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強化のフロントライン36
世界卓球2019ブダペストの評価⑩
ファルクについて

~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
 日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
 今回は、世界卓球2019ブダペスト(個人戦)の男子シングルスで決勝まで勝ち進んだファルク(スウェーデン)にスポットを当てて、躍進の理由を宮﨑強化本部長に話していただいた。

稀有なスタイルで世界にインパクトを与えたファルク

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強敵を連破し、決勝へ勝ち上がったファルク


 前回は、世界卓球2019ブダペスト(以下、世界卓球)の男子シングルスを制した馬龍(中国)の強さについてお話ししました。
 今回の世界卓球は馬龍が三連覇を果たし、改めてその強さを示しましたが、馬龍を筆頭とした中国以外の国からも新たな選手が台頭してきました。
 その中から、今回は男子シングルスで決勝まで勝ち上がったファルク(スウェーデン)についてお話ししたいと思います。

 ヨーロッパ勢としては2003年パリ大会を制したシュラガー(オーストリア)以来となる決勝進出を果たしたファルクは、今回の世界卓球で最もブレークした選手でしょう。準優勝という成績もさることながら、両面裏ソフトラバーが主流の男子卓球界において、フォア面に表ソフトラバーを貼り、ドライブではなくスマッシュを主戦武器にするファルクの活躍は、世界の卓球界に大きなインパクトを与えたと思います。

 私はジュニア時代からファルクを見ていますが、彼はその頃からスウェーデンの中では抜きん出た強さを見せていました。しかし、日本選手がジュニアサーキットなどでファルクと対戦すると、日本の選手たちは競り合うもののほとんどファルクに負けませんでした。
 日本の選手たちがファルクに分が良かったのは、日本には伝統的に表ソフト速攻型をはじめとして多彩なプレースタイルの選手がいるため、ファルクの表ソフトラバーに戸惑うことなくプレーできたからでしょう。ジュニアの大会でのファルクは、表ソフトラバーに慣れないヨーロッパ選手を倒して勝ち上がるものの、表ソフトラバーをあまり苦にしない日本選手に破れるケースが多かったと記憶しています。

ファルクがブレークした二つの要因

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表ソフトラバーでのフォアハンド強打がファルクの大きな武器


 ファルクは、その稀有なプレースタイルでジュニア時代から注目されていましたが、もう一歩殻を破れませんでした。今回の世界卓球でも、ファルクが決勝に進むと予想できた人は多くはなかったでしょう。
 私が思うファルク躍進の要因は、二つあります。

 一つは、「表ソフトラバーの使い方がうまくなった」ことです。
 ファルクはジュニア時代からバックハンドは素晴らしい精度がありましたが、それに比べると表ソフトラバーでのフォアハンドの精度が劣っていました。
 しかし、今回の世界卓球の少し前からですが、ファルクのフォアハンドは安定性が格段に増し、技も多彩になりました。強打(スマッシュ)した時のミスが減っただけでなく、ラケットを横にずらすように動かしてボールに変化をつけるような打法も効果的に使うようになりました。
 ファルクのフォアハンドが向上したことにより、対戦相手からするとファルクのフォア側を崩す戦術が有効ではなくなりました。しかし、フォア攻めが効かないからとファルクのバック側を狙うと、今度は中国選手をも上回るような精度のバックハンドで主導権を握られてしまいます。
 つまり、元来得意なバックハンドと双璧を成すくらい表ソフトラバーでのフォアハンドの技術力を高めたことが、今大会のファルクの躍進を大きく支えていたと思います。
「フォア側を攻めるとスマッシュを打たれ、それを嫌がってバック側へ送ると世界屈指のバックハンドが待ち構える」というファルクのプレースタイルの仕組みは、男子選手にとってとてもやりにくいものです。今回の世界卓球で自信を深めたことにより、ファルクは日本を含む世界にとって大きな脅威になったことは間違いありません。

 もう一つの要因は、「経験を積んだ」ことです。
 ファルクは2017年6月からマレーシアで開催されたT2 APAC(アジア太平洋リーグ/以下、T2)に参戦しました。T2は、世界のトップ選手たちを一堂に集め、卓球を魅せることにこだわって開催された卓球リーグです。
 そのT2でファルクは勝ち星を上げることがほとんどできませんでしたが、世界の強豪たちと試合を重ねたことは、ファルクにとって大きな経験になったことでしょう。それを裏付けるように、T2以降、ファルクはフォアハンド技術が目に見えてうまくなり、一気に強くなった印象があります。
 そのため、T2で経験を積んだことが、今回の世界卓球におけるファルクのブレークに間接的につながっていると私は見ています。
 
 また、T2を契機としたファルクの成功例は、強くなろうとしている多くの若い選手にとって指針になるものです。
 一つのところに留まって積むことができる経験値には限界があります。ファルクもヨーロッパに留まっていたら、脱皮は難しかったでしょう。ヨーロッパを飛び出し、T2でアジアの卓球に接したからこそ、ファルクは世界卓球で決勝へ勝ち進むまでに伸びたのだといえます。
 ファルクの成功例は、「強くなるためには、いろいろな場所へ思い切って身を投じて経験を積む」ことの重要性を示していると思います。

(取材=猪瀬健治)

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