1. 卓球レポート Top
  2. インタビュー
  3. 強化のフロントライン
  4. 強化のフロントライン19 卓球と勉強や生活について③

強化のフロントライン19 卓球と勉強や生活について③

〜宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策〜

日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。今回は、卓球と勉強や生活についてのまとめを宮﨑強化本部長が話してくれた。


●卓球だけに偏る「卓球至上主義」は日本の未来を危うくする

 前回前々回と2回にわたり、勉強や生活が卓球にどう関わるのかについて私見を述べました。なぜ、卓球が強くなることと直接的に関係がなさそうな勉強や生活をテーマに取り上げたのか。
 今回は、その理由をまとめとしてお話ししましょう。

 この連載で繰り返し触れてきましたが、昨今の低年齢層、特にホープス(小学生以下)の選手のレベルの高さは目を見張るものがあります。近年の卓球人気により、全国各地に卓球ができる施設や卓球を教える指導者が増え、それに伴って幼少の頃から卓球に本腰を入れて取り組む子どもたちやその保護者が増えたことが大きな理由でしょう。
 日本の強化に携わる身として、ホープスのレベルの向上は喜ばしい限りですが、その一方で危惧する傾向も見られます。それは、子どもたちが「卓球だけに偏ってしまう」ことです。 

 技術や戦術が多様な卓球は、強くなるために時間が長くかかるスポーツです。それゆえに、本格的に卓球に取り組む年齢が低いほど、将来的に大きなアドバンテージにつながります。
 しかし、近年では卓球に比重を置きすぎて、卓球以外のことがおろそかになっている子どもたちやその保護者、指導者が増えつつある状況を見聞きします。
 卓球優先で学校の授業を欠席したり、練習に時間を割きすぎて宿題がおろそかになったりといった事例など、子どもたちや保護者、指導者の卓球熱が行きすぎている様子を目にします。

 挙げた例のように、幼少の頃から卓球以外のことをないがしろにする「卓球至上主義」が常態化すると、日本卓球界の未来は大変危ういと私は考えています。
 言うまでもなく、卓球は世の中の全てではなく、あくまで世の中の一部です。そのことを見失い、卓球しか見ない、卓球しかできない子どもたちが、将来日本を背負うような立派な選手に成長できるとは私には思えません。
「卓球が強くなればそれでいいのでは?」という意見もあると思います。確かに私の仕事は選手強化ですから、有望な才能を見いだし、世界で活躍できるような選手へと育成することが最重要任務です。
 しかし、このテーマで述べてきたように、選手を強くするためには、卓球に加え、「勉強や日々の生活にきちんと取り組むことが、長い目で見れば選手強化につながる」というのが私の考えです。
 卓球至上主義が蔓延しそうな今だからこそ、卓球以外に目を向けることの重要性を認識していただく目的で、今回「卓球と勉強や生活について」をテーマに取り上げたのです。
 
 強化の話から少し逸れますが、ホープスの頃から正しい生活習慣を身に付けておくことは、選手が競技を離れてからの人生においても有用だと考えています。
 勉強や生活がきちんと身に付いていれば、選手たちがやがてラケットを置いて社会人として生きていくときも応用が利くはずです。仕事や立ち居振る舞いがきちんとしていれば、周囲から「〇〇さんはちゃんとしているね。卓球をきちんとやってきた人は素晴らしい」と評価していただけるでしょう。
 そうした、社会人になってからの周囲の好評価は、本人にとって大きなメリットであることはもちろんのこと、卓球界にとっても喜ばしいことです。

 今回は卓球に比重をかけすぎることへの懸念を述べてきましたが、周りが見えなくなるほど過熱してしまうのは大抵の場合、子どもではなく、その保護者や指導者です。
 日々の時間を子どもの練習や試合に当てる保護者や指導者の姿勢には本当に頭が下がりますが、時間を犠牲にしているからこそ、熱くなってしまいがちです。私も人の親ですから、子どものことでつい前のめりになる気持ちは分かりますが、幼い頃から卓球以外のことをおろそかにする習慣が身に付いてしまうと、卓球で大きく飛躍することは難しいですし、選手を終えた後の人生にもあまり良い影響は出ないでしょう。
 今回のテーマで述べてきた勉強や歯磨きをきちんと行うことは、技術練習や体力トレーニングのように上達を直接的に感じることはできません。しかし、卓球が強くなるために欠かせない人間的な成長を影ながら支えてくれます。

 この連載を読まれたホープス選手の保護者や指導者の皆さんには、卓球に真摯に打ち込むことはもちろんですが、それだけにとらわれず、ぜひ冷静な視点を持っていただきたいと思います。そうして、卓球に打ち込むことと並んで、子どもたちが日々の生活を規則正しく送れるよう注力していただくことをお願いし、このテーマを締めくくりたいと思います。

(取材=猪瀬健治)

Recommendおすすめ記事

■インタビューの新着記事

■インタビューのカテゴリ一覧

Rankingランキング

■インタビューの人気記事