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全日本王者 戸上隼輔インタビュー第3回

 2022年全日本卓球、男子シングルスにおいて鋭い両ハンドドライブを武器に破竹の勢いで勝ち上がり、初優勝の栄冠を勝ち取った戸上隼輔(明治大)。戸上は宇田幸矢(明治大)とのペアで臨んだ男子ダブルスでも初優勝を遂げ、二冠を獲得した。
 インタビュー第3回は、昨年の無念を晴らす形で初優勝を決めた男子シングルスを振り返ってもらった。


--それでは男子シングルスを初戦(4回戦)から振り返っていただけますか。

<男子シングルス4回戦>
戸上隼輔(明治大) 8,6,-10,12,7 五十嵐史弥(早稲田大)

 今まで五十嵐さんに勝ったことがなかったんです。最後に試合をしたのは数年前なので、それからお互いに成長していて、その時の勝ち負けはそれほど参考にならないとは思ってはいましたが、一度も勝ったことがない相手と初戦を戦うのは、とても不安が大きくて、負けても不思議はないと思っていました。
 そんな気持ちで試合に入りましたが、序盤から自分のプレーができて、いい立ち上がりだと思っていました。ボールを見極めてプレーができたというか、いく時はいく、つなぐ時はつなぐという判断が的確にできて、攻撃が持ち味だからといって、攻めすぎてミスすることもありませんでした。逆に、初戦だからといって消極的になることもなかったので、いいバランスで試合を運べたと感じています。サービス・レシーブの判断も良かったと思います。

初戦で一度も勝ったことがなかった五十嵐に快勝し好スタートを切った


--5回戦の相手は酒井明日翔選手(シチズン時計)でしたが、ライバルの曽根翔選手(愛知工業大)の棄権による心理的な影響はありませんでしたか?

<男子シングルス5回戦>
戸上隼輔(明治大) 7,4,11,4 酒井明日翔(シチズン時計)

 5回戦の相手は曽根か酒井さんかと思って、どちらの対策もしていました。
 棄権になってしまいましたが、曽根の存在は自分の中ではとても大きくて、これまで何回も対戦してきて、個人戦は全部勝っていますが、団体戦で勝ったことが1回くらいしかない相手で、褒めるのは癪(しゃく)ですが、成長のきっかけを何度も与えてくれた選手です。何度も天狗(てんぐ)になった自分の鼻をへし折ってくれました(笑)
 だから、全日本で対戦してみたかったという思いはちょっとありますね。

 酒井さんとは高校生2年生の時に1度東京選手権大会で対戦したことがあって、その時は4対3で勝ちました。酒井さんはプレースタイルが僕と似ていて、両ハンドの強打が武器なので、打撃戦になると覚悟していました。
 酒井さんはすごいプレッシャーの強いボールで攻めてきましたが、それをうまくかわすことで自分の有利な展開に持ってくることができて、結果的には4対0で勝つことができました。

--6回戦準々決勝準決勝はストレート勝ちでしたね。

<男子シングルス6回戦>
戸上隼輔(明治大) 6,3,8,8 谷垣佑真(愛工大名電高)

 谷垣とは何度も対戦したことがあって、直近ではTリーグで対戦していて、3対2のジュースでギリギリ勝つことができました。
 最近の彼はサービスがすごい進化していて、巻き込みサービスの変化が非常に分かりにくいんですね。伸びるロングサービスもあって、そのプレッシャーが大きかったんですが、レシーブに集中して丁寧にプレーできたのと、ラリーになったら谷垣がすぐに下がる傾向があるので、そこを連打で攻めることができたのが勝因になったと思います。

<男子シングルス準々決勝>
戸上隼輔(明治大) 4,17,6,9 上田仁(T.T彩たま)

 上田さんは本当に頭がいい卓球という印象で、的確に、丁寧に嫌なところしか攻めてこないんですよ。それで時にはそれを外してくるような展開を作ってくるので、4対0とはいえ、内容はすごい濃かったと思います。
 2ゲーム目のジュースを落としたらもつれていたと思うので、2ゲーム目が全てだったと思います。
 それと、試合の中で上田さんの人柄の良さみたいなものを感じることが多くて、見習う点が多かったですね。対戦相手や審判員に礼儀正しく接していたり、緊張感がある試合の中でも周囲に気配りができていたり、選手としてお手本にしたいと思うような尊敬できる部分をたくさん見せていただきました。僕自身も見習うところが多かったし、これから強くなりたいと思っている子どもたちもお手本にしてくれたらうれしいと思います。

--勝ち負けを決めなければいけない中で、人の良さが邪魔になってしまうこともあると感じますが、戸上選手はどう思いますか?

 そうですね。表現するのが難しいところではあるのですが、僕は試合の中だけに限っていえば、相手を本気でたたきのめすつもりでやっています。想像の中でですが、これ以上ないくらいたたきのめしますね。敵意と言ってもいいと思うんですが、そういう気持ちを原動力に戦っているところはあると思います。
 卓球はメンタルが非常に大事なスポーツなので、気持ちで負けたらやっぱり試合でも負けてしまうんですね。ラブオールの時だったり、3対3の最終ゲームの出足だったり、そういうところでひるんでいると確実に流れを持っていかれてしまう。だから、試合中ずっとというわけではありませんが、勝負どころでは相手をたたきのめすというイメージを持って試合をしています。
 実はこれは、平野友樹さん(協和キリン)に教わったことなんです。平野さんは結構闘争心をむき出しにしてプレーするタイプのファイターですが、それを僕なりにアレンジして今のスタイルになっています。

 でも、マナーのいい選手に対してはなかなか「たたきのめす」という気分にはならないので、闘争心を自分からかき立てるようにしています。例えば、ネットインされた時に相手がちゃんと謝っていても、「謝っても1点は1点やぞ!」という感じで自分の中で盛り立てていくというか(一同笑)
 もちろん、そういう気持ちでプレーすることを全員に勧めたいわけではありません。これは僕が好きなプロレスから学んだことですが、そういう敵対心みたいなものが露骨に態度に出てしまうと見ている人もいい印象を持たないと思うし、卓球ファンや卓球を初めて見るのが僕の試合だという人に、「なんだあいつ、態度悪いな」「卓球ってこんなスポーツなんだ」みたいな不快な気持ちになってほしくないとは思っています。
 でも、勝負の世界で本気で勝とうと思ったら、そういう強い気持ちは必要だし、今の僕には合っているのかなと思います。
 だからこそ、上田さんみたいな人柄の良さに憧れるというか、見習わなくてはと思う部分があるのかもしれません。

ストレート勝ちながら内容の濃い上田との一戦に勝利して、戸上は2度目の表彰台を決めた


--丹羽孝希選手(スヴェンソンホールディングス)とは一昨年の全日本でも準々決勝で対戦して4対0で勝っていますね。

<男子シングルス準決勝>
戸上隼輔(明治大) 7,4,9,5 丹羽孝希(スヴェンソンホールディングス)

 丹羽さんは僕との試合の前に吉田雅己さん(木下グループ)に完勝していたので、以前のようにうまくいくわけはないという気持ちで試合に入りました。立ち上がりは相手のペースで嫌な印象でしたね。
 丹羽さんと対戦する時は我慢が大切だと思っていて、丹羽さんは試合のテンポが早くて、レシーブで構えたらすぐにサービスが飛んでくるので、自分のペースを崩さないことに気を使いながらプレーをしました。
 戦術的には丹羽さんは徹底してこちらのフォア前を攻めてきましたが、ラリーになれば「こっちのものだ」と思っていたので、ラリーに持っていくまでにこっちが有利になる展開にするように気を使ってプレーした点がよかったと思います。
 フォア前に対しては、長くツッツキをして相手に打たせてからという展開にしました。早い展開には僕も慣れているので、打たれるのは怖くないですから。

 ただ、大島さん(大島祐哉/木下グループ)との試合(6回戦)では丹羽さんがすごい回り込んでたんですよ。ラリーになっても丹羽さんが打ち負けていなかったので、僕も丹羽さんが回り込んでカウンターしてくるのを待っていたんですが、僕の試合の時は、両ハンドでプレーしていて、全然回り込んでこなかったので、ちょっと意外でしたね。

--決勝の相手は松平健太選手(ファースト)でしたが、予想はしていましたか?

<男子シングルス決勝>
戸上隼輔(明治大) 9,-10,7,-8,6,6 松平健太(ファースト)

 正直、相手が健太さんになるとは予想していませんでした。
 当初の願望としては、決勝は張本か及川さんとやりたかったというのはありましたね。そのどちらかが勝ち上がってくると予想していたので、健太さんは意外でした。
 試合を通して僕のラッキーなポイントが結構多かったんですが、そこで「申し訳ないな」とか思ってしまうとプレーに弱気な部分が出てしまうので、そこは気を引き締めましたね。

 健太さんとは、僕が中学生の頃に世界卓球の選考会で1度対戦しただけで、内容もほとんど覚えてないくらいでした。だから、今回がほぼ初対戦という感じですね。
 出足はすごくやりづらかったです。健太さんのサービスは横回転系がメインで、僕にチキータをさせないようにロングサービスを散らしてきたんですよ。それで、こちらとしてはストップかツッツキをせざるを得なかったんですが、相手もミスが少なかったので、ラリーになる展開が多かったです。
 ラリーは僕の得意な展開ですが、健太さんは球質が他の選手とすごく違って、回転量が多くて軌道が山なりで、早いテンポに慣れている僕からすると、強打しにくく自分の得意の展開に持っていきにくかったですね。そこに健太さんのミスの少なさとどこに打っても返ってくるブロックが圧になって、すごくやりづらかったです。

 準決勝までの相手には僕のロングサービスが効いていたので、結構自信を持って決勝でも使ったんですが、不意に出したロングサービスに対しても健太さんは回り込んでフォアハンドで対応してきました。だから、ロングサービスで相手の戦術を絞ろうと思っても、なかなかそれができなくて、台上で崩すしかないと思ってサービスのコースを散らしました。でも、台上では健太さんの方が上なので、サービスの組み立ては難しかったです。
 健太さんのストップレシーブも、他の選手とは違うところがあって嫌でしたね。本当にうまいと思いました。こちらが浮かしたボールに対しても、あえて強打せずに打球点を落として、もう一回ストップしてきて、その次を狙うとか、ああいうプレーはさすがだと思いました。

 やりにくい相手ではあったんですが、1ゲーム目を取った時に「自分の方が強い」という確信がありました。9-9からのチキータレシーブ2本で、僕のいいチキータが決まれば、相手は取れないなと分かったんですね。
 それで2ゲーム目もいい展開だったんですが、僕の悪いくせというか甘さが出て、連続失点で逆転されてしまいました。
 でも、そこからはもう「自分の展開ができたら勝てる」という試合内容だったと思います。自分がチキータすれば得点できるし、ラリーになってもこちらが下がらずに前でプレーしていれば得点率も高かったし、健太さんの得意なバック対バックも全然負けていなかったので、バック対バックにこちらから持ち込むくらいの強い気持ちでやっていました。ストップにも惑わされないようにこちらから長く返して先に打たせたり、ラリーでは負けない自信があったので、そういう試合運びがうまくいったと思います。
 タッチの良さとかミスの少なさとか、健太さんの強い部分にすごく苦しめられましたが、僕が自分のプレーを貫くことができたのが勝てた要因かと思います。

「たたきのめす」という心意気とこの礼儀正しさのギャップも戸上隼輔という選手の魅力のひとつだ


 試合内容からは脱線したが、戸上の勝負哲学とでもいうべき「相手をたたきのめすつもりでやっている」という言葉には取材陣も驚かされた。プレーは確かにアグレッシブだが、試合態度は礼儀正しいし、コートの外でも物腰は穏やかだからだ。
 次回は、全日本チャンピオンとなった今の心境、そして、今後の展望を聞いた。

(まとめ=卓球レポート)


<全日本王者 戸上隼輔インタビュー>
第1回「自分の中では存在しなかった大会です」
第2回「もっと上を目指しているから、達成感はない」
第3回「相手をたたきのめすつもりでやっています」
第4回「日本のエースとして世界でプレーする覚悟はある」

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