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野田学園メモリアルチャレンジマッチ 歴代最強OBチームが母校に集結

 2020年10月3日、野田学園高校(山口)にて野田学園メモリアルチャレンジマッチが開催された。このイベントは野田学園のOB会長を務める平野友樹(協和キリン)が発案者となって、新型コロナウイルスによって高校選抜やインターハイなど、活躍の場を失った後輩たちに試合の機会を提供したいというOBたちの思いから企画。恩師である橋津文彦野田学園卓球部監督に提案することで、現役高校生とそうそうたるOBの面々との対抗戦が実現した。
 OBチームには平野をはじめ、吉村真晴(愛知ダイハツ)、有延大夢(リコー)、吉村和弘(東京アート)、戸上隼輔(明治大)の5人のトップ選手が参戦し、後輩たちとの真剣勝負に臨んだ。

イベントの発案者でもある野田学園OB会会長の平野が開会のあいさつ

卓球応援ソング「スーパースター」をNOXAH(ノア)がライブで熱唱!


トップバッター3年生の松田は思い切りのいいプレーで戸上から先制

戸上は昨年度インターハイチャンピオンとしての意地を見せた

 試合に先立って行われた開会式では野田学園OB会会長の平野がこのイベントが開催できることの感謝と喜びを述べるとともに開会を宣言。戸上のスポンサーでもある地元スーパーマーケットのマルキュウから、選手たちに記念品が贈呈された。ついで、先頃野田学園卓球部とのコラボで卓球応援ソングを作ったNOXAH(ノア)が「スーパースター」を生で披露し、会場を盛り上げた。
 試合は各チーム5選手のシングルス5試合で行われた。各試合はチェンジコートなしの3ゲームスマッチという特別ルール。高校生のトップバッターは3年生の松田歩真。対するOBは今年(2020年)の3月まで野田学園高校に在籍していた戸上。試合は松田が先制するも、戸上がツッツキを強打する戦術でペースをつかんで逆転。OBチームが無事1勝目を挙げた。

■戸上隼輔(明治大)のコメント
 自分も試合がなかった分、在校生のみんなも当然試合がなく、特に3年生は集大成ともいえるインターハイがなくなってしまいました。その分、こういう機会を設けていただいたので、自分たちは高校生たちのプレーを全力で受け止めて、自分たちも逆に試合がなかった分、チャレンジャーとして挑むという気持ちで試合に臨みました。
 トップに出場し、相手の松田は過去何度も試合していて苦手意識があり、1ゲーム目は点数が取れなかったんですけど、久しぶりに実戦に近い緊張感でいい試合をすることができたので満足しています。
 自分にとっても、次につながる試合になったと思います。

1年生の徳田はラリー戦に強さを見せた

有延はパワフルな両ハンドドライブを炸裂させてストレート勝ち

 2番は有延に1年生の徳田幹太が挑んだが、パワーで大きな差を見せた社会人の有延が強烈な両ハンドドライブで快勝。徳田も野田学園らしい中陣からの引き合いで強さを見せたが、力負けした。OBチームが2勝目を挙げ、団体戦の勝利に王手をかけた。

■有延大夢(リコー)のコメント
 以前、仙台育英と野田学園のOBたちでオンライン懇親会をした時に、高校生たちに何かしてあげられないかという話から始まり、(新型コロナウイルスの)第二波とかいろいろあって実現が難しかったのですが、なんとか開催したいということで、橋津先生の力はもちろんのこと、(平野)友樹さんが先頭にたち、いろいろな方々のサポートでこのイベントが実現できてすごくよかったと思います。
 僕にとってインターハイはすごく特別で、それがなくなったのはかなりつらいなと思っていました。高校生ってそのために生きているというか、それに向かって一種懸命頑張っているところがありますから。インターハイに替わりはもちろんできないですけど、何かできることはないかなということで、今日は思い切って試合することができました。
 母校での試合で、担任の先生もご覧になられていたのちょっと恥ずかしい部分もあったり、普段と違ったところがありましたが、試合が始まったら集中力が出てきて気持ちが入った試合ができたと思います。久しぶりの試合で、用具も試行錯誤している中で大丈夫かなという思いはありましたが、いい緊張感の中で試合ができてよかったです。

飯村はアグレッシブなプレーで大先輩の吉村真晴から先制

苦しい場面はあったものの、得意のサービスからの展開で吉村真晴が逆転勝ち

 高校生チームは徳田に続いて1年生の飯村悠太が出陣。既に野田学園OBのレジェンドともいうべき吉村真晴に挑戦した。飯村は大先輩に対しても臆することなく、前陣で鋭いカウンターを連発。第2ゲームでも勢いを失わなかった飯村だが、大人のプレーでミスを誘った吉村が、第3ゲームは得意のアップダウンサービスからの展開で逆転勝ち。引き出しの多さを見せた。
 団体戦はこれでOBドリームチームの勝利が決まったが、5番まで行われる特別ルールで試合は引き続き行われた。

■吉村真晴(愛知ダイハツ)のコメント
 苦しい時期が長く続いていましたけど、高校生、そして僕ら含めてお互いに「新たに一歩進んだ」と感じたので、非常に素晴らしい試合だったと思います。
(大会が軒並みなくなった高校生たちに対しては)自分も同じ立場だったらと考えると本当に悔しいでしょうし、実際に僕も東日本大震災で高校選抜に出られなかった経験もしています。その悔しい思いを僕らが受けて立って、培ってきた、そして今まで積み重ねてきた実力や思いをぶつけてもらいたかったし、僕らも強い思いでここに臨んできたので、非常に緊張感があって質の高い試合だったんじゃないかなと思います。
(実際に高校生と試合してみて)野田学園の選手はみんなパワーがあるので、強いなっていうのを改めて感じました。僕も久しぶりの試合で緊張していたので最初は浮き出し立ってしまって、何しているのかな、大丈夫かなって不安の中で、なんとか最後は切り抜けた形でした。それだけ同じくらいの実力で戦える選手たちばかりなので、今回の試合を胸に刻んで、そして自信にも変えて次からの試合に全力で、そしていい結果を求めて頑張ってもらいたいと思います。中には高校1年生や2年生で来年がある選手もいるので、そういった選手にとっては次の全日本であったり大きい大会に向けて準備して強くなってほしいです。
 そして、高校3年生の選手にとっては残念ながら高校の試合はこれで最後かも知れませんが、大学など次のステップがあるので、そこで「自分がやってやるぞ!」という気持ちを持って前を向いて頑張ってもらいたいなと思います。

加藤はスムーズな両ハンドで平野に迫った

さすがの安定感を見せた平野はストレート勝ち

 4番は2年生の加藤翔対平野友樹。加藤は高校生らしい伸び伸びしたプレーで両ハンドドライブに強さを見せたが、安定感、回転量などでまさる平野がストレート勝ちでOBチームが4勝目を挙げた。

■平野友樹(協和キリン)のコメント
 インターハイがなくなったタイミングで、橋津先生の教え子のOBたちでオンライン懇親会を行ったのですが、その中で、インターハイがなくなった高校生たちに何か場をつくることができたらなっていう話を4月くらいからずっとしていました。橋津先生と計画を練り、状況をいろいろ見ながら「やるならこのタイミングだ」ということで、開催に踏み切りました。
 僕たちではなく、高校生がメインなので、大事なのは彼らがどう思ったかですが、サポート側としては、1番の戸上と松田の試合を見て分かるように、いい緊張感で試合ができたと思います。まして、こんなにカメラに囲まれて試合することもないですし、来賓の方も来てくださってとてもいい環境で試合ができました。それも、橋津先生の人柄による人脈があってここまでできたと思うので、すごく嬉しく思います。
 自分たちも試合の機会がなかったので緊張感もありつつ楽しくプレーできました。(高校生たちは)僕たちに比べて卓球を知らない部分がたくさんあると感じたので、こういった機会を糧にして次のステージで頑張ってほしいと思います。高校生たちには、夢を諦めないのも一つですけど、卓球人生の最後の一球まで頑張ってほしいです。
 今後もこうした活動は行っていきたいですね。トップレベルは試合開催の見通しが立ってきていますが、大学生や高校生はどうしても試合が少ないので、そうした状況を僕ら先輩がうまくサポートできたらなと思います。

内田は主将として積もる思いをこの1試合にぶつけた

吉村和弘は持ち前のキレのある両ハンドドライブでOBチームのトリを飾った

 ラストは3年生でキャプテンの内田柊平対吉村和弘。一矢報いたい高校生チームだったが、そこはさすがのドリームチーム。吉村和弘も質の高い両ハンドで内田を寄せ付けずにストレート勝ち。OBチームが5対0で現役高校生チームを圧倒した。
 結果はOBチームのストレート勝ちに終わったが、半年間、練習に専念してきた高校生たちのチャレンジャーとしてのプレーは素晴らしく、久々の試合で試合感がない中、負けられないプレッシャーを感じながらプレーする先輩たちをおびやかす場面もあった。また、プレー内容だけではなく、高校3年生にとっては、おそらく高校生としての団体戦はこれが最後になるからだろう。選手や監督が目を赤く滲ませるシーンもあった。

■吉村和弘(東京アート)のコメント
 僕が高校生の時にはインターハイはもちろん、選抜(春の高校選抜)もあったので、それが普通だと思っていましたが、それがコロナになって高校生たちの試合がなくなってしまって、試合がないというのは本当につらいですし、これからまだまだ伸びる選手が多い中で試合ができないっていうのは本当に苦しいことだとすごく感じていました。
 OBとしてこのメモリアルチャレンジマッチに参加できると聞いた時は、この試合にパフォーマンスを出し切ろうと思いました。後輩たちだけでなく僕自身も含め、僕らが今まで普通に試合ができたことが当たり前ではなくて、卓球ができることに本当に感謝しながらプレーしました。今日は、それを後輩たちに伝えることができたかなと思います。
 このコロナで僕たちも試合ができず、試合がないというのは本当に苦しいし、モチベーションが下がりやすい中で、こうした合を設けてくれた感謝の気持ちを、今まで以上に強く持ってプレーすることができました。

■内田柊平(野田学園高校卓球部主将)のコメント
 自分がキャプテンに就任する前に、この新チームで日本一というのを目標に掲げていたのですが、新型コロナウイルスの影響で選抜とインターハイが中止になってしまって、目標を達成することができませんでした。しかし、最後にこのチームで、この仲間で試合ができて本当に最高の気分です。インターハイとか選抜が中止になっていなかったら、まずありえないぐらい貴重なOBの方々とこうして試合ができ、そして、まだコロナが続いている状況の中でも僕たちのために、こうした場を用意してくださって本当に嬉しいです。
(涙の理由は)悔しいというか、今日で最初で最初だったので、このチームで今まで頑張ってきたことが今日で終わったのでひと段落ついたので、ホッとしています。今日で主将としての勤めも終わるので、次にしっかりパスできたかなと思います。
(この試合が行われると聞いた時は)素直に本当に嬉しくて、話をもらった時はまだできるかできないか不安はありましたが、今日こうして最高の仲間とこういう場所も提供していただき、偉大な先輩たちに相手をしてもらって本当に嬉しい気持ちです。久しぶりに、こういうピリピリした雰囲気で試合ができたので本当に楽しかったですし、もう全部出し切ったなという気持ちでいっぱいです。
 主将は終わってしまいましたが、まだ全日本の予選などもあるので、最後までやるべきことを全力でやっていきたいと思います。

試合後は内田が主将として先輩たちに感謝の言葉を述べた

野田学園と橋津監督が生んだ、まさに一期一会の「ドリームチーム」

イベントの実現まで奔走した橋津監督。多くのOBや関係者たちの協力に、その胸には様々な思いが去来した

■橋津文彦野田学園高校卓球部監督のコメント
 イベントを終えて、ホッとしています。
 2008年にみんなでここに(仙台育英から野田学園に)9月1日に転校してきたことを思い出したり、その当時から応援してくれた人が今回きてくださったりしたのを見て、もういろいろ思い出してしまってベンチでずっと泣いていました(笑)
 正直、この試合を開催するにはたくさんのハードルや壁があると知りつつ、やるしかないなと。それに、内田と松田の3年生は野田学園のゼッケンをつけて試合をしたのが全日本以来なんですよね。だから、なくなったものを数えても仕方がなく、これからどれだけ前を向いて頑張れるかが大切だと思うので、そういう気持ちで試合に臨みました。
 我々が預かっているのは高校生で、プロでもないし、未成年なので、こうした試合に賛否があることは承知していますが、どれだけ前や上を向けるかということでやるしかないなと思い、教え子たちに背中を押されながら開催することができました。
 高校生たちにはコロナがあったからこそ、こういう経験ができたんだというように、ネガティブなことをポジティブに変える発想で頑張るしかないぞとミーティングで話し、この試合に臨みました。


 先月行われた「2020 ジャパンオールスタードリームマッチ」に続き、久しぶりの試合の取材を通して痛感したのは、選手たちは試合がしたくてしかたがなかったのだということだ。今回、それは高校生だけでなく、OBたちの試合中の表情やベンチでの様子からもうかがえた。
 一年前と同じように、つまり、新型コロナウイルスの感染リスクを無視して試合を行うことはもはや不可能になった中で、どのように大会やイベントを開催していくか。それは卓球界のみならずスポーツ界にとって大きな問題だ。そして、感染拡大が始まってからおよそ半年が経過して、ようやくその模索が具体的な形となって現れ始めた。その一つ一つには正解も不正解もあると思うが、この模索は将来に向けて決して無駄にはならないだろう。
 橋津監督の言葉を借りれば今回のイベントは「コロナ禍だからこそ実現したイベント」でもある。その特別さを、選手たちの笑顔や涙は雄弁に物語っていたのではないだろうか。

(取材=卓球レポート)

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