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卓球 戸上隼輔が理想の環境オクセンハオゼンで目指した「意外性」

 ドイツ・ブンデスリーガ2022-2023に1部オクセンハオゼンから出場している戸上隼輔(明治大学)。パリ五輪出場を視野に、海外リーグへの挑戦を決めた戸上にとって2022年はどのような年になったのか。現地で取材したスポーツライター高樹ミナ氏のレポートをお届けしよう。(写真提供=Nico Schaal)

 男子1部の名門オクセンハウゼンからブンデスリーガ2022-2023に初挑戦している戸上隼輔が12月24日に帰国。チームのシーズン前半戦3位に大きく貢献し、存在感をアピールした。
 およそ1カ月の滞在で4試合に出場した戸上は、自身のデビュー戦となった12月4日のグリューベッターズバッハ戦でいきなり2点起用され1点を挙げると、12日のグレンツァオ戦でも1点を追加。
 さらに16日にはリーグ2位の強豪ザールブリュッケンと対戦し、エースを任され、神巧也にゲームカウント3対1で勝利。リーグ個人成績3位で世界ランキング10位のヨルジッチ(スロベニア)には1対3で敗れたものの、戸上(世界ランキング46位)にとっては収穫の多い一戦となった。

オクセンハウゼンがホームマッチで勝ったときのパフォーマンス。
「自分も勝って観客の前でできたらなと思っていた。念願が叶った」と戸上(写真提供=Nico Schaal)

 そして、最終戦のノイウルム戦はチームランキング3位のかかるダービーマッチに。この日3番で出場した戸上は同世代のシドレンコ(ロシア)をストレートで下してチームを勝利に導いた。これにより、シーズン前半の成績はシングルス4勝2敗。勝率5割をマークしている。

 とりわけ最終戦はホームマッチでスタンドはほぼ満席。スポンサーや関係者らも大勢詰めかけ、試合前にチームから「重要度の高い一戦だと聞かされた」という。
 その緊張感の中で「僕は3番のシングルスと5番のダブルスを予定していたんですけど、2-0で3番に回ってくると確信していたので、絶対に自分が勝って決着をつけてやろうという気持ちで臨みました」と戸上。
 結果、競り合いが予想されたシドレンコにストレート勝ち。直近で対戦した2020年ワールドツアー・ポルトガルオープンではフルゲームで惜敗した相手に圧勝した要因を、「相手の弱点をすぐに見つけることができた」と言い、サービスをフォア前に出せばシドレンコのレシーブがほぼクロスにしか返って来ないことを見極め、丁寧にポイントを重ねていった。
「初めて出場したホームマッチでチームに貢献できて、めっちゃ嬉しいです」と喜びを噛み締める戸上。

 オクセンハオゼンは人口8000人ほどの片田舎にあるクラブだ。しかし歴史は古く、練習環境も充実している。周りに娯楽を楽しむような場所は見当たらず、唯一の楽しみはマウンテンバイクで20分ほどの場所にあるサウナに入ることだったが、あえて戸上は志願してこの街にやって来た。
「正直言って、最高です。昔から理想としていた環境がここ。卓球に集中できて、周りに日本人がいなくて生活には必ず英語が必要で。そういう過酷な場所で強くなって日本に帰りたいし、試合で勝って自信をつけたいんです」

オクセンハウゼンはスイスやオーストリアと国境が近く、すぐそばに山脈があるため積雪が多い。
写真手前はチームのオフィス

チームのオフィス前で。戸上が被っているお気に入りのニット帽は友人のお母さんのお手製だそう

 その言葉通り、国際色豊かなチームメートたちと一つ屋根の下に暮らし、英語でコミニュケーションを図る日々。練習の合間には週2回のインターネット英会話も受講し言語の習得に努めた。
 その成果はチームメートと打ち解けている様子や元中国ナショナルチームの選手だったヘッドコーチの傅勇(フー・ヤン)から技術指導を仰ぐときの会話に見て取れる。

 チームメートのプレーから学ぶことも多く、例えば世界ランキング31位でエースのゴズィ(フランス)の場合、サービス・レシーブを参考にしたという。
「彼は練習の時から一つ一つの技術が本当に巧みで、サービスは予想以上にキレていますし、レシーブも『急にこんなところに返してくるか!?』みたいな意外性があります」と戸上。
 この「意外性」の追求はブンデスリーガ挑戦にあたっての大きなテーマだった。本人はそれを「閃(ひらめ)き」と呼び、「世界選手権(成都大会準決勝)の中国戦でなかなか1本が取れなかった。その時に何かそのゲームで出していない技術や戦術をパッと閃いて実行することが大切だなと思った」と意外性のあるプレーの重要性を語っている。

フーコーチからバックハンドのタイミングの指導を受ける戸上

戸上がサービス・レシーブを参考にしたというチームのエース・ゴズィ(写真提供=Nico Schaal)

 実際試合で、普段ほとんど使わないYGサーブを出して流れを変えようとしたり、1歳下で気の合うチームメートのクルチツキ(ポーランド)が使っているサービスを見よう見まねで出してゲームポイントを奪ったりもした。
 だが、それは「とても勇気が要ることだった」と戸上。
ヨーロッパはもとより世界中からエース級が集まるブンデスリーガは欧州最高峰のプロリーグだ。勝敗には国際大会とはまた違った重みがあるといい、「デビュー戦は死ぬほど緊張した。前日から緊張して、あんなに緊張したのは久しぶりだった」と戸上は振り返る。

 ブンデスリーガの洗礼を浴びながら、「本当にいい経験をさせてもらって、充実した1カ月を送れたと感じています。あとはこれを1月からの国際大会や全日本選手権に生かせるかどうか。それは自分次第だと思うので、また一つギアを上げて頑張っていきたい」と飛躍を誓う戸上に、「日本へ帰ったら何をしたいか?」と尋ねてみた。
 すると、「いろいろやりたいですけど、まずは......、サウナですかね」との返答。今、ハマっているのだそうだ。
 サウナで疲れを癒やしたら、年明け早々に世界卓球2023ダーバン(南アフリカ)のアジア大陸予選会(1月7〜13日/ドーハ)へと向かう。戸上は男子シングルスと、宇田幸矢とのペアで男子ダブルスに出場する。一味違う戸上に期待したい。

チームメートたちとギリシャ料理店でディナーを楽しむ戸上。右隣のクルチツキは1歳下で気が合う

ランチを終えインタビューに答える戸上。この後、インターネット英会話のレッスンを受けていた

(文・写真=高樹ミナ/スポーツライター)

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