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篠塚大登インタビュー

 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......。
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
 今回は、5月に行われたWTTフィーダー フリーモントで優勝するなど、国内外で存在感を示し始めている篠塚大登(愛知工業大学)に話を聞いた。

--今年の4月に愛工大名電高校から、愛知工業大学に進学しましたね。いろいろな進路の可能性があったと思いますが、愛工大を選んだ理由をお聞かせください。

 愛工大は他の大学より卓球にかけることができる環境だと思いました。自分が木下アカデミーに練習に行きたいと言った時は、行かせてくれますし、自分の思うようにできるところが決め手になったと思います。

インカレではルーキーながら愛工大の主力として活躍した

--高校を卒業して以降、卓球と向き合い方は変わりましたか?

 大きくは変わっていませんが、まずはパリ(オリンピック)に3番手でも食い込みたいなという感じですね。本気で狙いたいと思っているので、そこを目指して毎日頑張っています。

--技術・戦術ではどのようなところを強化してきていますか?

 今までは結構いろんなことをやっいてたんですけど、今は自分の得意なところにボールが来るような練習を重点的に練習しています。レシーブや台上プレーで、次のボールが自分の打ちやすいところに来るように、ということを考えて意識的に練習をしています。

--具体的にはどのような練習をしているのですか?

 自分はレシーブからの展開があまりよくないので、レシーブでその後の4球目が自分の得意なところに来るような練習を基本的にしています。
 ちょっと前のアメリカの大会(WTTフィーダー フリーモントWTTフィーダー ウェストチェスター)では、対戦相手のここが弱いから狙っていこうという感じで、相手の弱点を狙っていく中で、それがうまくいかなかったら狙いをどんどん変えていくという感じでプレーしていました。
 でも、最後の最後は自分の得意なところにボールが来るように、練習してきたことをやろうと決めてプレーしたら、フリーモントでは優勝することができました。

--木下グループとスポンサー契約を結んで、今はそちらで練習しているそうですね(インタビューは6月6日に行った)。

 はい。木下グループ所属の大島さん(大島祐哉)と吉田さん(吉田雅己)、及川さん(及川瑞基)、たまに松島(松島輝空)らと練習させてもらっています。
 倉嶋さん(倉嶋洋介)にも指導していただいてますが、指導だけではなく、球出しもしてくれたりしてくれるので、自分の成長につながっているとおもいます。

--3月に行われた2022ライオンカップ TOP32はにパリオリンピックの代表選考にも結びつく重要な大会でしたが、森薗政崇選手(BOBSON)、戸上隼輔選手(明治大学)ら格上の選手に勝ちましたね。

 最近はどんなに格上の選手と試合をしても、自分が勝つんだという気持ちで最後まで戦うようにしています。思い切ってプレーするだけだと、いい勝負はできても、最後に自分が勝ちたいっていう気持ちがないと勝ちきれないので、最後までどんな上の選手でも勝ちきろうっていう気持ちを持ってやりました。それが勝因になったと思います。

ライオンカップでは森薗、戸上ら格上選手から貴重な白星を挙げた

--手応えは感じましたか?

 戸上さんと試合をした後に連続で張本(張本智和)戦でしたが、そこでちょっと体力が切れて、いいプレーができなかったので、自分の課題が見つかったと感じましたね。どんなに疲れてても耐えられる強さというか、ベストの状態じゃなくても自分のプレーができることを目指して今後練習していきたいなと実感しました。

--体力的に十分な状態ではなかったということですが、張本選手にも通用したところはありましたか?

 体力も自分の実力だと思っていますが、練習してきたことは発揮できたので、技術的な部分ではちょっといい手応えを感じました。先ほど言った、レシーブからの展開などですね。

--回り込みフォアハンドの威力も上がっているように感じました。

 去年の全日本前ぐらいからある程度バックハンドが使えるようになってきて、バックハンド中心のプレーになっていたんですが、T.T彩たまで坂本さん(坂本竜介/前T.T彩たま監督)に指導してもらって、「お前の武器はその回り込みだぞ」って言っていただいてからは、バックハンドをうまく使いながらフォアハンドで決めることを意識をしてやるようになりました。
 打ち方を変えたりはしていませんが、ウエートトレーニングなどを取り入れて、体づくりは意識的にやっているので、威力が増したのはその成果だと思います。木下の練習場も設備が充実しているので引き続きトレーニングはやっていきたいですね。

回り込みフォアハンドも篠塚の強力な武器となっている


--あらためて優勝したWTTフィーダー フリーモントの話を聞かせてください。強い選手を何人も倒しましたね。

 2回戦で対戦したプレテア(ルーマニア)はすぐ台から下がるというのはわかっていたので、焦らずいこうと思ってました。焦って自分の打ちミスが出てくると、相手も調子が上がってくると思ったので、自分が先にミスをしないようにプレーしました。どのゲームも結構競りましたが、自分が思っていたよりも打ってこなかったので、相手の調子が上がる前に倒せました。
 3回戦はファルク(スウェーデン)でした。異質型の選手はそれほど苦手ではないのですが、初対戦なので、どうなるかと思っていましたが、自分が思っていた通りにできました。
 試合前に東京オリンピックの丹羽さんの試合(男子団体準々決勝 日本対スウェーデン 丹羽孝希対ファルク)を見せてもらって、丹羽さんはやることが固まっていたので、それを参考にプレーしたら、結構自分が思った通りの展開になってくれました。

--準々決勝はデュダ(ドイツ)と対戦しました。

 左利きはそれほど苦手ではないんですけど、やっぱりパワーが自分よりは絶対にあるので、自分から先に仕掛けていくことを意識しました。
 左対左だとバック対バックの展開になりやすいので、自分が先に回り込んでフォアで決めるという得意パターンに持ち込みやすいですね。これも、去年、坂本さんに言われてから自分の中でも得意意識が出てきた点です。

-- 準決勝は荘智淵(中華台北)でした。初対戦ですか?

 そうですね。初めてでしたが、きれいな卓球でやりやすかったですね。たぶん、相手の方が自分のことをよく知らなくて、「え、こんなボール入ってくるの?」という感じだったと思います。結構しっかり戦術的に対策して臨んだので、それが実践できたのは自信になりました。

--決勝の相手は、日本選手が誰か勝ち上がってくるかと思っていましたがジャービス(イングランド)でしたね。熱戦になりました。

 そうですね。ジャービスはイングランドの国内選手権大会で優勝しているということで、実力のある選手でした。
 サービスがうまくて、勝負どころになると、よりレシーブが難しくなって苦しみました。3対2でリードしていて、6ゲーム目もリードしていたんですが、逆転されてしまって、サービスは最後までちゃんと取れなかったですね。
 相手のサービスはスウェーデンのアントン(ケルベリ)がちょっと前まで出していたような巻き込みサービスで、弱い下回転とナックルで、レシーブミスをするほどの回転量ではないのですが、レシーブが相手の打ちやすいところにばかり返ってしまうという感じで、やりにくかったです。ラリーも強かったですね。
 ただ、最終ゲームは「入れにいって負けるくらいなら、思い切ってプレーして負けた方がいい」と思って、全部勝負にいくくらいの気持ちで戦いました。

--決勝の最終ゲームでよくそのような思い切ったプレーができましたね。

 メンタルは以前よりも成長していると思います。
 去年のTリーグファイナルのラストの及川さんとの試合で、いいラリーで得点した後に、サービスを入れにいってミスしたことがあって、そこで思い切ってロングサービスを出しておけばよかったという経験があったんですよ。それで、1回失敗したことは2度はやらないようにしているので、今回は思い切ってプレーできました。
 優勝は初めてなので、まだ自分の実力とは言えないと思っています。これを実力にできるようにしていきたいですね。

WTTフィーダー フリーモントでは難敵を連破し国際大会でうれしい初優勝を果たした(写真提供=WTT)

--そのような実力をつけていくためには何が必要だと思いますか?

 やっぱりパワーが必要だと感じましたね。海外の選手と対戦すると、どんなにいいボールを入れても、簡単に取られてしまうので。自分は日本の中でもパワーがない方なので、武器になるものが1つでも増やせればいいと思います。
 あとは、アメリカの2大会でフォア側を狙われてしまうのは結構感じました。バックハンドが打てるようになった半面、ラリーの最後にフォア側に振られたボールをミスする場面が結構あって、中国選手も試合ではフォア側を狙いますし、フォア側のボールに対する強化は意識してやっています。

--今の段階で世界に通用していると感じるのはどんなところですか?

 バックハンドですね。バックハンドで決まる回数は増えてきたと思います。今までは安易にストレート(右利きのバック側)に打ってしまうことが多かったんですが、強くクロスに打てるようになったので、その点は結構通用していると思います。

強くクロスに打てるようになったというバックハンドは篠塚の得点源だ

--今シーズンは張本選手、宇田選手(宇田幸矢)、戸上選手ら同世代のライバルたちが海外リーグに挑戦しますが、篠塚選手が国内でプレーすることを選んだ理由は何かありますか?

 高校時代に1回、練習でドイツに行ったことがあるんですが、日本ほどは練習できなかったんですね。土日は結構選手が試合に行ってしまって、休みも結構多かったので、あまり練習できないというイメージがあって。
 海外の選手のボールを受けた方がいいというのもありますが、今はがっつり練習したい時期なので、日本でやることにしました。おかげさまで、今は一番いい練習ができていると思います。練習をやらないと不安になっちゃうタイプなので。

--用具についても聞かせてください。今の組み合わせ(張継科 ALCに両面ディグニクス05)はいつからですか?

 ラケットは変えていませんが、ラバーはバック面は高2の時にテナジー05からディグニクス05に変えて、フォア面は高3の初めくらいにディグニクス80からディグニクス05に変えました。今までよりも強く打てるようになってきたので、威力を出せる組み合わせに変えようと思ったのがきっかけですね。
 今は打球感のよさと威力重視で、この組み合わせを使い続けています。でも、他の人にはあまりいいラケットって言われたことはないですね(笑)

現在使用している用具は威力重視だ

--最後に今後の目標を聞かせてください。

 選考会は何度もあって、同じ相手と何度も当たることがあると思うので、1回だけではなく、同じ選手に何回でも連続で勝てるような実力をつけたいと思います。そのためには、最後は思い切ってやれるかどうかのメンタルだと思うので、弱気にならずにプレーできることを目標にしています。どの大会でも1番を目指せるように頑張っていきたいですね。
 個人的には同級生でもある張本に勝ちたいですね。まだ1回も勝ったことがないので。去年、Tリーグで対戦したときは、まだ全然相手の方が格上だと感じました。その時は2対0とリードできたんですが、思い切りだけのプレーで、相手も緊張していましたが、それでも勝ち切れなかったので、まだまだだなと感じました。今はまだ、基本的に張本に勝てているところがないと思っています。レシーブもサービスも最初は効いていても、最後は対策されてしまいましたし。でも、最後に試合をしてから時間もたっているし、これからも何度も対戦することになると思うので、試合してみたいという思いはあります。

--パリオリンピックで日本代表になる自信はありますか?

 自信はまだありませんが、チャンスはあると思っています。自分はまだ、全日本でもスーパーシードを超えたことがないので、1つずつ積み重ねていきたいですね。


 篠塚は言葉で多くを語るタイプの選手ではない。しかし、一方で「自分はこうありたい」という強い信念を感じさせる芯の強さを持っている選手でもある。この芯の強さはトップアスリートには欠かせない資質の一つだ。
 周囲に流されずに、「自分は日本でプレーする」というのも篠塚らしい選択だ。どこであろうと、黙々と練習を積み重ね、一つ一つ課題をクリアし、着実に強くなっていく。本当に敵に回したら怖いのはこんな選手ではないだろうか。
 国内外を問わず、多くの選手にとって篠塚の存在が脅威になっていく。そんな未来を想像している卓球ファンは決して少なくないはずだ。


(まとめ=卓球レポート)

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