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三十六計と卓球 ~第三十四計 苦肉計~

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「日本の友人と世界の卓球界に『三十六計と卓球』を捧げる」 荘則棟

第三十四計 苦肉計  苦肉の策

自分で体に傷をつけ、敵の信頼を得ることによって、
自分の本当の目的を隠し、期待を持って敵の不備を突き、勝ちを得る

 古代戦術の例

36kei-34-01.jpg 紀元前770年春秋戦国時代、鄭国(ていのくに)の国王鄭武公(ていぶこう)は胡国(このくに)を併合するため、着々と準備を進めていた。
 彼はまず自分の娘を胡国の国王に嫁がせ、ニ国を親戚とした。そして更に、胡国攻略を主張する官僚関其思(かんきし)の首をはねた。
 これにより胡国は鄭武公の"友好"な態度をますます信用し、鄭国を真の友人と見なした。考え方や行動の上でも完全に警戒心を失い、鄭国に対して何の防備策もとらなかった。
 鄭武公は時期成熟と見るや、兵を率いて胡国に突然奇襲をかけた。胡国は無警戒だったため、短期間で鄭国に滅ぼされ、併合されたのである。


卓球における応用例

 第25回世界選手権大会の前に、ハンガリーの卓球チームが訪中した。
 しかし、男子シングルス世界チャンピオンのシド選手はメンバーに入っていなかった。彼の宝刀が錆(さ)びたのか、それとも一枚ラバーを依然使っていてスピードが遅く、回転が弱いために若い選手に抜かれたのか。
 いずれにしても、35歳という年齢と百キロ以上の体重では、後輩に道を譲るべきだというのが周りの印象であった。
 その時訪中したハンガリーチームの主将は、ヨーロッパチャンピオンに数回輝いたこともあるベルチック選手であった。
 ハンガリーチームは団体戦で中国チームに数回敗れ、主将のベルチック選手も中国男子シングルスチャンピオンの王伝耀(ワンチョアンヤオ)選手に数回負けた。
 技術的統計分析によると、カット主戦型のベルチック選手は大事なときなると中・後陣から突然反撃し、戦術の布局を匂(にお)わせた。
 '59年、第25回世界選手権大会において、ハンガリーチームと中国チームの男子団体戦準決勝に、老将シド選手が登場した。彼は2得点を挙げ、またベルチック選手は別人のように3得点を挙げ、結局ハンガリーチームは5-3で中国チームを淘汰(とうた)したのであった。
 今思えば、ハンガリーチームの訪中には苦心があり、成長過程にあった中国チームは大変高い学費を払ったことになる。


感想

1.自分で我が身に重傷を負わせるようなことをする人はいない。これは人間の常である。
 また、これは人々が物事を分析し、判断するときの習慣的な考え方でもある。苦肉の策はこのような人間の常理を利用した計略である。
 すなわち、自ら傷をつける手法により、敵を欺いて油断させ、錯覚により罠(わな)にはめるのである。
2.志を持ち、大事業を成す者は、まず辛酸・苦労をなめつくし、忍耐と我慢の中で、自分を磨く。
3.胸襟を開き、遠大な計画を立てることが重要である。
 近視眼的な発想や、小さな利益に欲を出すことは禁物である。忍耐力のない者は大成しない。
 また、どんなに小さい忍耐でも、できるようになれば強くなる。
4.志を阻む困難に出会ったときこそが、英知を育ててくれる溶解炉である。
5.膨大な代価を注ぎ込みながらも事業に失敗するケースをよく見かける。
 その原因を分析してみると、客観的条件要素のほかに、判断と方法が間違っているため"進め"で事が成さないと安易に"引き上げ"、自分すら保てない無惨な局面を迎えるのである。
 成功する実業家になる前に、まず成功する思想家にならなければならない。中に入る前に、まず、出てこられるかを考えるべきである。
6.備えあれば憂いなし。常に備えていれば、安全が増す。
(翻訳=佐々木紘)
筆者紹介 荘則棟
chuan_s.jpg1940年8月25日生まれ。
1961-65年世界選手権男子シングルス、男子団体に3回連続優勝。65年は男子ダブルスも制し三冠王。1964-66年3年連続中国チャンピオン。
「右ペン表ソフトラバー攻撃型。前陣で機関銃のような両ハンドスマッシュを連発するプレーは、世界卓球史上これまで類をみない。
1961年の世界選手権北京大会で初めて荘則棟氏を見た。そのすさまじいまでの両ハンドの前陣速攻もさることながら、世界選手権初出場らしからぬ堂々とした王者の風格は立派であり、思わず敵ながら畏敬の念をおぼえたものだ。
1987年に日本人の敦子夫人と結婚。現在卓球を通じての日中友好と、『闖と創』などの著書を通じて、卓球理論の確立に力を注いでいる」(渋谷五郎)
本稿は卓球レポート1995年10月号に掲載されたものです。
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