水谷隼は、用具に妥協することはなかった。
打球時のわずかな違和感をとらえ、用具の改善を必要とした。
「磨きぬかれた自身の腕に狂いがないのなら、違和感の原因は用具にある」と。
用具の性能に高い水準を求め、それ以上にプレーの向上を自らに課してきた彼だからこそたどり着ける境地があった。

定番とは言えない用具選択や、本質を突く歯に衣着せぬ発言、 また中国およびロシアリーグへの単身での挑戦など、
人とは異なる考え方を貫き、異なる方法を模索した。
誰も踏み入れたことのない地を行くのは容易でなかっただろう。数々の犠牲も払っただろう。
それでも「頂点に立ち、卓球をメジャーにする」ことに執念を燃やし続けた水谷隼は、
自分を追い込む鍛錬を重ね、さまざまな困難に打ち勝ち、独自の道を見出してきた。
コートを縦横無尽に駆け回るフィジカル、研ぎ澄まされた技術、巧みな戦術を駆使して戦う “隼”は
そうして仕上がり、そして栄光をつかみ取った。

王者になるための、王道はない。
水谷隼の背中を追う後進たちに、自身の競技人生をもってその事実を示した今、
彼はコートの外での活動で飛躍を遂げ、新たな世界を切り開こうとしている。