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強化のフロントライン7 ジャパンオープンでの伊藤美誠の評価

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~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。今回は、6月に行われたワールドツアー・ジャパンオープン女子シングルスで優勝した伊藤美誠(スターツSC)の評価を掲載しよう。


●新技術と広くなったスタンスで大躍進を遂げた伊藤

 
中国の次期エース候補を連破して優勝した伊藤


下回転が強い「美誠チキ」はオンリーワンの技術

 6月に行われたワールドツアー・ジャパンオープでは、男子シングルスで張本智和(JOCエリートアカデミー)が衝撃的な優勝を果たしましたが、張本と同等かそれ以上に素晴らしかったのが、女子シングルスで優勝した伊藤美誠(スターツSC)です。実力者ぞろいの日本女子は競争が激しいですが、今回の優勝で伊藤は、その中から一歩抜け出した感じがします。
 中国の次期エースと目される王曼昱を倒した決勝もさることながら、圧巻だったのは王曼昱と並んで次代の主軸として期待される陳幸同(中国)との準決勝です。この試合で伊藤はゲームカウント0対3と陳幸同に追い込まれましたが、そこから4ゲームを連取し、逆転で勝利をもぎ取ってしまいました。長年、国際大会で中国選手の試合を見てきましたが、彼女たちが3対0リードから逆転されたという試合はちょっと記憶にありません。伊藤の見事な対応力と、中国選手相手に窮地に立たされても臆さない強い精神力が際立つ試合でした。

 伊藤は世界でも類を見ないほど変幻自在なプレーをしますが、ジャパンオープンで特に光っていた技が、「バック面の表ソフトラバーでのチキータ」です。伊藤のチキータは、裏ソフトラバーのチキータと違って下回転が強くかかっているのが特徴です。今大会では、要所でこの下回転チキータを使って得点に結びつけていました。
 現在、多くのトップ選手が取り入れているチキータは、裏ソフトラバーの専売特許のような技術ですが、裏ソフトラバーで下回転チキータを行おうとすると、ボールがラバーに引っかかりすぎて思うようにできません。下回転チキータは、裏ソフトラバーに比べて摩擦力が弱いという特徴がある表ソフトラバーと、伊藤の優れたボールタッチが組み合わさって初めて可能な技であり、「美誠チキータ」とでも呼ぶべき彼女のオンリーワンの技術です。

 世界卓球2018ハルムスタッドでの全勝やジャパンオープンでの優勝など、最近の伊藤の躍進は目覚ましいものがありますが、その背景には下回転チキータなどの独創性に富んだ技術に加えて、「スタンス(足の構え)が広くなった」ことも見逃せません。
 スタンスが広くなると、その分、姿勢が低くなります。姿勢が低くなるとボールに目線が近づくので、チャンスボールに見えるボールが増え、攻めとつなぎのジャッジもより正確に下すことができます。今年に入ってからの伊藤は昨年に比べるとスタンスが広くなりましたが、このことが彼女のプレーにもたらしている恩恵は大きいでしょう。
 スタンスは広い方がいいとはいえ、スタンスは勝手に広くなるわけではないし、自分で無理に広くするものでもありません。スタンスを広くするためには、足を大きく開いても素早く大きく動けるだけの筋力が必要です。伊藤の広くなったスタンスは、彼女が相当の筋力トレーニングやフットワーク練習を重ねてきたことの表れだといえるでしょう。


(取材/文=猪瀬健治 写真=佐藤孝弘
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