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世界卓球2022成都 「中国選手は常にゲームの流れを意識している」 男子決勝を渡辺理貴が解説

 元ナショナルチームコーチとして数々のトップ選手の指導に携わり、現在はTリーグの解説者としても活躍する渡辺理貴氏が、その卓越した観察眼で世界卓球2022成都を鋭く分析する企画。
 今回は、競技最終日の10/9に行われた中国対ドイツの男子団体決勝について分析していただいた。

【中国 対 ドイツ】
地球史上、最もハイレベルだった中国チーム


▼男子団体決勝
 中国 3-0 ドイツ
樊振東 8,8,9 ドゥダ
○馬龍 9,6,-9,1 ダン・チウ
○王楚欽 7,8,4 シュトゥンパー

 樊振東対ドゥダは、ドゥダが序盤から今大会の活躍を支えているストップからのストレート攻撃でリードしますが、ラリーの球威と1つ1つの球質のクオリティの高さで勝る樊振東が中盤で追いつき、逆にリードを奪う展開でしたね。ドゥダも必死にボールに食らいつきましたが、樊振東の球威に押されて返球が浅くなったところを強烈な一発ドライブで得点され、第1ゲームは樊振東が先取します。
 第2ゲームに入っても、ドゥダの攻撃パターンは決して悪くありません。ロングサービスや長めの縦回転サービスをうまく混ぜて樊振東に先手を取らせていなかったし、普通だったら決まっているボールが何本もありました。しかし、樊振東にことごとく深いボールで返球され、リードできませんでしたね。それでもドゥダは果敢なプレーを続け、樊振東が8-6と追い上げられたところで中国が早めのタイムアウトを取ります。タイムアウト明けで樊振東が選択したのがYGサービス(逆横回転系サービス)で、サービスエースを2本奪い、第2ゲームも樊振東が取ります。ドゥダのプレーはかなりの出来映えでしたが、それを上回る樊振東の隙のないプレーには為す術がありませんでしたね。
 第3ゲームに入ると、樊振東のカウンター以外には対応できるドゥダが台から少し距離を取って思い切って打ち返し、樊振東のバック側を執拗に狙って食らいつこうとします。しかし、最後は樊振東がバック側に来たドライブを回り込んで鮮やかに打ち抜き、勝利を決めました。
 結果的に、カウンターの精度と台上などの細かな技術の球質の差がスコアの差になりましたが、樊振東になんとか迫ろうとするドゥダの戦う姿は素晴らしかったと思います。主力組が欠場する中、主力としてドイツチームを引っ張ったドゥダは、大会期間中に間違いなく成長しましたね。

 2番は、序盤からダン・チウがキレのある裏面ドライブで、馬龍に積極的な攻撃を仕掛けます。反対に、馬龍に対して分が悪いと判断したフォア側のラリーでは、強弱を混ぜる非常に頭脳的な戦術でリードします。ダン・チウがこのまま第1ゲームを奪うかと思われましたが、この展開を打開したのが馬龍のサービスエースです。馬龍はよく切れたサービスでペースを取り戻し、逆転で第1ゲームを先制します。
 第2ゲームになると、馬龍のフォアハンドの決定率が上がります。ダン・チウもリスクを負って勝負をかけた展開でポイントを取る場面もありましたが、馬龍のサービスに対してレシーブミスを恐れて丁寧に入れにいったところをフォアハンドで攻められてしまいました。
 第3ゲームは、ダン・チウの開き直ったかのような積極策がうまくいきましたね。裏面ドライブを厳しいコースへ打ち分け、台上ドライブも決めて馬龍から1ゲームを取り返します。
 第4ゲームに入って驚かされたのが、馬龍の気迫です。こんな馬龍は見たことがないというほどラブオールから声を張り上げ、気合いが入りまくったプレーに、ダン・チウは戦意喪失といった感じで完全に押されてしまいましたね。地元開催で絶対に負けられない戦いに挑む、馬龍の中国の大黒柱としての意地を見ました。

 3番は、2対0リードで回ってきた王楚欽が、前半から伸び伸びとしたプレーでシュトゥンパーを引き離します。しかし、ブンデスリーガでは伝統あるデュッセルドルフに所属し、今大会では準決勝の韓国戦まで全勝だったシュトゥンパーも、王楚欽が連打しにくいコースへ手堅く返球して徐々に差を詰めていきます。しかし、ゲーム終盤、王楚欽の持ち味である強いインパクトで回転量が多いボールを生かした力技にシュトゥンパーが対応できず、王楚欽が第1ゲームを取ります。
 第2ゲームになると、王楚欽の力技が勢いを増します。シュトゥンパーも連打で対抗しますが、王楚欽が打ちミスしてくれないと点数が取れない状況が終盤まで続きました。しかし、力技で押してくる王楚欽に対し、打球点の早さで勝負に出たシュトゥンパーが、8-9と追い上げます。このあたりは、豪打の王楚欽と下手に打ち合わず、打球点勝負に切り替えたシュトゥンパーの戦術転換が冴えていましたね。
 ここで中国ベンチがたまらずタイムアウトを取ります。タイムアウト明けで王楚欽が選択したサービスが、シュトゥンパーへのバック側へのロングサービスでした。シュトゥンパーからすると意外性が高かったと思います。このロングサービスでエースを奪った王楚欽は、続くポイントでもチキータでエースを奪い、2ゲームを先行します。
 第2ゲームを取っていればまだしも、王楚欽を相手に0対2の状況をシュトゥンパーが跳ね返すのは難しかったですね。第3ゲームは王楚欽が積極的に大きいラリー展開をつくり、それまでうまくいっていたシュトゥンパーの前陣でのポジショニングを崩して、中国の優勝を決めました。

 この決勝でも顕著でしたが、樊振東、馬龍、王楚欽と中国ベンチは、ゲームの流れを常に意識して試合を進めていました。自分たちのプレーに集中するだけでなく、相手の流れでプレーを続けないことにも気を配りながら相手のリズムや戦術を崩すプレーをするので、負けないプレーをしつつ、球質の高いボールを連続して打つことができていましたね。そして、いざ自分たちの流れをつかんだときには一気に畳み掛けるのですから、対戦相手からすると彼らに勝つのは極めて難しかったと思います。
 今回の中国チームは、「地球史上、最もハイレベルな選手たち」と呼んでも過言ではありませんでした。

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得意のカウンターが光った樊振東

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気迫あふれるプレーで勝利の流れをつくった馬龍

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力技でシュトゥンパーを退け、優勝を決めた王楚欽

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「大会中に成長した」と渡辺氏が称えるドゥダ


(まとめ=卓球レポート)

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