用具選びに妥協のない男
話せば話すほど、ここまで用具の話が出てくる王者も珍しい。元来、用具に執着しているような選手は弱いことが多く、そんなことよりも技術を高めろと言われてしまうのがオチだ。
しかし、水谷は技術はもとより、用具にもこだわり、妥協はしない。チャンピオンは用具の重要さを知っているのだ。誰よりも技術を磨き、誰よりも用具にこだわる。
水谷隼は用具にこだわる選手だ。数多くの選手に取材してきたが、その用具を使う理由、そして変えた理由をしっかり自分の言葉で説明できる選手は多くない。しかし水谷は明確に表現する。感覚的で抽象的な表現になりがちな卓球の用具の繊細な部分を的確に感じ取る。「用具の性能、良いか悪いかはすぐにわかる。ラバーの個体差、誤差よりも自分の腕のほうが正確だと思っています。自分の感覚を信じていますから」。水谷にしか言えない言葉だろう。
こだわるから変える、こだわるから使い続ける、こだわるには理由がある。水谷隼が使い込んできた用具を振り返り、現在への道筋を見ていこう。これが王者の変遷だ。
現在、日本のみならず、世界のトップランカーのほとんどの選手がフレアを使う中、水谷は昔からストレートのグリップを使っている※。握りの特徴はサムアップされた親指、そして人差し指の位置だ。
「ぼくはグリップをガチっと握らない。だから細かく面を変えられるストレートが好きなんです。フレアが流行している理由はフォアとバックの切り替えがやりやすい点だと思います。ストレートだと切り替え時に一瞬ずれる。握りを変えないといけないので、遅れてしまう。また、バックハンドはフレアのほうが絶対に打ちやすいのです。でもストレートは台上プレーの微調整がしやすいし、サービスも出しやすい。またミドルを攻められた時に面を出しやすいと思います。自分に合っているのは自由に動かせるストレートですね。グリップは人差し指の位置を試行錯誤しました。中指から指1本分くらい空けることでフォアとバックのバランスがうまくできるようになりました」
【卓球王国 2017年2月号別冊水谷隼掲載】
文=卓球王国