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「マリオの指導アプローチ」 最終回 卓球はより大きく、そして複雑になっている②

 卓球は高速化し、訓練の開始時期が早まっている
―前回のインタビューでは、卓球というスポーツの国際的な現状と組織的な面での新しい発展、最新のプレーの傾向についてお話ししていただきました。今回は、その続きを聞かせてください。
 前回のインタビューで言われたように、現在のトップ選手は非常に速く攻撃的なプレーをしていながら、なおかつ高いコントロール能力を求められています。どうやったらこのような能力を会得できるのでしょうか?
マリオ 選手の練習時間そのものが増えているとは思えません。練習量は以前と同じようなものです。
 トップ選手は、より高いリスクを犯しながらプレーしています。守備的なプレーは減ってきており、古典的な受け身のブロックは、もうほとんど使われません。選手はより能動的にボールに働きかけようとしていて、そのため試合がより速くなっています。そして、選手はより速い動きを求められており、それができなければトップの地位は保てません。そのような速い動きは、練習することでしか会得できません。
 また、忘れてはならないのが用具です。速さの中でもコントロールが利く、より良い用具を選ばなければなりません。
―これらのことを総合的に考えると、トップ選手にはより厳しい肉体的トレーニングが求められているでしょうか?
マリオ トレーニング自体は昔と状況が変わっているわけではありません。そうでなければ、少し前の世代のプリモラッツ(クロアチア)やJ・セイブ(ベルギー)、ロスコフ(ドイツ)といった選手たちが、これほど長く活躍できるはずがないでしょう。
 今日、変わったことといえば、「高速に対応するための特別な訓練」の開始時期がずっと早まっていて、すでにジュニア時代から始まっているということです。そして、このことがジュニア選手に大きなストレスとなってきています。遠征をするにはしっかり健康を維持しなければなりませんし、高速のストロークやラリーをするには素早く動けるような体の構造が必要です。これには、打球技術やフットワークを改善することはもちろん、けがを防ぐことも含まれています。そして、これらに関して若いときに何か問題がある選手は、トップレベルに至ることは難しいといえるでしょう。
 ところで、卓球界では珍しいのですが、他の多くのスポーツの分野では、非常に早い時期からこれらのことに専門家が対応しています。例えば、12歳のテニス選手は自分専用のフィットネスコーチとアドバイザーを抱えています。理由は単純で、大会の数が増え、試合のスピードもどんどん速くなっているからです。十分な技術と優れたボール感覚がなければ、大会で勝ち上がっていくことはできません。そして、こういうストレスや緊張に対して肉体的についていけない部分がどこかにあれば、破綻(はたん)をきたしてしまいます。特別訓練を始める時期が早ければ早いほど、トップレベルを維持できる期間が長くなります。
―どういう訓練が特に大切なのでしょうか?
マリオ これは極めて個人的なもので、千差万別といえるでしょう。いずれにしろ、肉体的な訓練は、専門家の手によって行われるべきだと思います。卓球のジュニアの世界では、ジュニアのウエートトレーニング開始の時期などを含め、いろいろ間違ったことが行われている場合があるようです。
―先ほど、12歳のテニス選手のことを例に挙げられましたが、12歳の卓球選手を考えた場合、世界のトップレベルに達するためには、どれくらいの練習をするべきでしょうか?
マリオ 世界中で非常によく尋ねられますが、大変難しい質問です。もし選手に専門家がついてシステマチック(組織的・体系的)に練習しているとしても、トップレベルに達するには毎日練習する必要があります。
―専門家によるフルタイムの訓練を行うとしたら、何歳から始めるべきなのでしょうか?
マリオ 今では、開始年齢はどんどん下がっています。遅くとも15~16歳より前から始める必要があります。
―遅くともといわれましたが、もっと早くから始めた方がいいのですか?
マリオ アジアの国々、特に中国では、もっと早い時期からフルタイムで練習しています。しかし、世界各地では環境が違いますし、精神的にもスポーツ行政的にも状況は違います。
―才能がある選手が、途中であきらめてしまうことがあります。これは何が原因なのでしょうか?
マリオ これはまったく個人によって違いますし、ケース・バイ・ケースで考えるべきでしょう。しかし、私は「努力」というものが、こういう「脱落者」を考えるときの1番の大きな要素だと思っています。
 良い選手になればなるほど、活躍の場は広がっていきます。最初は地域レベルですが、それから県レベル、全国レベルと活躍の場が広がり、最後は世界が活動の場になってきます。試合の数はどんどん増え、大会のレベルは高くなります。そして、プレッシャーはどんどん高まります。練習はクラブだけでなく、合宿や特別キャンプなどが増えていきます。さらに、遠征が頻繁になり、卓球に費やす時間がどんどん増えていきます。
 このように、選手は次第により大きな「努力」を求められることになります。そして、こうした変化にうまく適応できずに、あるところで立ちすくんでしまった選手は、卓球から離れてしまうのです。犠牲にするものが多すぎて、もう卓球に時間を費やしたくないと思ってしまうのです。
 賢い選手はスケジュール管理をしっかりしなくてはならない
―費やす時間ということですが、トップスポーツの一般的な問題として、過密スケジュールということがあるのではないでしょうか?
マリオ これは別な見方もできます。いずれにしろ、選手は逃げることはできません。健全な心と体が備わっていて、栄養に気をつけ、十分な睡眠と健康に注意すれば、適応できるはずです。J・セイブが15年前に彼専用のフィットネスコーチと医師を雇い、それを大変喜んでいたことを思い出します。彼は35歳ですが、依然としてトップクラスであり、素晴らしいプレーをしています。
―時間ということでいえば、将来の活躍のためにどれくらいの時間を費やせばいいのでしょう。もっと時間を費やすというのはいいことなのでしょうか?
マリオ 今より増やすことはもう不可能でしょう。賢い選手は、スケジュール管理をしっかりしなくてはなりません。
 国際大会は棄権できません。ですから、たとえ経済的には苦しくなっても、国内リーグ、例えばブンデスリーガなどからは身を引くようにするべきかもしれません。クラブは本当のトップ選手を獲得することの善悪を再考すべきでしょう。
 世界ランキングが50位から10位に上がってきているような選手にとっては、ハードなリーグの試合をすべてこなすことは不可能です。選手は、あるところで耐え切れなくなってしまうことについて、真剣に考えるべきなのです。
(2005年12月号掲載)



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