、相手も動かなくてはいけないので、何気ない返球にも、ちょっとミスが多く出ていました。‬‬‬


韓国ペアにはどのような戦術で臨んだのですか?

 相手がストップに対して、全然強いボールを打ってこなかったので、ストップで行こうという話はしましたね。長いボールを打たせてからのラリーではこちらがきつい展開になってしまうので、とりあえず、ストップして、相手の動きを見て、その次のボールを狙っていこうと。リスクを冒すというよりは、こちらも慎重に、そうしたら相手も慎重にくるので、そのボールを攻めていこうという感じでした。こちらのストップを相手がダブルストップしてきたボールがわりと甘かったので、狙っていけました。
 うまい感じにチキータしたり、長いレシーブをしたり的を絞らせないようにして、気持ち的にも攻めていきましたね。
 勝つのは難しいとは思ってはいましたが、一通りどういうパターンがやりやすいかは練習で試していました。どういうサービスを出したら、どういう返球が多いとか、レシーブのチキータのコースはどこが良いとか、このコースには打たないでほしいとか、ある程度自分たちの得意・不得意は認識できていたので、韓国戦でも、丹羽がストップしたら、自分はこういう風に入っていこうというのは結構スムーズにできました。


左左のダブルスで参考にしたペアはいますか?

 映像とかは一度も見ていないですね(笑)
 ガシアン/シーラ(フランス)がオリンピックでメダルを取っているとよく励まされましたが、僕の憧れはケーン/ハイスター(オランダ)って答えてました(笑)

ダブルスの奮闘が日本の銅メダルを大きくたぐり寄せた(写真提供=ITTF)


好スタートを切った日本が2番の張本 対‪ 張禹珍‬でも続けて勝利しました。‬‬

 内容的には相当危なかったですね。1対1の5-8で負けていて押されていましたから。めちゃくちゃアンラッキーな失点が多くて、よく張本が耐えたと思いました。
 あと、僕たちがダブルスで1点取ったので、自分(張本)が2点取ればメダルが取れるという、自分の重要性を認識したというのが、プレッシャーというよりは、力になっていたと思います。


3番の丹羽選手は残念ながら敗れてしまい、日本の2対1リードという状況で水谷選手に回ってきました。

 葛藤というか、もちろん勝ちたいけど、勝てないだろうなというのはあって、試合が始まる前に、ラケットの準備をしながら、張本に「5番しっかり準備してね」とは言っていました。
 そうは言いつつも、自分が勝てばメダルというチャンスが目の前にある、でも状態は悪いからどうせ勝てないだろうという、ムカつくというか悲しいというか、複雑な思いがありました。
 ‪張禹珍‬とは相性もよくなくて、やっていても全然勝てるとは思っていませんでした。‬‬


そのような葛藤があったとは思えないほど素晴らしい試合内容でしたね。

 戦術がすごくよかったのはありますね。あとは、ノンプレッシャーというか、負けて当然だと思っていたので、開き直っていろいろなことができました。相手の想定外のことが多かったと思います。
 ロングサービスを思い切って出したり、チキータレシーブをしたり。一番はサービスでしたね。僕としては、横下や横上、ロングサービスで崩していきたかったんですよ。ラリーにしたらキツいと思っていたので、サービス・3球目で決めようと思っていて、サービスで横回転を強めに切って、相手のレシーブが台から出てきたり、ふかしたりしたのを3球目で攻めようと思っていましたが、横回転系のサービスを相手がうまくレシーブしてきたんです。
 そうしたら、意外に縦回転がよく効いたんです。しかも、縦回転は本来なら一番レシーブミスしづらいサービスなんですが、レシーブミスも多かったですね。
 勝負どころではサービスで点数が取りたいんですが、そういうときは、やっぱり縦回転よりも横回転系を使いたくなってしまうんですよ。縦回転サービスはどちらかというとラリーにするサービスなので。
 でも、この試合では大事なところで、縦回転系を使い続けたら、相手がずっと苦労してくれていたので、3ゲームとも縦回転系のサービスでいけたのがよかったですね。

「縦回転系のサービスが効いた」と水谷。有効な戦術を貫いたことが勝利につながった(写真提供=ITTF)


水谷選手のレシーブもよかったですね。

 そうですね。レシーブも比較的よくできました。ストップも止まりましたし、ロングサービスに対しても、結構いいレシーブができました。
 ‪張禹珍‬は自分の中ではきついと思っていましたが、ボルの時と一緒で緊張していない1ゲーム目は取れるんですよ。でも、緊張すると目の状態がどんどん悪くなって、見えなくなってくるんですよ。だから、ここ2、3年は競り合いで負けることがめちゃくちゃ多くて。めがねも曇ってきますし、時間がたてばたつほど不利になってくるんです。‬‬
 だから短期決戦しかないと思っていましたが、やはり、2ゲーム目も相当苦しくて、このゲームを落としたら絶対に無理だなと思っていたら、そのゲームを逆転で取れたのが大きかったですね。


自分が銅メダルを決めた時はどのような心境でしたか?

 もちろん、自分が最後にメダルを決められたらいいなあとは思っていましたが、それは自分がシングルスで勝つということなので、自分の状態を考えた時にあり得ないと思っていました。
 実際に試合では、勝ったことがない相手に、しかも3対0で勝つなんて、そんな奇跡的なことが起きていいのかと思いました。
 3ゲーム目の後半でずっとリードしていて「マジで?本当にこんな状態で勝てるの?」と思い始めたら、だんだん緊張で目が見えづらくなってきて、サービスや、3球目でしか点数が取れないと思って。そうしたら、相手がポロポロっと凡ミスしてくれたんですね。あれがなかったら、ちょっとヤバかったですね。

 ‪李尚洙/鄭榮植‬は台上プレーが厳しく、打球点も速い。準決勝で中国ペアにも善戦していた韓国ペアに、日本ペアが勝つことはかなり難しいのではないかと悲観していた。程度の差こそあれ、楽観視していた卓球ファンは少なかったのではないだろうか。だが、水谷はやってのけた。‬‬
 加えて、目の状態が悪い水谷が、自身最後のオリンピックで、シングルスで勝ったことがない‪張禹珍‬にストレートで快勝してチームの勝利、そして、銅メダル獲得を決める。‬‬
 全日本卓球選手権大会男子シングルスでV10という偉業を成し遂げ、伝説の域に片足を踏み入れていた水谷隼が、ついに生ける伝説となった瞬間だ。
 次回、最終回は大会全体を振り返ってもらった。

逆境を乗り越え、自らの勝利で日本に銅メダルをもたらした(写真提供=ITTF)

(取材=卓球レポート)

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