幼少期は親がチョイス。コントロールの良いラケットに柔らかいラバー

水谷は5歳で卓球を始めた。さすがの水谷も最初から用具にこだわる選手ではなかった。父親が用具を選び、それを使っていた。コクタク製のラケットに『トリプルスピン』(TSP)、『マークV』(ヤサカ)など、メーカーにとらわれずにスタンダードな用具を使っていた。その後、小学3年生になった時に両面『スレイバーFX』に変更した。ラケットは5枚合板の『エルモーソライト』という、かなりはずみを抑えたコントロール系ラケットだった。
全日本選手権カブの部で優勝した10歳の時、ラケットを『スピナート』に変更。以前使っていた『エルモーソライト』より少し弾む5枚合板だ。その後、ラバーを『ブライスFX』に変更した時には、全日本選手権ホープスの部で優勝。小学生での全日本選手権3階級制覇は、コントロールの良い5枚合板と軟らかいラバーの組み合わせで成し遂げた。まだ用具に興味はなかった水谷だが、徐々に自分の用具の好みや感覚が形成されていく。

「『スレイバーFX』を使っていて、途中から『スレイバーEL』を少し使いました。そこからみんな『ブライス』を使い始めました。ぼくは軟らかいラバーを使っていたから、『ブライス』ではなく、そのまま『ブライスFX』が良いんじゃないかなと変更したんです。あと、なんとなくですが、みんなが『ブライス』を使っていたから『FX』にしてみようと思ったんです」。
水谷の唯一無二の卓球スタイルは、彼自身の性格や思考も関係しているだろう。彼は根っからの天邪鬼だ。小学生高学年からは自らが用具を選んでいることもあり、それが形となる。他の人と同じでは勝てないというチャンピオンの気質は用具にも現れているのだ。

9歳 全日本カブ3位

  • ラケット

    エルモーソライト
    エルモーソライト
  • フォア面

    スレイバーFX
    スレイバーFX
  • バック面

    スレイバーFX
    スレイバーFX

10歳 全日本カブ優勝

  • ラケット

    スピナート
    スピナート
  • フォア面

    スレイバーFX
    スレイバーFX
  • バック面

    スレイバーFX
    スレイバーFX

12歳 全日本ホープス優勝

  • ラケット

    スピナート
    スピナート
  • フォア面

    ブライスFX
    ブライスFX
  • バック面

    ブライスFX
    ブライスFX

柔らかく弾む用具を求める。徐々にラケットは硬く、ラバーはプレーの進化で変更

中学生になると、ラケットは特殊素材のアリレートが入った『ティモボルスパーク』を愛用。打球感が柔らかく、木材ラケットからでも違和感なく変更できるラケットで、水谷の柔らかい打球をさらにしなやかにさせるブレードだ。その後、ドイツへ卓球留学し、指導者のマリオ・アミズイッチにラケットの変更を打診された。
「自分では結構気に入っていた。でもマリオは『これは子ども用ラケットだから変えなさい』と言ってきました。もっと弾むラケットにするべきと言われて、アリレートカーボンのラケットに変更しました」
柔の感覚を持つ選手には剛のラケットを持たせる。中学2年生でカーボンへの入り口を通過し、弾むラケットへの適応を高めていく。選んだラケットはデンマークの悪童の名前が冠してある『メイス』。水谷と同じ左利きであり、ロビングを駆使するオールラウンダー。共通部分は多い。この用具を使い、05年世界選手権上海大会で当時世界ランキング5位の荘智淵(チャイニーズタイペイ)を破った。

一方でラバーはバック側の『ブライスFX』を『スレイバーEL』に戻している。ドイツでバックハンドの技術が向上したことで、適正なラバーが変わったのだ。ブロックは抜群にやりやすい『ブライスFX』だが、より攻撃的にプレーを進化させて、カウンターを試みると落ちてしまう。当時はまだスピードグルー全盛の時代だったため、スピードはグルーで高めることができる。問題は回転力だったのだ。
ただ、ここで問題が発生した。『スレイバーEL』の回転力は魅力だったが、『ブライスFX』並のスピードを確保するためには、より多くのスピードグルーを塗り込む必要があり、思った以上に時間がかかってしまった。スピードグルーを1試合ごとに塗っていたが、立て続けに試合が入ると、ベストな状態では臨めない。それを考えると、多少パフォーマンスは落ちても『ブライスFX』のほうが安心できる。07年で初の全日本選手権一般の部で優勝した時は『メイス』に両面『ブライスFX』だった。

高校3年のインターハイから現在までラケットは自身のモデル『水谷隼』を使い始める。世界で戦うためのスピードと弾みを求め始めていく。
『水谷隼』はかなり弾むラケットだ。新素材のZLカーボンを搭載したことにより、板厚が薄くても高弾性を実現した高性能ラケットである。アリレートカーボンよりも弾むZLカーボンは、水谷が求める攻めの弾みを実現した。木材→アリレート→アリレートカーボンと徐々にラケットは硬質の階段を登っていく。そしてこのラケットは長く水谷の相棒となる。

14歳 全中2位

  • ラケット

    ティモボルスパーク
    ティモボルスパーク
  • フォア面

    ブライスFX
    ブライスFX
  • バック面

    ブライスFX
    ブライスFX

15歳 全中優勝

  • ラケット

    メイス
    メイス
  • フォア面

    ブライスFX
    ブライスFX
  • バック面

    スレイバーEL
    スレイバーEL

17歳 全日本選手権優勝

  • ラケット

    メイス
    メイス
  • フォア面

    ブライスFX
    ブライスFX
  • バック面

    ブライスFX
    ブライスFX

18歳 インターハイ優勝

  • ラケット

    水谷隼
    水谷隼
  • フォア面

    ブライスFX
    ブライスFX
  • バック面

    タキファイアC
    タキファイアC

【卓球王国 2017年2月号別冊水谷隼掲載】
文=卓球王国