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平野友樹インタビュー(後編)

 
 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
 今回は、実業団の強豪・協和キリンの中心選手から監督(兼選手)へと転身した、平野友樹にスポットを当てる。
 監督を引き受けた経緯やこれまでの競技人生について語った前編に続き、インタビュー後編では、盟友への思いや目指す監督像、社会人像について話してくれた。
前編はこちら


−平野さんが監督に進む一方で、前編でも名前が挙がっていた神巧也選手(ファースト)が海外リーグに挑戦します。明治大の同級生として、神選手の挑戦をどう見ますか?

 リスペクトしかないですね。ジンタク(神巧也)の何がすごいって、あのひたむきさ。純粋にあれだけ卓球に打ち込めるやつはそういません。
 僕は考えすぎる傾向があるので、例えば自分の発言に対して周りから何か言われるんじゃないかと考えて、自分発信が思うようにできないタイプです。一方、ジンタクにはそういうところが全くなくて、自分が思う通りに表現したり、行動したりする力が本当にすごい。実業団(シチズン時計)に入社したものの、もっと卓球に専念したいからと退社し、プロの道を選ぶのはジンタクだからできたことです。

−同級生として応援する気持ちが伝わってきます。

 僕は実は人間観察が好きなんですが(笑)、昨シーズンのTリーグでのジンタクは、試合に出られなくて歯がゆそうだなあと思ってずっと見ていました。そこであきらめず、試合の場を求めて海外リーグへ行くという決断はジンタクにしかできないし、ジンタクだからこそできたと思うんですよね。そういったところで、ジンタクのことは人間的にも卓球人としてもリスペクトしています。

同級生・神(左)の挑戦にエールを送る平野。写真は2011年全日学男子ダブルス優勝時


−平野さんも社会人になり、「卓球1本でやろう」という思いだったと思います。


 協和キリンという会社は僕たち選手に対してプロとして接してくれましたし、サポートしてくれたので、正直に打ち明けると卓球のプロと会社員との境目が分かりませんでしたね。
 協和キリンは卓球部に対しても社員に対しても愛のある会社だということを肌で感じていて、自分はここで成長できたし、これからも成長していきたいと思っています。
 そんな会社に貢献したいという気持ちで、これまではプレーで頑張ってきました。監督をお受けしたのは、協和キリンを裏切れないし、何より協和キリンの役に立ちたいという思いが強かったからです。

−監督の道を選んだ理由がよく分かった気がします。

 もちろん卓球も満足いくまである程度自由にやらせていただきました。それは真二さん(佐藤真二元協和キリン監督/現GM)が築き上げてきたもので、環境面を整えていただいたのは大きいです。

−会社の理解を取り付けるのは簡単ではないと思いますが。

 そうですね。そういったところでは、本当に真二さんに感謝しかありません。

−正式にはいつから監督に就任しましたか?

 今年の41日から監督兼選手になりました。

−監督として大変なことも多いかと思いますが、実際にいかがですか?

 大変と言うよりは、そこにやりがいを感じている自分がいます。選手たちのマネジメントや練習で強くなっていく姿を見ていて、すごく楽しいなって感じるし、大変さよりもやりがいの方が大きいですね。
 その一方で、卓球ってやっぱり難しいスポーツなんだなってあらためて思い知らされます。練習を見ていて、「あ、強くなっているな」と思っても試合ではなかなかその通りにいかない。練習であれだけできているのになんで?という疑問が試合に行くと多くて、そこを深掘りしていくのがこれまた面白いですね。

−監督兼選手ということですが、現在の比率はどのような感じですか?

 チームをまとめながらではありますが、どちらかというと今は選手としてガツガツ練習しています。普段の練習に関しては、今は裕介(渡辺裕介)がキャプテンなので、基本的には裕介に任せています。それを僕と賢二さん(松平賢二)がサポートする形です。
 自分の練習をやりながらの監督なので、今のところ、そこまでの負担は感じていません。

−徐々に監督にシフトしていくという感じでしょうか?

 そうですね。監督としては選手たちとのコミュニケーションを1番大切にしたいと思っているので、月に1度、11でミーティングを行って、どういう方向性でこれから練習したり試合したりするのかを共有するようにはしています。
 卓球界における協和キリンは、以前ほどネームバリューがなくなってきているのは自分たちも分かっているので、日本リーグや全日本、最終的には世界で勝つことを考えた場合、しっかり話し合って目標を可視化させることは大切なことだと思います。

−日本リーグから世界で活躍する選手が生まれたら素晴らしいですね。

 今はTリーグができたので、みんなTリーグが、日本リーグがって分けて考えがちだと思いますが、僕はもっと単純で、協和キリンからそうした選手を輩出したい。そのために、うちのチームカラーに合った方法があると思っています。

−Tリーグの名前が挙がりましたが、平野さんは日本リーグとTリーグの両方を経験されています。両リーグをどう捉えていますか?

 実際に経験してみての感想ですが(2018-20192019-2020シーズンはT.T彩たま、2020-20212021-2022シーズンは琉球アスティーダ)、Tリーグと日本リーグの2つを比較してよく議論されますが、その必要はないと思っているんですよね。
 Tリーグは興業としてトップが争う場、一方の日本リーグは、好きな卓球で会社に貢献したいという選手たちが集まる場ですが、卓球をもっと楽しんでもらいたいし広めたい、卓球を通して社会貢献したいという目標は同じですから。

−確かに、卓球の発展という目標は同じですね。

 日本リーグは観戦して絶対に楽しいと思うんですけど、現状は残念ながらお客さんがそれほど入りません。一方のTリーグはというと、試合によってはやっぱり観客が少ない。そうした現状を踏まえると、日本リーグは、より身近な地域貢献に取り組んだりSNS活動を行ったりして、魅力のある卓球リーグであることをアピールしつつ、卓球ファン獲得の土台の一つになっていかないといけないと思っています。そして、その土台づくりのためにも協和キリンは貢献していかなければいけない。それがTリーグの土台にもつながるのであれば、それはそれでいいと思いますね。
 お互いが卓球の発展という同じ目標を持って、それぞれのカテゴリーで頂点を目指して頑張っているわけですから、今は無理に序列をつけなくてもいいと思っています。

Tリーグにも出場した平野。この経験は日本リーグの監督としても大きいだろう


−貴重なご意見ありがとうございました。ちなみに、今後は会社での業務も多くなるかと思いますが、平野さんはどんな業務をされているのですか?

 部署は人事部で、多様性・健康・組織開発グループというところに所属していて、いわゆる「健康経営」の業務に携わっています。健康経営とは文字通り、従業員の方たちの健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践することです。
 こう言うと難しそうですが、従業員の方たちに、健康に良い食事や睡眠の取り方、運動の方法などを日頃から意識していただけるよう企画し、提案するのが僕の主な業務です。

−スポーツ経験を生かせそうな業務ですね。

 そうですね。加えて、緊急事態宣言中に、「第一種衛生管理者」という資格を取ったので、本社の衛生管理者にもなっています。

−資格取得とはすごいですね。衛生管理者とは具体的にどのようなことを行うのですか?

 従業員の方たちの安全や衛生面にかかわるものはすべてなので、もういろいろですね。一例だと、職場を巡視しながら、危険なところはないか、落下物で従業員の方たちがけがをする可能性はないか、などをチェックしています。

−それは責任ある業務ですね。会社員としての目標も高そうです。

 自分で言うのは恥ずかしいんですが、僕は意識高い系男子なので(笑)、求めるものがすごく高いんです。なので、監督業に加えて、仕事もできるようになりたい。「できるビジネスマン」になりたいですね(笑)。そのために、今は卓球だけでなく、幅広くいろいろなことを勉強している最中です。

監督としてだけでなく、社会人としての志も高い


−会社でのご活躍をお祈りしております。話を卓球に戻すと、平野さんはこれまで多くの指導者に出会ってきたと思います。監督を引き受けるにあたって参考にする方はいますか?

 幸いなことに、僕はこれまで素晴らしい指導者の方々にめぐり合ってきました。皆さん尊敬し、学ぶところが多かったのですが、僕が監督するにあたっては、これまで出会った指導者の方々の良いとこ取りをしようと思っています。
 例えば、橋津先生(橋津文彦/野田学園高校卓球部監督)は僕たち(選手たち)のために万全な準備を整えてストレスなく試合に送り出してくれるマネジメント力に特化したプロフェッショナル。真二さんも橋津先生に近いですが、もう少しボスキャラ感があって(笑)、より経営的な運営が参考になります。また、T.T彩たま時代の坂本さん(坂本竜介)は自分の考えをしっかり伝えることができるし、言語化もできるので、そのあたりがすごいなあと思います。
 監督とはこれだという正解はなく、その人によってさまざまだと思うので、これまで僕にかかわってくださった指導者の方々の良い面を取り入れながら、自分なりの答えを出していきたいなと思っています。

−最後に、監督としての抱負をお聞かせください

 たびたび言ってきましたが、僕は監督にすごくやりがいを感じていて、もっとこうしたらという課題を選手個々ですごく感じるので、それをしっかり伝えていけば希望の光が見えてくると思うんです。
 なので、自分のスキルをどんどん磨きながら、マネジメントや課題克服のアイデアをしっかり考えて、選手に希望の光を与えられるような監督を目指していきたいと思います。

−今後のご活躍を楽しみにしております。本日はありがとうございました。

 ありがとうございました。

持ち前の気迫で、これからはプレーでなく、監督として協和キリンを引っ張る


「俺より絶対に卓球が好きだな。卓球への情熱では勝てないな、というのが友樹の印象」とは、平野の中高時代の恩師・橋津氏による平野評だ。長年の指導歴でたくさんの選手と接してきた橋津氏だが、こうした感情を抱かされた選手はほとんどいなかったという。平野が選手としてまだ勝てる力を持ちながら続けることを良しとしなかったのは、自身の限界を知った以上、大好きな卓球にうそはつけないという思いもあったのかもしれない。
 加えて、平野は野田学園のOB会長も務め、催事などの調整力も見事だと橋津氏は話してくれた。無類の卓球好きであり、人の世話を苦にしないという平野が指導者の道へ進むのは自然の成り行きなのだろう。
 自分なりの道を模索したいという平野は、強豪・協和キリンをどのように導いていくのか。平野の闘志あふれるプレーが見られなくなるのは寂しいが、彼の監督としての新たなチャレンジに注目していきたい。 

(まとめ=卓球レポート)

平野友樹インタビュー(前編)「世界で勝てそうにない。そう思った瞬間、選手としてもうだめだと悟った」

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