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張本智和インタビュー(後編)

 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......。
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
 インタビュー前編に続いて、後編では張本智和(IMG)に自身の抱える課題、パリオリンピックの国内選考について、また、用具などについて聞いた。

--格下に負けない安定感と格上を破る爆発力の両立は簡単ではないと思いますが、張本選手はどのような選手を目指していますか?

 爆発力という点では、馬龍をはじめ中国選手に勝ったりして、自分は持っていると思いますが、去年のオリンピックと世界卓球で負けた時みたいに、安定感が今はまだ足りてないと感じています。
 爆発力も備えつつ、しっかり格下にも毎回勝ってベスト8、ベスト4に食い込んでいかないと真の一流ではないと思うので、そこに向けて1歩1歩積み重ねるしかないですね。

--格下に取りこぼす試合で自分に足りなかったものは何だと思いますか?

 オリンピックのヨルジッチ(スロベニア)戦でも世界卓球のディヤス(ポーランド)戦でもあまり落ち着いていなかったというのはありますね。焦りはあるけど、どうすればいいか分からないまま試合に入ってしまったというのが正直なところです。
 内容的にはヨルジッチ戦よりも、ディヤス戦の方が出来はよくなかったですね。世界卓球ではオリンピックのショックをまだ引きずっていたような感覚があって、同じような結果になってしまいました。勝ち切れそうなところで勝ち切れず、似たような戦い方になってしまったので。
 でも今は、ある程度気持ちの区切りはついていて、どうやって戦えばよかったのかということは今はちゃんと分かっているので、あの時の負けの反省はきちんとできていると思います。

--技術的にはどのような課題がありますか?

 試合中にフォアハンドのミスが増えたりすると、そこをカバーしようとしすぎて、目標が「フォアハンドでミスをしないこと」になってしまい、何が何でも点を取らないといけないところでも、どうミスを避けるかを考えてしまうということがありました。そうなるとプレーも消極的になってしまいますし、バックハンドも強く振れなくなったりということがありました。決してバックハンドが(技術的に)弱くなったのではなく、考え方のせいで使えなかっただけで、練習では普通に振れているので、そこは技術ではなく意識の問題だと思っています。
 普段の練習ではフォアハンドの割合が増えましたが、得意なバックハンドでも質を高めないと決まらないときはあります。LION CUPのちょっと前くらいから僕の本来のバックハンド主体のプレーが再確認できて、LION CUPで優勝できたので、フォアハンドで多少ミスが出ても、バックハンドで決め切れれば今までのように勝てると思います。そこで1%でもフォアハンドがよくなれば、それだけでも大きなプラスになると思います。

--そうした課題などについてはお父さん(張本宇)と話し合うのですか?

 田㔟さん(田㔟邦史男子ナショナルチーム監督)が監督に就任してからは田㔟さんとそういう話をする機会が増えましたが、やはり一番よく話すのはお父さんですね。お父さんともよくバックハンドの方が大事だねという話はしています。お父さんとは1、2年前くらいまではけんかというか、言い合いになったりすることもありましたが、今はいい関係です。
 自分が言いたいことが言えないことの方がよくないと思うので、ヒートアップしすぎなければ(笑)、ちょうどいい関係だと感じています。試合で負けると不満が出るのは仕方ないと思いますが、試合で勝つことでいい循環が生まれるようにしていきたいですね。

父、張本宇さんとの二人三脚は続く


--現時点で中国選手との差はどのように感じていますか?

 一番自分が伸びた時の勢いが中国にはずっとあると思うので、勢いというかそれが当たり前になっているんだと思います。今思うと改めてすごいことだと思いますね。
 以前は「中国選手にも意外と勝てる」と思っている時期がありましたが、勝ち続けることは簡単ではなかったです。でも、18歳でこういう悩みを持てるというのは普通では無理だと思うので、そういう経験が早くできたという点では有利だと思っています。
 今一番勢いがある戸上さん(戸上隼輔/明治大学)でもまだ中国には勝てていないので、自分の勢いが出た時には中国にも勝てるという実績は自信を持っていいところだと思っています。
 またそこまで行くためにも、しっかり格下に勝って、中国選手にも勝ちたいですね。それができた時が本当に強くなれた時だと思うので、1度だけと言われないように、何度でも繰り返していけたらと思っています。

--そのようなめったにできないような経験は、競技者として大きなアドバンテージになりそうですね。

 今でこそ前向きに考えられるようになりましたけど、1、2年前はそうは思えず、「何かおかしいな」という思いが常にありました。
 でも、卓球以外の他の競技も見ていく中で、どれだけ調子がよくても負ける時期は誰にでもあるっていうことが分かってきて、逆に、それをこんなに早く経験できてよかった、というか、そうでも思わないとやっていけないというか(笑)
 同年代のアスリートを見渡しても、野球だったら、同級生がプロ1年目でこれからスタートという時に、僕は世界で強い選手に勝ったり、世界卓球やオリンピックでメダルも取ったりしているので、他の18歳とは違うこの経験をプラスに捉えてやっていきたいと思っています。

2018年ジャパンオープンで馬龍を破った張本。再び王者を脅かしてほしい

--一緒に団体戦も戦った水谷隼さん(木下グループ)から学んだことはありますか?

 全日本と世界卓球で勝って、直接対決ではほとんど負けてないですけど、海外の試合や団体戦を見た時に、水谷さんがいればなんとかなるっていうのはやっぱり自分も思いましたし、みんなもそう思っていたので、水谷さんが抜けた後の、例えば今年の世界卓球団体はちょっと不安があります。
 中国以外に絶対負けない力は本当に尊敬しますし、全日本で10回の優勝というのは、本当にすごいと思います。でも、選手としてのタイプは全然違うので、自分らしいエースになれればと思っています。そのためには水谷さんのような強さも必ず必要だと思うので、今まで近くで見て吸収してきたものを生かしていきたいと思います。

--張本選手が考える自分らしいエース像とはどのようなものですか?

 よい意味でも悪い意味でも、チームメートに安心してもらいたくないというか、「張本がいるから大丈夫」と思わせるような存在よりも「張本と一緒に団体戦で勝ちたい」とか「張本についていきたい」って思われるようなエースになりたいですね。
 やっぱり団体で金メダルを取るとなると、僕1人が2点取っても負けてしまうので、理想としては、2番手、3番手が「張本と一緒に頑張りたい、なんとか1点を取りたい」って思わせられるようなエースになりたいですね。
 そのために、まずは、実力的に異論がないくらいのエースにならなきゃと思っています。

--張本選手は水谷さんに一目置かれていたと思いますが、自分ではどのように感じていますか?

 すごく優しかったですね。でも、水谷さんも現役の頃はやっぱり選手同士で、団体は一緒に戦っても、終わったらシングルスではライバルになってしまいますし、そこはアスリートである以上難しいところはあったと思いますが、どんな時でも優しくて、自分がオリンピックのシングルスで負けた後も「団体で頑張ろう」って声をかけてくれました。
 Tリーグを別にすれば、日本代表で水谷さんと団体戦で一緒に戦ったのは世界卓球2018ハルムスタッドと東京オリンピックの2回だけなんですが、世界卓球で一緒に戦った時は安心感はすごいありましたし、ベスト8で終わってしまいましたが、オーダーに名前を書けばなんとかしてくれるっていうのは自分もみんなも感じていたと思うので、自分も少しはそういう頼れる選手になりたいという思いはあります。

大エース水谷から受け継いだものは決して小さくないはずだ(写真提供=ITTF)


--パリオリンピックの選考方式は、世界ランキングによる協会推薦がなくなって、張本選手も他の選手と横並びのスタートになりましたが、そのことはどのように捉えていますか?

 選考方式が変わっても協会が選んだ選手がオリンピックに出られることに変わりはないので、引き続き選考会の2回目も3回目も優勝して、早めに出場権を獲得したいですね。来年、ポイントが2倍になると、もっと争いも激しくなるので、先にポイントを取っておいて、プランを立てやすくしておきたいと思っています。まず今年の選考1年目を戦い抜いて、しっかりトップにいられるようにしたいですね。
 今は選考ポイントが一番大事なので、WTTにも全力を注ぎたいところですけど、オリンピックに出場できなければ始まらないので、国内も海外も同じくらい頑張ってやるしかないと思っています。

--選考会も含めてこれからの短期的な目標を聞かせてください。

 次は6月13日から始まるクロアチアのWTTコンテンダー ザグレブですね。世界卓球も開催されるかどうか、現時点ではまだ分かりませんが、開催されれば、しっかり勝って、最低限メダルは取って4年前のリベンジを果たしたいです。
 あとは選考会ですね。残りの試合も全部優勝しなきゃいけないと思っています。それから、8月のTリーグ個人戦に勝つこと。9月からはヨーロッパチャンピオンズリーグもあって、試合は多いので、しっかりすべて全力で臨んで勝ちたいですね。
 選考会は、みんながオリンピックに出られる可能性が出てきて、全日本よりもプレッシャーがありますが、その分、他の選手も硬さがあるので、そこまでやりづらさは感じません。トーナメントで負けられないプレッシャーはありますが、気合も入るので、2回目以降も同じ気持ちでやりたいですね。

--余談になりますが、妹の美和選手(張本美和/木下アカデミー)の活躍はどう見ていますか?

 怖ろしいなっていうくらい強いですね。「すごい」よりも「怖い」ですね。自分が中学1年生で、世界で勝ち始めた時に似ているものも感じます。今は妹に追い抜かされないことも目標にしているくらいです(笑)

--プレーの内容についてはどうでしょう?

 勢いだけじゃなくて、しっかり勝つ、負けない卓球をしていて、格上だけじゃなくて、同世代にもしっかり勝ってるし、本当にすごいですね。普段から遠慮せずに自分を出す子なので、気持ちの強さもあると思います。
 選考会では美誠さん(伊藤美誠/スターツ)からもゲームを取りましたし、去年はまだ日本代表を目指せるのはロスオリンピック(2028年)からと思っていましたが、今はパリもチャンスが出てきたと思います。できればパリに間に合ってほしいですね。自分の選考レースもありますが、同じように妹にも勝ってほしいなっていう思いがあります。

兄も怖れるほどの快進撃を続ける張本美和。WTTユースコンテンダーでは4連勝中だ(写真提供=WTT)


--最後に、用具の話を聞かせてください。張本選手が用具に求めているものは何ですか?

 ボールが台に入ることですね。飛びすぎない方がいいです。パワーがついてきたので、飛ばそうと思ったらそれは自分でコントロールできるので、一番重視しているのはブロックの安定感です。バックハンドのブロックのやりやすいラバーがいいですね。
 ブロックしやすいラバーは、落ちない、飛びすぎないちょうどよい弾みがあって、相手の回転の影響を受けすぎないというのが一番です。硬すぎると飛んでいくし、軟らかすぎると落ちちゃうし。フォアハンドはちゃんと打てばどんなラバーでも入るけど、バックハンドは感覚が大事なので。
 バック面のラバーは、最初はテナジー64を使っていて、段々パワーがついてきてテナジー05を使いました。ディグニクス05は最初はブロックがしづらかったんですけど、使っているうちに慣れてきたので、テナジー05よりもスピードの出るディグニクス05に変えたという流れです。

--用具選びの基準がブロックのしやすさというトップ選手は少ないと思います。独特ですね。

 試合中、どれだけ緊張していてもできるのがブロックなので、そこで点を取ることができます。攻めて取るポイントはみんな同じだと思いますが、僅差で勝つときはブロックの1本、2本がとても大事だと思います。
 でも、他の選手に比べたら用具へのこだわりはない方だと思います。他の選手って「ちょっと打たせて」とか言って、よく人のラケットで打ったりしてるじゃないですか? でも、僕は打ったところで絶対に使わないので、まず打たないですね。時間がもったいないです(笑)

--ファンの皆さんからは「ちょっと、それ貸して!!」への出演希望が相次いでいますが、出演いただくのは難しいかもしれませんね(笑) 長時間ありがとうございました。

 ありがとうございました!

会うたびに体格がよくなっていたが、今回のインタビューでは精神的にも大きな成長を感じさせた


 卓球レポートで初めて張本を取材したのは、彼がまだ小学校6年生の時だった。それから6年あまり、卓球選手としての張本の軌跡を私たちは見てきたが、それは張本が彼の視点で、彼の年齢で、彼の身体で経験してきたものとはまったく別物なのだ。
 LION CUP TOP32で久々に持ち前のバックハンドを存分に発揮して優勝を決めた後に張本が見せた涙には、胸に迫るものがあった。18歳の青年が流す涙としてはあまりにも重すぎると感じたからだ。このインタビューでも触れていたが、18歳でこれだけの経験をしているアスリートはそうそういない。10代前半から追われる者として受け続けてきたあらゆる選手の捨て身の挑戦は、彼を苦しめ、そして、彼を強くした。敗れた試合について語る時も吹っ切れた様子の張本には、18歳とは思えないほどの余裕すら感じられた。
 新しい挑戦は間違いなく、彼をさらに強くするだろう。それを誰よりも楽しみにしているのが張本智和自身であることを、その落ち着いた笑顔が物語っていた。
(文中敬称略)

(まとめ=卓球レポート)

張本智和インタビュー(前編)「コロナ禍でも中国選手は勝ち続けている。自分もそうならないといけない」

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