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卓球 ドイツ・ブンデスリーガプレーオフ現地レポート
上田仁がボルとケルベリを破りケーニヒスホーフェンが準決勝で先制点

 ドイツ・ブンデスリーガ2023-2024男子1部プレーオフ準決勝が5月20日にスタートした。
 プレーオフに出られるのはレギュラーシーズンを戦った11チーム中、上位4チーム。この日はリーグ2位の強豪ボルシア・デュッセルドルフと3位でプレーオフ初進出のケーニヒスホーフェンが、約1,000人の観客を集めたバート・ケーニヒスホーフェンの本拠地シェークハンズアリーナで火花を散らした。(写真=Ruoxi Qiu)

「今日はベストマッチだった」(上田仁)

 大方の予想に反し、第1戦で勝利を挙げたのはケーニヒスホーフェンだ。
今シーズン後半戦から合流した上田仁が強敵ティモ・ボルアントン・ケルベリを破り、ボルと同じ43歳のバスティアン・シュテーガーも連敗続きだったケルベリをフルゲームで下して、ケーニヒスホーフェンがマッチカウント3-1でホームマッチを制した。

 バート・ケーニヒスホーフェンはドイツ・バイエルン州にある、人口わずか6,000人余りの田舎町のクラブチームだ。2017年の1部昇格から7シーズン目で悲願のプレーオフ進出を果たした。

満員のホーム会場がエース上田仁にエールを送った

 元・青森山田中学・高校卓球部で指導していた板垣孝司監督がチームを率い、シュテーガーと上田をダブルエースに据える。いずれの選手も現在WTTやITTF主催大会に出場していないため世界ランキングはついておらず、3番手のフィリップ・ゼリコ、4番手のマーティン・アレグロも世界ランク80〜90位台の選手だ。
 また、地元出身のキリアン・オルトは腰を痛め今シーズンは全く試合に出られなかった。

 対するデュッセルドルフは過去33回の優勝を誇る常勝軍団。主軸のボルは今年1月のWTTコンテンダードーハ男子シングルス決勝で張本智和(智和企画)を破り優勝。さらに世界ランキング12位のダン・チウ、17位のケルベリら世界のトップクラスがそろう。

 そんな選手層の異なる2チームの対戦で上田はエースとして起用され、1番と4番を任された。1番はボル、4番はケルベリが相手。意外なことに上田がボルと対戦するのはこれが初めてだ。
 第1、2ゲームともボルのリードを上田が追う展開となり、いずれのゲームもジュースからの競り合いで第1ゲームは12-10でボル、第2ゲームは13-11で上田が奪った。
 しかし、第3ゲームはボルのペース。回転量の多いボルの球に押されて後ろに下がり、防戦に回った上田はこのゲームを6-11で取られた。
 第4ゲームはベンチの板垣監督から「1本打ったら前、前!」というアドバイスが飛び、上田は台についてプレーすることを意識。5-4のタイムアウト明けは逆モーションやチキータレシーブをストレートに決めるなど思い切ったプレーで第4ゲームを11-7で奪い返した。

上田は初対戦のボルに思い切ったプレーで挑んだ

「僕の頭の高さぐらいまで跳ねるボールが飛んでくるので、打ちづらくて後ろに下がり打球点が下がる。そうすると相手のやりやすいペースになってしまうので、ライジングを狙っていった。それがすごくハマったし、家族と一緒にドイツまで来た集大成じゃないですけど、『あっさり終わるわけにはいかない』という気持ちがすごく強かった」(上田)

 最終の第5ゲーム、主導権を握ったのは勢いに乗る上田。ボルは3-6の場面でタイムアウトを取り反撃を試みるも、上田が11-6で押し切りフルゲームの激戦を制した。

満場の声援に後押しされ、トップの上田がボルから貴重な先制点を挙げた

上田は熱狂的なサポーターの期待にプレーで応えた

 これに触発されるように執念を燃やしたのはシュテーガー。相性の良くないケルベリと死闘を繰り広げ、競り合いの場面で必死にボールに食らいついたベテランの雄姿がチームメートとサポーターの応援に火をつけた。

「バスティー(シュテーガー)の1点は大きかった。5ゲーム目のゲームオールジュースでフォアに飛びつき、ちょっと転びかけたのに、そこからバックドライブを打った。ああいうプレーができる時のバスティーは強い」と話すのは板垣監督。

上田の勝利に触発されたか、シュテーガーも思い切ったプレーで苦手のケルベリを破った

 3番のゼリコがダン・チウに1対3で敗れると、4番に上田が再び登場。
 ケルベリとは前回(レギュラーシーズン第18節。3月18日)の対戦でストレート勝ちしていたが、続けざまに勝てる相手ではないと踏んだ上田は、自身の得意な台上技術やサービスで前回よりも相手を揺さぶって、ラリー力に長けたケルベリに連勝。チームに勝利をもたらした。
 ケルベリ戦を振り返り、上田は「強い相手に2戦続けて勝てたことは自信になった」とコメントし、この勝利がさらに上田の成長につながることを予感させた。

ここで決めたいケーニヒスホーフェン。上田は1度勝っているケルベリと好勝負を繰り広げた

上田の勝利でケーニヒスホーフェンが難敵デュッセルドルフから貴重な勝ち星を先制(写真=Ruoxi Qiu)

「少しだけ自分の殻を破れた気がします」(上田)

 ケーニヒスホーフェンの勝利が決まった瞬間、会場が揺れた。
 熱狂的なサポーターの大歓声と祝福の中心には上田がいる。
 日本からやって来た"ニューカマー"だ。

 それはとても信じがたい光景で、思い起こせば11カ月前、ドイツ行きが決まっていたにもかかわらず上田はチームの選手登録ミスでブンデスリーガ前半戦に出場できない事態に見舞われた。
 急きょ、オーストリアのウィーナー・ノイシュタットから欧州ナンバーワン決定戦のECL(ヨーロッパ チャンピオンズ リーグ)に参戦したが、ドイツに連れて行った妻と2人の幼い子どもを住み慣れない町に残し何日も家を空ける時、家族の身を案じずにはいられなかった。
 そんな中で上田はウィーナー・ノイシュタット初となるファイナル4進出に大きく貢献した。この時の経験がブンデスリーガ後半戦を戦う上で自信につながったという。

 大金星を挙げたボルとの初対戦にあたっては「彼はレジェンドだし、どこか憧れて試合をしてしまう部分があるので、大谷翔平選手のWBCの『憧れるのはやめましょう』じゃないけど、自分が勝ちに行くんだという気持ちで試合に臨んだ」と明かした。
 さらに自身の卓球に関して、「日本にいる時は、どうしても手堅い卓球だったけど、勢いの波に乗って試合ができるのは新しい感覚。何かを変えたつもりはないが大きく環境が変わって、やっぱりちょっともまれたのかな。少しだけ自分の殻を破れた気がします」と話した。

 上田の青森山田高校時代の恩師でもある板垣監督は次にように語っている。
「これで上田の個人成績は9勝6敗。でも、上田にはもっと力がある。特に台上のうまさやサービスをいろいろ変えながら相手の嫌がるところを見つけることができるのがすごい。もう少し思い切りのいいプレーができれば。ミスしても、やっていることが正しければ絶対にラケットも振れてくるし、ボールも入る。今日、勝ったのはうれしいが、次の第2戦が難しい。デュッセルドルフがどういうオーダーで来るのか。もうそれしか頭にないです」

 デュッセルドルフのホームで行われる第2戦は23日午後7時に試合開始。この試合でデュッセルドルフが勝った場合、勝負は26日午後1時開始の第3戦に持ち越される。
 第2戦で決着がつけば、ケーニヒスホーフェンは6月30日にフランクフルトで開かれるプレーオフファイナルに駒を進める。

長年チームを応援してきたオールドファンも上田の活躍をたたえた(写真=Ruoxi Qiu)

ブンデスリーガ2023/2024
プレーオフ準決勝第1戦
 ケーニヒスホーフェン 3-1 デュッセルドルフ
○上田 -10,11,-6,7,6 ボル
○シュテーガー -7,10,12,-7,12 ケルベリ
 ゼリコ -8,-7,10,-8 ダン・チウ○
○上田 -8,9,8,8 ケルベリ
 アレグロ/シュテーガー - ダン・チウ/ボル

(文/写真=高樹ミナ、写真=Ruoxi Qiu)

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