世界卓球2025ドーハでは、2019年以来6年ぶりに、元全日本チャンピオン、日本代表にして、現在はTBE(タマス・バタフライ・ヨーロッパ)に勤務し、世界の卓球事情に通じた梅村ならではの眼で世界卓球で繰り広げられた名勝負を解説する。
ここでは、男子シングルス決勝 王楚欽(中国)対カルデラーノ(ブラジル)の一戦について話を聞いた。
▼男子シングルス決勝
王楚欽(中国) 10,3,-4,2,7 カルデラーノ(ブラジル)
序盤で距離感をつかんだ王楚欽
試合の入り、1ゲーム目は王楚欽がちょっと「距離感を測っているな」という印象を受けました。やっぱりワールドカップでカルデラーノに負けてるというのもあって、かなり慎重に「どこで取るか」を探っているような入り方でした。
でも、2ゲーム目の途中、2-4くらいから一気に連続ポイントを取っていって、「あ、もう距離感をつかんだな」というのがはっきり見えました。そこからは前に出てカウンター、下がらずに無理せず処理するなど、「ここで戦う」っていうゾーンに入った王楚欽は、本当に強かったですね。
サービス・レシーブ、コース取りの徹底
今日は観客席の上の方から見ていたのでよく見えたんですけど、王楚欽はサービスの長さとか、レシーブのボールの落とし場所とか、すごく繊細にコントロールしていた印象でした。特に両サイドに振るとカルデラーノにフルスイングされるので、それを避けるように、あえてカルデラーノの体の近くにボールを集めていく。そういう戦術の変化の仕方が、本当にうまかったです。
カルデラーノが取った3ゲーム目では、逆に王楚欽の前に落とす技術に対してしっかり対応してましたね。チキータを打たせずに、あえて短く止めてリズムを変えていました。レシーブも「払って速く打つ」ではなくて、「ちょっとゆっくり入れてみる」「ちょっと前に落としてみる」という工夫が見えました。
ボールの「落とし所」をめぐる攻防
この試合はレシーブで無理せず前後に揺さぶっていく、そのボールの「落とし所」がひとつの大きなテーマだったと思います。両者とも普通にツッツキやチキータだけでは戦えないという前提があって、そこからいかに相手のフルスイングを封じるかという攻防がありました。
特に王楚欽は、徹底して「カルデラーノにミドルでフルスイングさせない」というコース取りをしていました。昨日、カルデラーノが梁靖崑に勝った試合とは打って変わって、今日は本当に強打が半分くらいしか出せてなかった。それが、この4対1というスコアにそのままつながったのかなと思います。
王楚欽、中国初の「左利きシングルス王者」
ちょっと余談になりますけど、これまで中国で「左利きの男子シングルス王者」っていなかったんですよね。王楚欽が初で、今まで一人もいなかったのが不思議なくらいですが、そういう意味でも歴史的な勝利でした。
それと同時に、カルデラーノがここまで中国勢に迫れるようになってきたというのも事実にも大きな意味があると思います。この事実が今後の他国の選手たち、アジアの選手だけでなく、たとえばルブラン兄弟などにも「自分たちもいけるかも。中国を倒せるかも」という意識を与えるきっかけになるんじゃないかなとも思います。
最近は国際大会が多いので、トップ選手の中国ラバーに対する慣れや対策の立てやすさなど、そういった背景が今、少しずつ実を結びつつあるのかもしれません。
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(取材/まとめ=卓球レポート)




