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2024年全日本卓球男子シングルス優勝 
張本智和インタビュー④

 待ちに待った6年ぶりの優勝、そう思う余裕もなかったのだろう。
 フォアハンド強打を受けた戸上隼輔(明治大)のブロックがオーバーし、最終ゲーム16-14で全日本王者の座に返り咲いた瞬間、張本智和(智和企画)はしばしぼうぜんと立ち尽くし、それから、崩れ落ちるようにして両膝をフロアに着いた。
 球史に残る名勝負。会場であれ、画面越しであれ、あの瞬間に立ち会った者なら、その言葉が少しも大げさでないことに賛同してくれるだろう。
 それから数日後、張本はあの熱狂の渦中にいたのがうそのような自然なたたずまいで、卓球レポートの取材に応じてくれた。私たちは、静かに、居住まいを正してチャンピオンの言葉に耳を傾けた。
 インタビュー最終回は、優勝後の心境と、世界卓球、オリンピックへの意気込みを聞いた。



「これほど1位と2位の差がないと思ったのは初めて」

--戸上選手にはなんと声をかけたのですか?

張本 最初は向こうから「おめでとう」と言われましたが、僕は本当に勝った気がしなかったので、「関係ないよ!1位も2位も変わらないでしょ!」と答えました。
 それほど勝ったという感覚がなかったんですよ。逆に、僕が戸上さんだったら、あれだけ攻めていて、ずっとリードしていて「負けた」という感覚はないと思って。1点、2点の差で勝負が決まって、それはもちろん大きいんだけど、勝った身からしてみれば、全然大きいことだとは思えないです。8回のチャンピオンシップポイントの時に、1回でもネットやエッジされていたらまけていましたから。
「そこで勝ちきるかどうかが違うんだ」って言うかもしれないけど、あの日の僕と戸上さんの中においては違いはないですね。次は3対4ジュースで負けるかもしれないし、そうしたら、僕が何か悪かったかって言ったらそんなことはないと思います。本当に、これほど1位と2位の差がないと思ったのは初めてです。
 点数も同じ(7ゲームの合計点数78-78)と聞いて、本当に引き分けでもいいと思いましたね。

--張本選手が負けていても今と同じように思えたと思いますか?

張本 負けていたら「1位も2位も同じだよ」と言われても信じないと思いますね。戸上さんも信じてくれてはいないと思いますが、僕は本心からそう言っています。本当に今でもあまり勝った気がしていないので。
 あれがオリンピックだったら、金と銀という差が出てしまうのは残酷ですけど、もっと強くなるためには、差がないと思うしかないですね。また同じ試合をしたら、あの展開になっても次は勝てるかどうかわからないですし、本当にちゃんと戸上さんよりも自分の方が強いと言い切りたいんだったら、4対3ジュースではなく、来年の決勝は4対1とか4対2でちゃんとリードして勝たないといけないです。

--戸上選手のベンチコーチの水野裕哉さんからも声をかけられていましたね。

張本 水野さんは「ありがとう。本当にすごかった」と言ってくれました。試合が終わってからも「二人の試合をずっと見させてくれてありがとう」というメッセージもいただきました。
 戸上さんとは選考会でも5、6回当たっているので、毎回「またですね。今回もお願いします」というやり取りをしていて、水野さんともいっぱい戦いましたね。

--董崎岷コーチからはどんな言葉をかけられましたか?

張本 あんまりしゃべってないんですよ。抱き合って、表彰式で写真を撮って、僕がドーピング検査がすぐにあって、その間に董さんは新幹線で帰ってしまったので。そこからまだ連絡も取り合ってないですね。
 話す機会があったら、董さんはたぶんすぐに技術の話をするでしょうね。僕が押されていたことに間違いはないし、またこういう奇跡が起こるとは限らないので、そういう話をすると思います。「よかったね」のあとは、すぐに次を見据えての話をしてくれると思います。

--6年ぶりの優勝に特別な感慨はありますか?

張本 6年前の水谷さん(水谷隼/木下グループ)に勝った時は、4対2でちゃんと勝ったなって喜びをかみしめることができましたけど、今回は、表彰台に登っても、まだ戸上さんにリードされているような気がしていました(笑)
「あれだけ戸上さんが押していたのに、本当に俺が勝ったのか?」という感じで、「やったぜ」みたいな感覚はまったくありませんでした。
 全日本の決勝だから結果がすべてだけど、もっと成長するためには、13になるまでの前半の4ゲームに目を向けないといけないと思います。

--試合後の記者会見で「全日本の意味を再確認した」と言っていましたが、張本選手の中での全日本の位置づけは変わりましたか?

張本 あの試合は全日本の決勝じゃなければできないと思います。WTTの決勝だったらあんなに熱くならなかったし、最終ゲーム13-13でも観客もあおりませんね。
 今年はオリンピック前で世界ランキング、シード権が大事ですから、インド(全日本と同時期に行われていたWTTコンテンダー ゴア)に行っていた方がよかったかなと、準決勝までは思っていたんですよ。全日本で優勝してもランキングポイントはゼロですしね。
 でも、決勝で戸上さんとあの試合をしてしまったら、全日本はすごいって思わざるを得ない。東京体育館という会場で、あの観客の皆さんがいたからこそ作り上げられたあの試合だと思うので。本当に自分は勝たせてもらったとしか思えないんですよ。
 僕を勝たせてくれたのは、観客の皆さんかもしれないし、神様かもしれないし、あの青い人かもしれない。今回ほど観客の雰囲気を味方だと思ったのは初めてですね。
 いつもは相手の応援が多くて「なんかいやだなあ」と思っていました。今回も戸上さんには明治大の応援がありましたが、僕は母体がないので、その点で、うらやましいと思っていましたね。1対3でリードされていた時は、ひょっとしたら僕が負けているのはその差なのかなとも思っていました。
 僕は董さんがいて、マッサーの方がいて、両親がいますが、チームメートの応援があるというのは正直うらやましかった。でも、僕にはあの「青い人」がアリーナ席にいて、その人だけで全員に勝ちました。戸上さんの応援は全員2階席でしたからね(笑)

--この決勝を経て、戸上選手に対する印象、評価は変わりましたか?

張本 今回、僕が勝ったからこそ逆に同じくらいのレベルだと思いましたね。勝って戸上さんを超えたとかではなくて、僕が勝ったからこそ、本当に並んだなと。
 カタールで勝った時は「僕の方がちょっと慣れてきたな」という感じでしたが、今回は本当にいまだに勝った心地がしないですし、僕が押されていたときの戸上さんの顔を思い出しても怖いですし、負けていてもいつでも逆転できる雰囲気を出してくるので、試合前から多少覚悟はしていましたが、試合をやりながらも「本当に強いなあ」って思っていました。
 試合に勝っても負けても、これからも戸上さんとの試合はこんな感じになるんだろうなと思います。逆に、あの戸上さんに4対2、4対1で勝てるようになったら、「自分、すごいな」って思えますね。現時点では本当に互角だと思います。

--球史に残る名勝負との高い評価を受けている決勝ですが、もし、4対0、4対1で楽に勝てていたら、その方がよかったですか。それとも、この決勝を経験をしてよかったと思いますか?

張本 全然、普通に勝ちたいです!誰の記憶に残らなくてもいいので優勝したいです(笑)
 確かにこれだけ競ったから、みんなに覚えていてもらえるのかもしれないけど、勝つことが一番大事なので。
 もし、4対0、4対1とかで戸上さんに勝てていたら、それはもう中国と同じくらいの力があると思います。最近の国際大会を見ていても、戸上さんにそんな勝ち方ができるのは中国くらいしかいないですからね。以前は、戸上さんが強いのは僕に対してだけじゃないか、国内だけじゃないか、と思っている時もありましたが、今は正真正銘トップのトップ選手の仲間入りをしているので、オリンピックも、もしかしたらシングルスで決勝や3位決定戦で当たるかもしれない。それくらい、今後も何度も対戦していくと思います。

張本は肩を落とす戸上を説得するかのように語りかけた

「僕と戸上さんから3点取るのは相当難しい」

--世界卓球(団体戦)も控えていますし、オリンピックも団体戦があります。戸上選手はチームメートとしては頼もしい存在ですね。

張本 本当にそれは思いますね。(世界卓球2024釜山の予選グループリーグで日本男子と同グループの)林昀儒(中華台北)に当たるのもたぶん戸上さんが先になると思いますが、やってくれるんじゃないかと期待しています。林昀儒は強い選手ですが、今の戸上さんだったら簡単には負けないし、普通に勝つ可能性は全然あると思います。アルナ(ナイジェリア)だったら互角以上ですね。僕の中ではそれくらいの評価です。
 最悪、5番まで回っても戸上さんだったら任せられるし、戸上さんで負けたらしようがない。その前に、自分が2点取れれば勝てるという気持ちもあります。僕と戸上さんから2点以上取るのは相当難しいと思うので、楽しみですね。前回もメダルは取れましたが、メダルの可能性は前回以上にあるんじゃないかと思います。

--世界卓球が終わったら、次のビッグイベントはいよいよパリオリンピックですね。

張本 オリンピックはまだちょっと先かなという感じがしていて、世界卓球もあるし、シード争いで頭がいっぱいなので、パリがどんな感じかというイメージは正直できていないです。
 たぶん、3月、4月、世界卓球が終わったくらいから、ニュースの報道の仕方とかも変わってきて、そういう外部の声で自分も意識し始めるのかなと思います。東京オリンピックの時もそうでした。
 東京の時は、大会の1カ月前、2カ月前は本当に気が狂いそうになりましたね。夜中の12時に不安でサービス練習とかしていましたし、ラケットもめっちゃ注文して、使ったことのないアナトミックグリップのラケットまで注文して、しかも、使ってみて「これだ!」とか思って、その日のうちに「やっぱりこれじゃない」みたいに、本当におかしくなっていました。
 今は多少の経験があるからそういう準備ができますけど、また、ああいうふうにならないとは言い切れないですね。でも、それくらい人を狂わせる力があるからこそ、価値のある大会だと思います。
 大事なのはプレーよりも生活で、ちゃんといつも通りの生活と練習ができればプレーもちゃんとできると思います。

--オリンピック初出場ではなく、2回目のアドバンテージはありますか?

張本 前回は日本で、しかも、無観客だったので、そういう意味では、海外で観客のいるオリンピックは初めてなんですよね。今は楽しみですけど、当日になったらきっと「メダルほしい」って思ってしまうだろうし、今回の全日本も優勝したいけど、途中で諦めかけたのがよかったかもしれないし、わからないですね。「メダルがほしい」って口に出せば何とかなるというものでもないですし、自分が試合をやりやすいようにやるのが一番かなと思っています。



 2024年全日本卓球 男子シングルス決勝 張本智和 対 戸上隼輔
 この試合に、付け加えるべき何かなどない。これまで背景を知らずとも、あの1時間16分の1戦だけで十分に大傑作たり得るのだから、その傑作の裏側を根掘り葉掘り聞くことなど蛇足になりはしないだろうか。
 そんな不安を、聞く者に突き刺さるような印象深い張本の言葉の数々は吹き飛ばしてくれた。
 私はあえて、このインタビューの冒頭で、やや辛辣な質問を張本にぶつけている。全日本を軽んじているかに聞こえた張本の言葉に、個人的にも少なからぬ引っかかりを覚えていたからだ。だが、張本はこちらが拍子抜けするくらい正直に「戸上が怖かった」とその心情を語ってくれた。
 勝者の余裕かもしれない。負けていたらそうは言えなかったかもしれない。だが私は、自分の不安と向き合い、相手の強さを認め、それを率直に言葉にできる素直さこそが、張本をここまで強くしているのだと確信している。
 その張本が本心から戸上をライバルとして認めていることに疑いはない。そんなことは敗れた戸上には何の慰めにもならないかもしれないが、張本が、戸上の3連覇を簡単には達成させてはくれない好敵手であったことは、戸上がさらなる成長を遂げる上での必然であるとは考えられないだろうか。
 引退後長らく日本男子の中に立ちこめていた「水谷隼の不在」という暗雲を、この2人が遠い思い出に変えてくれる日はすぐそこまで来ている。

(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)

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