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「作戦あれこれ」第84回 カット攻略のコツと注意点(最終回)

 3回にわたってカット攻略法を述べてきたが、今回はその最終回としてカット攻略のコツと、そのときに注意するカット打ちの基本を述べてみたい。

 深追いは大ケガのもと

 カットマンと対戦したとき、相手のカットが良いカットであればあるほど、スマッシュを3発、4発と連発するのは危険である。
 私にも大試合でスマッシュを3発、4発と深追いして負けた苦い経験がある。それは'69年ミュンヘン世界選手権の団体決勝の時だった。試合は日本が5対3で西ドイツを破って優勝したが、その時私は、決勝の7番で'65~'67世界シングルス3位の守備範囲の広いカットマン・シェラーと対戦した。
 1ゲーム目は、得意のドライブからのスマッシュを決め、2ゲーム目はスマッシュと強ドライブの深追いをしすぎて1対1。そして最終ゲーム、私は気持ちを立て直し、スマッシュを2本打っても決まらなかったら最初から粘り直す作戦で臨んだ。その作戦が当たり、中盤までシーソーゲームの展開となった。しかし、中盤過ぎたあたりから私は勝敗が気になりはじめた。また疲れも出はじめ「チャンスは一気に決めたい」と試合を急いでしまった。スマッシュをこれでもか、これでもかと3発、4発あるときは5発以上連発してしまったのだ。同様に、スマッシュ以外にも強引な強ドライブの連発をやってしまった。そして、このようなラリーになったとき、シェラーにうまく変化をつけられ、強打ミス。先に体力も消耗して18本で敗れ、日本を苦戦におとし入れてしまった。
 このように、スマッシュを3発、4発と連発すると、ミスが多くなるだけでなく、疲れもひどくなる。スマッシュミスによる精神的ショックも大きく、試合運びがおかしくなる。
 だから、2発スマッシュしてもカットが抜けず、一発目と同じ高さ、同じ深さのカットが返ってくるのなら、もったいないと思っても深追いするのをやめて、また最初から粘り直すのがよい。また、ストップが得意な選手であれば、強打すると見せかけてストップで前に寄せ、次の強ドライブやスマッシュで攻めるのがうまいやり方である。それから、カットマンとの試合中に焦りは絶対に禁物。常に冷静に粘り強くプレーすることである。

 低い球もスマッシュできるように

 カット打ちの技術の低い段階では、低いカットがきたらドライブ、高いカットがきたらスマッシュする、というやり方でいい。ツッツキからの強打を得意とする選手も、低いカットやツッツキがきたらツッツキに変化をつけて粘り、高いツッツキやカットがきたらスマッシュする、というやり方でよい。しかし、いつまでもこの方法だけではいけない。低ければ粘って高ければスマッシュというやり方だけでは、強いカットマンには勝てないのだ。それはなぜか?
 高い球しかスマッシュしないとなると、カットマンに
 「いまのカットは高いからスマッシュでくるぞ」
 「いまのカットは低いからドライブで粘ってくるぞ」
とすっかり読まれてしまうからである。そのために、ドライブもスマッシュもちっとも効き目がなくなってしまう。晩年の私と高島選手の試合がそうであった。
 同僚の伊藤選手('69年世界チャンピオン)、同じく河野選手('77年世界チャンピオン)が"カット打ちの名手"といわれるのには、いろいろな理由があるが、その一つに高い球だからといって必ずしもスマッシュせず、逆に「まさか」と思うような低い球を不意にスマッシュできることがある。カットマンにとってこれほどいやなことはない。読みがはずされ、全くペースがつかめなくなるからである。
 低い球がスマッシュできるようになったのは、「はじめ高いカットやツッツキを全力で気持ちよく打ち、しだいにネットスレスレの低い球を打つ練習を徹底してやった」(伊藤)からだ、という。
 このように練習しだいでは、いままでネットより10センチ以上高く上がったボールしかスマッシュできなかった人が、7センチ、5センチ、3センチとしだいに低い球もスマッシュできるようになる。カット打ちに限らずロング戦の場合でもいままでより1センチでも2センチでも低い球をスマッシュできるようにする努力―常に自分のストライクゾーンを広げる努力が必要である。
 低い球もスマッシュできるようになり、同時に高く上がった球だからといってなんでもかんでもスマッシュしないでストップでも攻められるようになれば、カット攻略も一級品に近づいたといえよう。
 カットやツッツキの下回転のボールを打つ練習を真剣にみっちりやり込むと、からだの使い方が分かり、力を抜いて打つコツをマスターできるものである。スマッシュするときにりきんでスピードが出なかったり、ミスの多い選手は、とくにカットやツッツキをスマッシュする練習をたくさんやろう。

 ミドルをねらえ

 スマッシュの威力に絶対の自信を持っているなら別であるが、そうでない限りドライブでチャンスを作ったあとのスマッシュを両クロスにばかり打つのは頭のいい攻め方ではない。たしかにクロスはコースが長く安全ではあるが、カットマンにとっても読みやすいうえ、ラケット角度が出しやすい。また、体も使いやすいのでスマッシュを逆に利用してわかりにくい変化をつけられ、一気に逆転されることになる。
 そこでスマッシュのうまい選手はミドルを攻める。そうするとカットマンは、ラケット角度が出しにくいうえ体も使いにくいので、やっと返球するのがせいいっぱいである。そこを次球でとどめをさす。
 また、ミドルに打つとカットマンは、クロス、ストレート、ミドルと3つのコースを待たなければならず、スマッシュコースが読み切れなくなる。
 ところが、レベルの低い段階同士の試合のとき、クロスへ打っても決まっていたクセが抜けず、レベルが上がっても同じ攻め方をする選手が多い。これでは、いつまでたっても強い選手には勝てない。前後にゆさぶったあと、浮いてきたカットを叩くときはまずミドルを中心にスマッシュしよう。もちろん前回まで述べたフォア、バック、ストレート攻めも有効に使ってほしい。
 では次に、今まで述べた現代のカットマン攻略法を実行する際、特に大切になるカット打ちの基本を述べよう。

 変化を見分ける

 当然のことではあるが、カット打ちのコツはまず相手のカットの回転を正確に見分けることである。
 変化を見分けるには、第一に、相手のラケットの動きをしっかり見ること。インパクトの瞬間にすばやいスイングでラケットが動いていれば、そのカットはよく切れている。手首を活用すればするほど切れている。切ったように上から下に大きなゼスチャーをしても、打球の瞬間の振りがおそければ、そのカットはそれほど切れていない。イボ高やアンチを使っている選手に対しては、どちらのラバーでカットしたか、ラバーの光沢や打球音、球離れなどで見分けるようにする。
 第二は、ボールのマークをよく見ることである。切れたカットは、マークが全然見えず激しく逆回転しながらゆっくり飛んでくる。切れていないカットは、ボールのマークがうっすらと分かる。ナックルカットは、はっきり分かる。特にアンチを使った異質カットは変化が分かりにくいので、ボールを最後までよく見ることが大切である。また飛び方、バウンドの仕方も変化を見分ける材料になる。

 しっかり動く

 "しっかり動く"ことはカット打ちの基本中の基本である。何よりも大切であるといってもいいほどだ。カットのボールは、ドライブのボールと違って、十分な体勢で打たないとうまく打てない。また、ボールの近くまで動かないと変化を見分けることもできない。だから、1本打ったあと、素早くニュートラルの体勢(ラリー中の基本姿勢)をとり、どこに返されてもフォアで動ける位置にもどる。そして素早くスタートが切れるように待っている間も足の動きを止めない...などのことが大変大事である。そして、強打するときはからだ全体を使いやすいように必ずステップ・バックしてから踏み込んで打つように気をつける。また、基本的にはカットマン以上に根気よく攻撃することが大切である。
 4回にわたって述べたカット攻略法を参考に、カット打ちを磨いてほしい。カット打ちはやればやるほど上達する。自信を持ってがんばろう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1983年3月号に掲載されたものです。
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