世界卓球2025ドーハ(個人戦)が5月17日よりカタールのドーハで開幕を迎える。ドーハでの開催は2004年以来2度目で、個人戦が行われるのは今回が初めてだ。
卓球レポートでは、4月30日に発表された各種目の組み合わせを受けて、8度の世界卓球出場を誇り、女子ダブルスでベスト8(世界卓球2011ロッテルダム、世界卓球2013パリ)の経歴を持つ藤井寛子(Tortoise)に、女子シングルスと女子ダブルスの見どころを聞いた。
まずは女子シングルスの見どころをお伝えする。
※組み合わせはこちら(WTT)
世界卓球では大会の重みを肌で感じた
私の現役時代を振り返ると、世界卓球に出場するレベルの選手は普段からワールドツアーにも出ていましたが、その中からシングルスでは5人の選手しか出られないということで、世界卓球の日本代表というのはすごく権威があって、選ばれし者という印象がありました。
選手はそこを目指して、ワールドツアーに出場し、試合に勝って、ランキングを上げていかなくてはなりません。まずは、「世界卓球に出ること」を目標にしていた選手は多いと思います。
実際に世界卓球に出場してみると、普段ワールドツアーには出てこない選手、北朝鮮などをはじめ、対戦したことがないようないろいろな国の選手が出てきます。ワールドツアーとは雰囲気も違いますし、選手の熱意も感じますし、大会の重みは肌で感じました。
個人的に記憶に残っているのは私が最後に出場した世界卓球2013パリの女子ダブルスです。準々決勝で陳夢/朱雨玲(中国)に敗れてしまって、中国越えの夢を果たせなかったというのが自分の中では悔しい思い出として残っています。ただ、それ以外のところでは、自分の卓球が世界に通用したという手応えも感じることができたので、非常に大きな意味のある経験をさせていただくことができたと思っています。

日本勢ではメダリストの早田、
初出場の張本に大きな期待
さて、世界卓球2025ドーハの日本女子について見ていきましょう。世界卓球2023ダーバンでは早田ひな選手(日本生命)が王芸迪(中国)との大激戦を制して銅メダル獲得を決めたのが印象的でした。あの試合を見ていて、早田選手は試合中にも戦い方の幅がすごく広がっていったと感じました。攻めるだけではなく、フォアサイドを厳しく突かれても相手のバック側に深いループドライブを送ってチャンスをつくるなど、得点のバリエーションが増えました。元々バックハンドには大きな特徴がありませんでしたが、あの試合から、バックハンドでも前についたり、フォアハンドでも前後に動きながら緩急をつけたり、いろいろなプレーができるようになりました。前大会ではひと皮もふた皮もむけて一気に強くなった感じがあります。
今大会、早田選手は順当に勝ち進めば、4回戦(ベスト8決定戦)で世界ジュニア女王(世界ジュニア2016ケープタウン)の石洵瑶(中国)と当たる組み合わせですが、今大会でもメダルの可能性は大いにあると思います。

張本美和選手(木下グループ)は個人戦は初出場ですが、世界ランキングで国内1位につけており、大いに活躍が期待できると思います。注目したいのが3回戦で当たる組み合わせのキム・クムヨン(北朝鮮)です。張本はキム・クムヨンには2024年のアジア選手権大会の女子シングルス決勝で敗れているので、警戒しなければならない相手ですが、左利きの異質型(バック面ツブ高)という独特の戦型なので、十分に対策練習ができれば、連敗は避けられると思います。
その関門を越えても、もちろん油断はできませんが、第2シードの王曼昱(中国)と当たる可能性がある準々決勝までは特段怖さを感じる選手はいないと思います。王曼昱とは、先日のワールドカップ2025ではかなりいい勝負ができていたので、世界卓球という大舞台で王曼昱を超えてほしいですね。

世界卓球2017デュッセルドルフでメダル獲得の経験がある平野美宇選手(木下グループ)は、3回戦でカット主戦型の徐孝元(韓国)と当たる組み合わせですが、しっかりとカットの変化に対応できますし、相手の攻撃も安定したブロックで止めて、攻撃に転じることができるので、平野選手の方が分がいいのではないかと見ています。
平野選手の4回戦の対戦相手が決まる山には初出場の大藤沙月選手(ミキハウス)がいます。もし、4回戦で平野対大藤が実現すれば、すごい打撃戦になるのではないかと思います。世界ランキングでは大藤選手が上回っていますが、経験や戦術の幅で優位に立つ平野選手が、どのように大藤選手の強打やカウンターを崩していくのかが見どころになりそうです。
大藤選手は勢いがありますし、相手に打たせてからのカウンターストレート攻撃は素晴らしい技術を持っているので、そうした技がさく裂すれば、上位進出の可能性もあると思います。ただ、初出場ということと、対応力の点ではまだ少し不安があるので、今まで対戦したことがない戦手にうまく対応しながら自分らしい卓球が貫けるかというところが序盤の課題になってくると思います。
ワールドカップ2025ではベスト4に入るなど国際大会で好調なプレーを見せている伊藤美誠選手(スターツ)は、3回戦でアクラ(インド)、4回戦で鄭怡静(中華台北)と当たる可能性がある組み合わせになりました。インドは異質型の選手が多く、世界卓球2024釜山では中国選手を破る活躍もしているので、他の選手も警戒しているとは思います。アクラもバック面ツブ高の異質型ですが、変化だけでなく、ドライブ系、ミート系のボールも多用してくるので、きっちりとサービス・レシーブ、台上で強打をさせないような試合運びをしなければなりません。
伊藤選手は、持ち前の前陣で攻めていく形で、先に相手を揺さぶってから強打で決めるパターンに加えて、戦い方に奥行きが出てきた印象です。いろいろな選手に研究されてきた中で、引き出しが増えてきていると感じます。ダブルスでは2度の銀メダルと1度の銅メダルを獲得していますが、シングルスではまだメダルを取っていないので、活躍を期待したいですね。
引き出しの多さ、戦術の幅で孫穎莎がリード
ここからは、中国勢を見ていきたいと思います。
第1シードの孫穎莎、第2シードの王曼昱が優勝候補の1番、2番というのは間違いないと思います。決勝までにこの2選手を破る選手が現れるかどうかも注目したい点です。
前回の優勝者の孫穎莎は、ボールの威力に目を引かれがちですが、引き出しの多さや、試合中の戦術転換の大胆さを私は特に評価しています。今まで、いろいろな試合を見てきて思うのは、追い詰められた場面でも、相手にいろいろやらせながら、さらに自分が上回れる強さがあって、対日本選手の試合でも「そこからそんなボールが打てるのか」「この場面でそんな勝負をしてくるのか」という勝負のかけ方がすごいと思うことがしばしばありました。
プレー領域も広く、中陣からも威力のあるボールが打てますが、下げられた場面での反撃だけでなく、前でカウンターをして、そこから1回下がってドーンと強いボールを打てたり、女子選手ではなかなかできない動きができる強さもありますね。

王曼昱の方は少し読みやすいというか、強いボールだけで勝負しようというところがあります。もちろん戦術の幅もありますが、身長もリーチもあって、難しいボールを打ち返したり、苦しいところから盛り返せる力を持っている選手です。
以前は攻められたときに崩れやすいタイプだと感じていましたが、東京オリンピックの団体戦あたりから、精神的な部分でも強くなったと感じますし、雰囲気やオーラで相手に「簡単には勝てない」と思わせる威圧感もあります。少し前の選手になりますが、郭炎と同じようなタイプの圧力とか力強さを王曼昱も持っていると思います。
中国勢で、次にチャンスがあると私が思っているのが陳幸同です。頭がよくてバランスのよい卓球をする選手ですね。バランスの取れた守備と攻撃が、自分の頭の中で緻密に戦術として組まれていて、その中で戦っているという印象です。同士打ちや対応能力では少し欠点もあると思いますが、全体的なバランスのよさという点ですごく長けている選手だと感じています。
王芸迪はいいボールもたくさんありますし、高いフットワーク力もある中で、メンタルの波があるのが玉にきずでしょうか。気持ちのムラがある半面、爆発力や強いフィジカルでゴムまりのような動きができるのは彼女の大きな特徴であり、対戦相手にとっては怖さになると思います。
5人目の石洵瑶は、陳幸同に近いバランス型の選手ですね。国内の選考会で出場権を勝ち取って今大会が初出場ですが、安定感があるので、いろいろなタイプの選手に対応できると思います。シニアではまだ目立った戦績はありませんが、まだ伸びしろのある選手だと思います。
表彰台独占もあり得る中国のメンバーですが、日本勢にはこの牙城を崩してほしいですね。
序盤は北朝鮮勢に注目
それ以外のところでは、怖いのはアジア女王のキム・クムヨンですね。同じく北朝鮮でパリ五輪ベスト8のピョン・ソンギョンも怖さがありますが、孫穎莎の山に入ったので、勝ち上がるのは難しいかもしれません。
ベテランの鄭怡静(中華台北)も上位進出が期待できます。1回戦でパク・スギョン(北朝鮮)と当たるので、要注意ですが、4回戦で伊藤選手と当たる組み合わせなので、好勝負が予想されます。
アジア選手の有利は動かしがたいとは思いますが、ヨーロッパではパバド(フランス)が面白いと思います。ヨーロッパ特有のボールの質やタイミングでアジアの選手を崩すポテンシャルを持っていると思います。
また、昨年のパリ五輪で張本選手を破ったカウフマン(ドイツ)にも注目していますが、2回戦で陳幸同と当たる組み合わせは厳しいですね。あの高身長からの威圧感のあるYGサービスと気持ちも強そうで面白そうな選手だと期待しています。

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(取材/まとめ=卓球レポート)