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ティモ・ボル インタビュー「プレーしているのは常に自分なのです」

 ここ5年の世界ランキングを振り返ったときに、最低でも14位だったのだから、それを低迷と呼ぶことには抵抗があるが、第一線からは退いていたという印象を持っていたファンも少なくなかったことと思う。しかし、ベテランと呼ばれるようになって久しい37歳のティモ・ボル(ドイツ)は、再び世界のトップ・オブ・トップに返り咲いた。誰がこの復活劇を予想しただろうか?

 2017年4月の韓国オープン優勝を皮切りに、地元デュッセルドルフで開催された世界卓球ではベスト8、出場するワールドツアーではことごとく上位進出を果たし、10月に行われた男子ワールドカップでは世界王者の馬龍(中国)を破って、決勝進出を果たした。そして、欧州トップ16優勝のポイントが反映された2018年3月の世界ランキングでは、2011年3月以来、実に7年ぶりに世界ランキング1位の座に返り咲いた。
 それ以降も、世界卓球2018ハルムスタッドでの活躍、特に準決勝の韓国戦での李尚洙と鄭榮植からの2点取りは記憶に新しいところだろう。また、今シーズンは、長年所属するクラブ、ボルシア・デュッセルドルフでもエースとして獅子奮迅の活躍を見せた。ヨーロッパ・チャンピオンズリーグでは水谷隼(日本)、オフチャロフ(ドイツ)ら
を擁するオレンブルクにリベンジを果たして王座を奪還。ドイツ・ブンデスリーガでもオクセンハオゼンの勢いのある若手2人、カルデラーノ(ブラジル)とゴズィー(フランス)を決勝で退け、5連覇を決めている。
 37歳になるヨーロッパの皇帝ティモ・ボルが、並みの選手では成し得ないような偉業を今なお達成し続けていることを、世界中の多くのファンが驚きとともに歓迎していることだろう。

 卓レポ.comではジャパンオープン出場に先がけて来日したボルに、約2年半ぶりに取材を行うことができた。これから本サイトで公開予定の技術特集の前に、見事に「復活」を果たしたボルにその理由と今の心境を聞いてみた。年輪を重ねた彼の、今まで以上に飾らない、しかし、深みのある言葉を味わっていただきたい。


Q.再び世界のトップに戻ってこられた理由はなんでしょうか? また、自分で変えてきたと意識しているところはありますか?

「ボールの素材がプラスチック(非セルロイド)に変わる前は、私の最大の武器は回転量の多いドライブでした。このドライブで簡単に多くの点を取ることができたのです。
 ところが、ボールの素材が変わり、回転量が減ったことで、今では大半の選手が私の最初のドライブをブロックできるようになってしまいました。そこで、ドライブだけではなく、コース取りを工夫したり、ドライブの次のボールで得点すること、また、ミスを減らすことにより注力するようになりました」



Q.プレーをそのように変えるために練習内容も変えましたか?

「昔のようにあまりけがをしなくなり、多くの試合ができるようになっています。練習はあまりしていませんが、試合にはたくさん出ています。また、トーナメント形式の大会では終盤まで勝ち上がることで、多くのトップ選手と試合をすることができます。レベルの高い選手と頻繁に試合ができることで、自分のレベルを上げることができているのです。レベルの高い選手と試合をすると、そのレベルの高いボールに慣れていき、この年齢でも少ない練習量でさらにレベルアップできているのだと思います」


Q.なぜ、これほど長く高いモチベーションをキープできているのでしょうか?

「私にとっては、モチベーションを保つことはごく普通のことです。卓球がとても好きですし、他には何もしたことがありません。卓球をやめるということを考えること自体がとても大変なことです。それを考えると、心が痛みます。
 ですから、もしかしたらあと数年しかプレーできないかもしれないので、今はただ卓球を楽しむことに集中しています。また、試合中にもしょっちゅう『試合を楽しむように。この雰囲気を楽しむように』と自分に言い聞かせています。試合に勝つことは簡単ではありませんが、自分がこんなに高いレベルで戦えていることを幸せに思っています。だからこそ、モチベーションがあるのは私にとって当たり前のことなのです」



Q.ボル選手のプレーに憧れている選手は世界中にたくさんいますが、あなたのようなプレースタイルで成功している選手は他にはいません。その理由はなぜだと思いますか?

「トップレベルになるためには、他の選手と差別化することが必要です。同じ位置からフォアハンドドライブやバックハンドドライブを打たせたら、世界のトップ300人の選手はほとんど同じように打てるでしょう。それは皆ができることだと思います。ですから、自分のスタイルや特別な点を伸ばすことが必要になります。
 私は完璧主義者で、なんでも完璧に、正確にやりたいタイプです。私は試合中、各ポイントの後に、正直に自分自身を分析します。相手のミスや運やコーチのあら探しはしません。プレーしているのは常に自分なのです。そうやって自分を伸ばしてきました」



 これまでボルは、美意識ゆえか、それが自分にとって当たり前すぎるからなのか、自身のストイシズムをひけらかすことをあまりしてこなかった。だが、このインタビューの最後の言葉には「プレーしているのは常に自分。何事も決して他人のせいにしない」という掟を己に課してきたボルの厳しさを垣間見ることができた。そして、その掟こそが自身の成長の源だというのだ。
 私は、この言葉をボルの新たな決意表明と受け止めたい。そして、ベテラン選手について語る言葉としては似つかわしくないことは承知の上で、彼のさらなる成長を確信していると記しておこう。


ティモ・ボル:https://www.butterfly.co.jp/players/detail/boll-timo.html

(インタビュー/文=佐藤孝弘)

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