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水谷隼、全日本決勝を語る⑦【第7ゲーム】明暗分かれた最終ゲーム。及川が初の戴冠

 名勝負になった2021年全日本卓球男子シングルス決勝及川瑞基(木下グループ)対森薗政崇(BOBSON)の攻防を、水谷隼(木下グループ)が解説するスペシャル企画。
 第6ゲームは、及川があっと驚くようなプレーで森薗のチャンピオンシップポイントをしのぎ、試合を振り出しに戻した。大詰めの最終ゲーム、両者の明暗を分けた鍵はなんだったのか。水谷が鋭く深く読み解く。

冷静かつ大胆にプレーを続けた及川が森薗を引き離し、初の戴冠

及川 0-1 森薗(森薗がラリーで得点)
 及川が逆横回転系サービスから森薗のミドルをうまく攻めましたが、森薗がよく打ち勝ちました。
 及川は得点できませんでしたが、逆横回転系サービスを1本目から使ってきましたね。なぜ、最終ゲームの1本目から、前のゲーム(第6ゲーム)で全然出していなかった逆横回転系サービスを使ったのか、知りたいです。邱さん(邱建新木下マイスター東京総監督)の指示だとしたら前のゲームから使っているはずなので、理由を及川に聞きたいですね。
 とはいえ、いい選択です。点数を取られたからといってサービスを変えるのが1番よくありません。「及川は逆横回転系サービスを徹底して出していれば勝てる」と思って試合を見ていました。
 一方、森薗は逆横回転系サービスに対して、今のところやりようがない感じです。合わせるだけのレシーブで、ことごとく及川に攻められています。
 森薗に限ったことではありませんが、チキータが得意な選手というのは、この及川の逆横回転系サービスのように、思うようにチキータできないサービスがばれたときに苦しい。練習におけるチキータの比率が高いので、ストップやフリックなどチキータ以外のレシーブのフィーリングがないことが多いんですよね。そのため、競れば競るほど、思うようにチキータできないサービスに対してもチキータでいかざるを得なくなってしまう。
 森薗は、例えば(ゲームカウント)3-0リードなどの余裕のある状況なら、チキータ以外のレシーブもできると思いますが、競り合っている状況なので分が悪いですね。

及川 0-2 森薗(フォア前に長めに出してきた及川のサービスを森薗がストレートにレシーブして得点)
 森薗がうまかったですね。クロス(及川のバック側)にレシーブしたくなるサービスでしたが、相手の動きを見てストレート(及川のフォア側)を突きました。前のゲームであれだけの逆転を許して苦しい入りだったと思いますが、冷静にプレーできています。
 一方の及川。少し高めのトスで新しいサービスを出しましたが、甘いサービスでした。失点したことでこのサービスを使うことがなくなったので、及川にとってはかえってよかったと思います。仮に得点していたら、「効くかも?」と錯覚して、このサービスを勝負どころで使ったでしょう。失点しましたが、重要な場面で失点するデメリットを考えたら、このサービスに見切りをつけることができてよかったと思います。

及川 1-2 森薗(及川がフォア前サービスをレシーブしてからラリーで得点)
 及川が、前のゲーム(第6ゲーム)のジュースで横入れしたサービスと同じような森薗のサービスに対して思い切りました。
 森薗もブロックからの展開で悪くありませんでしたが、及川がいきなり前で強気になってきましたね。

及川 2-2 森薗(及川がミドル前サービスをストップレシーブしてからラリーで得点)
 森薗のミドル前のサービスがとてもよかったですが、それに対して及川もうまくレシーブしました。森薗は、最後の回り込みフォアハンドが入らなかったことが悔やまれます。

及川 2-3 森薗(森薗がミドル前サービスをチキータレシーブしてからラリーで得点)
 及川のサービスはよくありませんでしたが、これまでと違って「森薗にチキータさせてから狙おう」という意思が伝わってきました。(バック側にロングサービスを出すような)逆モーションを入れずにサービスを出して、むしろチキータしてほしいような感じでしたね。
 チキータをさせて、それをストレート(森薗のバック側)に狙うという戦術は、邱さんからのアドバイスかもしれませんが、このラリーでは明らかに「チキータを3球目で狙い打つ」という意図が見て取れました。

及川 3-3 森薗(及川が逆横回転系サービスで得点)
 及川がようやく逆横回転系サービスを出してエースを取りました。下回転が強めのサービスでしたね。

森薗の痛恨の2本連続攻撃ミスで及川に流れが向く


及川 4-3 森薗(森薗がラリーでフォアハンドドライブをミスし、及川が得点)
 森薗は、サービスをもっとフォア側に出したかったと思いますが、コントロールをミスしましたね。ミドル寄りに短く出してしまいました。この試合では、フォア前から出るか出ないかの長さが有効なのであって、明らかに出ないサービスはそこまで有効ではありません。サービスが自分の狙いとは違ったことに加えて、及川がいいレシーブをして、その後、これまでミスしていた4球目のチキータも入ってきたので、森薗からすると展開が難しかったですね。
 加えて、森薗のよくないところは、このラリーのように競った場面で「攻めたくなってしまう」ことです。競れば競るほど、自分のやりたいことをしたくなる。つまり、攻めたくなるし、チキータしたくなるんです。そうやって、プレーが単調になっていく。
 卓球は対人競技なので、自分だけでなく、相手も苦しいんです。その中で、このラリーのように少し難しめのボールに対して攻めて簡単にミスしてしまうと、相手はすごく楽になってしまう。「相手も苦しいんだから自分からはミスしない」という粘り強さが大切なのに、その苦しさから逃げるかのように、先に攻めて勝負!みたいなプレーはよくないと思います。
 もちろん、「攻めなきゃ勝てない」「攻めた方が強い」とずっと教えられてきていることもかかわっていると思います。それは確かにそうなのですが、僕からすると「相手を楽にさせるプレー」が1番だめなんですよね。簡単にレシーブをミスしてしまう、凡ミスをしてしまうなど。なので、自分のことばかりを考えるのではなくて、相手の心理になって、相手の気持ちをもっと思いやらないといけない。
 おそらく森薗は気づいていないと思いますが、自分本位に無理してでも攻めてしまう点は、今後、彼が修正していくべきポイントだと思います。

及川 5-3 森薗(森薗が3球目フォアハンドドライブをミスし、及川が得点)
 もったいない。とてももったいないですね、森薗は。バック前にストップが少し浮いてきて、左利きの選手にとっては(決める)ベストボールでした。「チャンスボールが来た!決めてやろう!」という感じで森薗は力んでしまいましたね。レシーブの甘さを見る限り、及川も相当びびっていましたが、これで楽になりました。
 森薗にとって、前のラリーと合わせて2本続けての打ちミスは、どちらもそれほど厳しいボールではなかっただけに、かなりもったいないですね。ここまで、こんなに簡単に打ちミスを続けることはなかったですから。森薗からすると、「このチャンスをミスしていたら何で点数を取ればいいのか」と考え込んでしまいます。

及川 6-3 森薗(及川がミドル前サービスから3球目で得点)
 及川がフォア前にサービスを出そうとしてネットした後、サービスのコースをミドル前に変えて得点しました。来ました、ネットした後、絶対にサービスを変えるパターン(笑)。このパターンは好きですね。僕好み。僕はサービスがネットしたら、及川のように変える場合もあるし、同じサービスを続ける場合もあります。
 いずれにしても、及川のこの作戦はいいと思います。

優勝を決定づけた及川の大胆なロングサービス


及川 7-3 森薗(及川がロングサービスで得点)
 及川が最高のタイミングでロングサービスを出しました。タイミングが最高ですし、何よりサービスの質が高かったですね。待っていても取れないくらいのロングサービスでした。
 勝負あった1本だと思います。

及川 8-3 森薗(及川がフォア前サービスをフォアハンドドライブでレシーブ強打して得点)
 点差が離れて、森薗の集中力も落ちました。ポイント3-3、3-4での2本の打ちミスで(集中力が)切れた感がありますね。
 この点差になってくると、森薗は前のゲーム(第6ゲーム)で逆転されたことを悔いていると思います。このゲームに集中できていません。恐らく、ずっと逆転されたことを思い返しているのではないでしょうか。

及川 8-4 森薗(及川が4球目バックハンドカウンターをミスし、森薗が得点)
 及川が調子に乗りましたね。このプレーは、後で邱さんにめちゃくちゃ怒られていました。本当にもったいない不用意なプレーで、ここが及川の若いところです。
 本当はこういうプレーを機に負けた方がいいんです、及川は。僕は、そういう大きな負けを知っているから、このようなプレーはしませんが、大きな負けがないと(不用意なプレーを)やってしまいます。
 森薗が前のゲームでの逆転負けを引きずっているからよかったようなものの、仮に相手が中国選手だったら、及川はこのプレーを機に絶対に負けていると思います。

及川の初優勝を支えた逆横回転系サービスからの3球目


及川 9-4 森薗(及川が逆横回転系サービスから3球目で得点)
 ようやく及川が逆横回転系サービスを出しました。このゲームで3回目ですね。最初に逆横回転系サービス出した時は失点しましたが、それ以降は全て得点しています。

及川 10-4 森薗(及川が逆横回転系サービスから3球目で得点)
 及川が、2本続けて逆横回転系サービスを出しました。この試合で初めてではないでしょうか。
 及川が序盤に逆横回転系サービスを出し続けなかったから森薗は最後まで的を絞れなかったという見方もありますが、競ったら森薗は効果的にレシーブできていません。5ゲーム目くらいからそうだったので、及川はここにきて2本連続で逆横回転系サービスを出しましたが、早い段階からこのサービスを多めに使っていれば、もっと簡単に勝てていた試合だったと思います。

及川 11-4 森薗(森薗がストップレシーブをチキータしようとしてミスし、及川の得点。及川が勝利)
 フォア前に来たサービスに対して及川がストップしたのを、森薗がチキータしようとして空振りしました。このゲームで及川は、フォア前に来たサービスに対してきちんとストップできるようになりました。森薗は、最初から最後までフォア前にこだわってしまったことが、よくなかったですね。

●男子シングルス決勝

及川瑞基 -8、-10、5、-8、9、10、4 森薗政崇


次回、【決勝と2021年全日本の総括(前編)】に続く

(まとめ=卓球レポート)

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