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張本智和インタビュー(前編)

 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......。
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
 第1弾は、全日本卓球優勝、世界卓球、東京オリンピックでのメダル獲得など、18歳にして既に卓球選手としてはベテランと言って差し支えないほどの経験を積み、日本のエース候補筆頭として活躍が期待される張本智和(IMG)に話を聞いた。

--LION CUP TOP32では久しぶりにシングルスで優勝できましたね?

 昨年3月のWTTスターコンテンダー ドーハ以来、久しぶりにシングルスで優勝できたので、1番はほっとしたというのがあります。それまでは格下に負けることが多かったので、しっかり勝ち切れたというのは自分の中で大きかったですね。

LION CUP TOP32では集中力の高いプレーで久々の優勝を勝ち取った


--東京オリンピック、世界卓球2021ヒューストンと好成績が期待されていたシングルスでは振るいませんでしたが、その嫌な流れからは抜け出せましたか?

 まだ完全には抜け切れていないと思いますね。中国選手に勝てるようになってから初めて胸を張って抜けたって言えるようになるでしょうし、3、4年前は馬龍(中国)にも勝てたので、そこに戻れるまではまだ復帰途上というか、回復中という感じですね。
 ただ、今は間違いなくいい方向に向かっているので、精神的にもとてもいい状態です。

--また馬龍や他の中国選手と対戦した時に勝てるビジョンはありますか?

 馬龍みたいな強い相手と対戦した方が自分のプレーを100%出せますが、最近はそこにたどり着くまでの戦いで負けているので、そこまでたどり着けるようになれば、思い切った本来のプレーができると思っています。
 だから、自分の中ではトーナメントの1回戦、2回戦でしっかり勝つことが大きな課題でもあり、難しいところだと感じています。

--その難しさとは具体的にどういうところですか?

 格下の選手と対戦すると、思い切ってプレーできないというのもありますし、勝ちたくて、どうしても安全にプレーしてしまうところがあります。そうなると自然に攻撃が少なくなったり、得意のバックハンドが思い切り振れないということがあって、自分で試合のプランをしっかり組み立てられなくなってしまうことがあります。
 もっと練習もしなければなりませんし、気持ちも強く持たなければだめですね。本当はもっと試合数をこなしたいところですが、今は練習でも感覚がつかめてきているので、去年までよりは今の方が状態はいいと思っています。

--3月に行われたシンガポール スマッシュは久々の国際大会でしたが、手応えはいかがでしたか?

 スマッシュはLION CUPの直後の海外遠征でしたが、久々の優勝に喜びつつも早く気持ちを切り替えなければいけないところで、正直、ちょっと準備不足だったかなというのはあります。
 LION CUPの5日後の試合だったので、それまで日本選手の対策しかしていなかったのが、急に海外に出て、少し自分の中で調整しきれていないところがありました。
 (1回戦で対戦した)カナック(カナック・ジャア/アメリカ)は粘り強い相手で、1対1の3ゲーム目くらいから自分の方が粘れなくなって、4ゲーム目は3-11で負けてしまったので、大事な場面で取り切ることができませんでした。
 ただ、体力的にも、Tリーグファイナルがあって、直後にLION CUPがあって、自分的にはそこで出し尽くした感が少しあったので、それでスマッシュでは我慢しきれなかったのだと思います。カナックは苦手なタイプではありませんが、世界卓球2021ヒューストンでベスト8に入ったり、実績も積んできて勢いもありました。リードした3ゲーム目を取り切れなかった後の4ゲーム目でも自分が我慢できなくて......。
 5ゲームマッチというのもあって、いろいろ重なって負けてしまいましたが、自分の中ではある程度区切りはついたので、次のブダペスト スマッシュに万全で臨めるようにしたいというのが一番です。

連戦の疲れが出たか、シンガポール スマッシュでは粘り切れなかった(写真提供=WTT)


--ここ数年のコロナ禍で海外の選手と対戦する機会が減ったことの影響はありますか?

 コロナ前の毎月毎月国際大会があった時の感覚は、今でも思い出せないですね。もう忘れつつあります。
 今は、久しぶりに国際大会があると緊張しますし、そういう意味では1大会の重みというのは今まで以上に強いですね。コロナ禍になってからは、この大会を逃すと次の試合がいつになるか分からないと考えすぎてしまう部分があるので、そこで変にプレッシャーを感じてしまうことはあります。
 でも、そういう状況でも中国選手は相変わらず優勝し続けているので、自分もどんな状況の中でも変わらずに勝てるようにならないといけないと感じています。
 毎月のように大会があると、課題もすぐに見つかって、練習のモチベーションにもつながりますし、ここを直して、次の大会にはこうしようというというのが明確にありましたが、大会がないと1つの課題練習を何カ月もやるわけにはいきませんし、誰と対戦するのかも分からない中で、特に2020年は試合がなくてつらかったですね。練習は試合のためにするものなので、試合がない期間が長く続いて、何のための練習なのかっていうことを忘れそうになることが何回かありました。

--コロナ禍は依然続いていますが、そんな中でも高校卒業、大学入学(早稲田大学人間科学部 通信教育課程)で環境は変わりましたか?

 そうですね。一番変わったのは、5月から親元を離れて一人で暮らすようになったことです。いろいろ身の回りのことをやってくれていた家族がいないので自分で頑張っています。ご飯は練習先で食べたり、お弁当を買ったりで、まだ自炊はできるようにはなっていません。
 両親は僕が一人暮らしをしたいと言ったら意外とすぐに認めてくれました。今は家に帰っても誰もいないし、何も言われないので、それが一番楽です(笑)
 だからといって、のびのびしすぎて卓球に影響が出ないようには気をつけています。

--所属も変わりましたが、練習環境なども変わりましたか?

 そうですね。決まった練習場がなくなったのは大きな変化かもしれません。3日前に愛知から帰ってきたんですが、5月に入ってから名電(愛工大名電高校)と愛工大(愛知工業大学)で練習させていただいて、今枝先生(今枝一郎/愛工大名電高校卓球部監督)、真田先生(真田浩二/愛工大名電中学校卓球部監督)、森本さん(森本耕平/愛知工業大学男子卓球部監督)にお世話になりました。
 田㔟監督(田㔟邦史/男子ナショナルチーム監督)も練習場所を探してくれたり、サポートしてくださるのでそれもありがたいですね。自分から「練習させてください」ってお願いすることもあります。受け入れてくれるチームの皆さんには本当に感謝しています。

一番大きな変化は「一人暮らしを始めたこと」と張本


--今シーズンは海外リーグにも初挑戦しますね?

 はい。TTCノイウルムというドイツのチームからチャンピオンズリーグに出ることになっています。チームメートはオフチャロフ(ドイツ)、林昀儒(中華台北)、モーレゴード(スウェーデン)で、9月からスタートすると聞いています。ずっとドイツにいるというわけではないので、日本と行ったり来たりという感じになりそうです。
 海外リーグを経験することも大事ですが、プロとしてやる以上は優勝することが一番大事だと思っています。チームメートも強い選手がそろっていますが、頼り切らずに自分で点を取れるところは取って、しっかり貢献して優勝したいという気持ちが強いですね。
 海外に対する不安はまったくないですね。試合の時だけですがドイツとかヨーロッパで生活をしたことはありますし、なんとなくイメージはついています。
 練習は海外で長期的にやることは今まではなかったので、そこでちょっとコミュニケーションが取れるかなっていう心配はありますけど、基本的には楽しみで、早く行きたいという気持ちが強いですね。

--チームメートと練習ができるのも楽しみですか?

 はい。ただ、ドイツに行けば強くなるというものではないと思っていて、練習する国が変わるだけでは意味がないので、誰とどんな練習をしてどんなことを学びたいかをしっかり考えてから行きたいですね。
 オフチャロフとも練習はしたことがないので、練習相手もしてみたいですし、普段の生活も多少は見ることができると思うので、ドイツの選手はどういう気持ちでどう過ごしているのかも見てみたいですね。
 林(林昀儒)と話したこともほぼないので、話してみて考え方とかも分かったらいいなあと思いますね。

--彼らは対戦相手になったら手ごわい選手だと思いますが、海外でライバルと目している選手はいますか?

 オリンピックのシングルスでメダルを取ろうと思った時、中国の2人以外には勝たないと、銅メダルすら取れないので、オフチャロフも林昀儒もワールドツアー(WTT)では勝たないといけない相手です。2人とも、今まではあまり深く関わることがない中で試合をしてきましたが、これからはお互いのことをよく分かった上での試合になっていくので、その中で勝つのも今までとは違う難しさがあると思っています。相手を知りすぎてもやりにくい部分があるし、そこは普段は普段、試合は試合とうまく切り分けていきたいと思います。
 特に林昀儒はオリンピックでもメダルまであと一歩でしたし、格下にも負けないので、強いと思います。
 中国では、樊振東、馬龍はもちろん強いですけど、王楚欽が強いですね。海外選手からしたら一番怖い存在だと思います。

張本が最も怖い存在と語る王楚欽。頂点を目指す上では避けて通れない相手だ


--パリ五輪の国内選考レースは今後さらに激しくなることが予想されますが、国内ではどのようなポジションを目指していますか?

 ランキング的にも実績的にも、水谷さん(水谷隼/木下グループ)がいない今は一番経験を積んできているのは自分だと思います。最近の全日本は毎年違う選手が優勝していて、みんなが次のエースになりたいという気持ちで戦っているのは間違いないですが、東京オリンピックで感じたのは、オリンピックで勝ってこそのエースですし、自分は団体では全勝できたので、次のパリではシングルスで絶対にメダルを取って日本チームに貢献したいと強く思っています。
 ただ、オリンピックに出られなければそういう話もできないので、今は国内選考ポイントを確実に稼ぐことに集中したい。それまでは誰がエースかとかは自分はそれほど気にしていません。一番勝てる選手が一番強い選手なので、最終的にパリでメダルを取るために頑張りたいですね。

--国内でライバルとして注目している選手はいますか?

 今、一番勢いがあるのは間違いなく戸上さん(戸上隼輔/明治大学)で、やる気も本当にすごい選手だし、口だけではなく、やっていることも一流だと思います。
 全日本が終わってから(海外で)一緒に過ごしてみて、日本を背負いたいという気持ちを彼も持っていると感じたので、対戦したら負けるつもりはありませんが、団体戦になったら心強い味方でもあると思っています。
 プレーも他の日本選手とはちょっと違うところもありますし、攻撃力も高い。今の日本選手の中で中国選手に勝てる可能性が高い選手だと感じています。なので今、自分以外で一番中国といい勝負をするのは戸上さんじゃないかな。
 あとは、LION CUPで対戦した横谷さん(横谷晟/愛知工業大)は4-0で勝ちましたが、下手したら0-4もあり得るくらいの内容で、強かったですね。プレースタイルが自分と似ていて、前陣でバックハンドが強い。フォームもきれいなので、これからしっかり経験を積んだらもっと強い選手になりそうだなという気はします。水谷さんも高く評価していましたしね。
 若手では川上(川上流星/星槎中学校)に注目しています。彼は強くなりそうですね。
(文中敬称略)

(まとめ=卓球レポート)

張本智和インタビュー(後編)「実力的に異論がないくらいのエースにならないといけない」

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