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世界ユース U19男子シングルス優勝 
川上流星インタビュー(後編)

 2025年11月30日、ユース世代の世界一を決める大会である世界ユース卓球選手権大会最終日。U19男子シングルス決勝は、ともに準決勝で中国選手を破って決勝に進出した日本選手2人によって争われた。この決勝は、くしくも同年の全日本卓球選手権大会ジュニアの部の決勝と同カードとなったが、今回は川上流星(星槎国際高校横浜)が威力抜群の両ハンドドライブで、全日本ジュニア王者の吉山和希(岡山リベッツ)の速攻を打ち破り、見事世界ユース王者の座を射止めた。
 このインタビュー(後編)では、世界王者となった川上に大会を振り返ってもらうとともに、自身の成長の要因や使用用具、今後の目標などについて詳しく聞いた。(前編はこちら)



10-7になったときに、点数を二度見した

----準々決勝でF.コトン(フランス)に勝利して、メダルが確定。準決勝は優勝候補の温瑞博(中国)が対戦相手でした。

川上 温瑞博選手とは初めての対戦でしたが、コトン選手よりはやりやすいと思って試合をしていました。試合前は、フォアハンドがめちゃくちゃ強いイメージだったので、ツッツキにしてもチキータにしても、まずはバックから崩すという戦術を大森監督と話していて、こちらが1本ドライブしたら、大体ブロックや伸ばしが返ってくるので、それを狙うことを意識して試合をしました。
 温瑞博選手はとてもきれいな卓球で、今回自分がやった中で一番くらいやりやすい相手でした。

----スコア的には3対1から追いつかれる緊迫した展開(川上 8,7,-6,7,-3,-7,5 温瑞博)でしたが、何が決め手になりましたか?

川上 最終ゲームは4-5で自分が負けていて、そこでタイムアウトを取って、そこから7点連取で勝つことができました。そのタイムアウトが一番大きかったですね。
 まずはサービスをしっかりフォア前と、バック側も効いていたので、その2つを散らして出すということと、いけるときはしっかりミドルにチキータするというアドバイスを大森監督から言われていたので、それを徹底しました。

----決勝は、準決勝で李和宸(中国)を破った吉山和希選手との同士打ちになりました。予想はしていましたか?

川上 正直、びっくりしました。自分がコトン選手に勝った時に、和希くんもルーマニアのキリタ選手に勝っていて、次(準決勝)を乗り越えたら2人とも決勝もあるんじゃないかとは和希くんと話していました。
 和希くんはたぶん自分が温瑞博選手に勝つと思っていて、自分も準決勝で勝てたら決勝の相手は和希くんだろうなと思っていましたが、実際にお互いが決勝の相手になったのには驚きましたね。

----吉山選手は対戦相手としてはどういう印象でしたか?

川上 全日本ジュニアの決勝で負けていたので、そのリベンジをしたいという思いはありましたが、決勝ということもあって、和希くんの状態もよかったですし、びびらずに自分から向かっていこうと考えていました。
 和希くんとは、国際大会の直近では2024年のWTTユースコンテンダー ヴァラジュディンのU17で試合をしていて、自分が3対1で勝ちましたが、その時は和希くんの状態があまりよくありませんでした。今回は万全の状態だったと思います。それ以外は、トレセンの事前合宿で1回だけ試合をして、フルゲームで自分が負けて以来、試合はしていませんでした。
 練習も結構たくさんするので、相手のくせとかどこに打ってくるだろうというのはお互いに大体分かっていると思います。

----やり慣れた相手ということですが、どのように臨みましたか?

川上 自分は左利きの選手と対戦するときに、レシーブを一番意識していて、まずレシーブできなければお話にならないので、相手のサービスをしっかり見て、バックで入るか、フォアで入るかを決めて試合をしています。

----決勝では吉山選手の速攻に押される場面もありました。

川上 1、2ゲーム目は、自分が順回転のサービスを出して、和希くんがチキータしてくるという展開が多くて、それが嫌で、3、4ゲーム目から自分がサービスを縦回転に変えたら、レシーブをフォアで触ってくれるようになったので、それが一番大きかったと思います。
 それを徹底して、最後のゲームは流れを変えられたと思います。

----優勝が決まった瞬間はどのような心境でしたか?

川上 最後、10-7になったときに、点数を二度見して、「あれ?あと1点で優勝じゃん」と思いましたが、「ここからまくられたらまずい」ともう一回集中し直して、最後サービスを出しました。
 表彰式は実感が湧いていない状態でしたが、やっと今になって優勝したんだという実感が湧いてきましたね。

----世界チャンピオンというタイトルの重みも感じていますか?

川上 今回、いろいろな強い選手に勝ったので、自信になった部分はありますが、ジュニアは自分と同じ年代に駿斗(岩井田駿斗/野田学園)とかもいるので、プレッシャーに負けずにこれからも自分から攻めていきたいと思っています。

----大会が終わって、男子シングルスと団体で金、男子ダブルスで銀、混合ダブルスで銅と、全種目で表彰台に登りました。この結果はどのように受け止めていますか?

川上 団体は決勝に行けた時に優勝できると思いました。男子ダブルスは結構悔しい負け方をしてしまったので、その日の夜、(パートナーの)和希くんと「明日シングルスがあるから切り替えてがんばろう」と話していました。
 自分たちがシングルスの決勝で当たった時に、「ダブルスを優勝していれば完璧だった。次組む時は優勝しよう」とも話しました。
 混合ダブルスでペアを組んだ青木さん(青木咲智/四天王寺高校)は今まで組んだ中では一番自分が得点を決めやすい選手でした。サービスがうまくてミスも少なく、自分のプレーがやりやすかったです。

----余談ですが、期間中のホテルは吉山選手と同部屋でしたか?

川上 ずっと同じ部屋でした。シングルスの決勝が終わったあとはちょっと違和感がありましたが、和希くんは「解放された」と言っていてニコニコしていました。プレッシャーがあったんだと思います。
 和希くんが2歳上ですが、合宿も試合も一緒のことが多いので、あまり先輩後輩みたいなのはないですね。

全日本ジュニアのリベンジとなる同士打ち優勝を決めた(写真提供=ITTF/WTT)

----昨年のU15でベスト8から今年のU19で優勝は大躍進だと思いますが、自分ではどこが強くなっていると思いますか?

川上 まずはフォアハンドドライブが変わったと思います。元々自分はバックハンドが得意でしたが、この大会はパワーで決めることがめちゃくちゃ多かったと思います。
 トップ選手とやるときはバック対バックでは絶対に勝てないと分かるので、チャンスがあるときは回り込んでフォアハンドで決めるというのは意識して練習をしていました。
 多球練習でも、回り込んでフォアハンドで打ち抜くという練習を結構やりました。

----元々バックハンドが得意で、フォアハンドのパワードライブも得点源になった今、自分の卓球の強みはどこだと思いますか?

川上 両ハンドもですが、一番自信があるのはサービスです。今大会も何十本もサービスエースを取ることができたので一番はサービスです。
 あとは両ハンドのスピードです。トップ選手が相手でもノータッチで抜けるくらい両ハンドのスピードがあると分かったので、そこは自信を持ってやっています。

----サービスはどのようなことを心掛けて出していますか?

川上 自分のサービスは下回転と上回転がはっきり区別できると思いますが、こういう回転のサービスを出したら、相手は大体こういうレシーブをしてくるだろうというのは頭に入れているので、サービスで困ることはないかもしれないですね。
 結果的にサービスエースが取れることもありますが、サービスで得点することよりも、その後の展開のことを考えています。回転のわかりにくさで相手がレシーブミスをしてくれるというのはあまり想定していなくて、こういう回転を出したら、こういうふうに返してくるだろうと予測してプレーしています。

----今大会で感じた課題はありましたか?

川上 技術面ではあまり課題はありませんが、フィジカル面で課題を感じていて、格上の選手とやるときにはフィジカルをもうちょっと鍛えた方がいいと感じることが多いです。トレーニングをもっとがんばった方がいいというのは大森監督からも言われています。
 具体的には左右に振り回されたときとか、しっかり踏んばって耐えなければいけない場面があるので、そういうときのためにも筋トレはもっとやった方がいいと感じました。

今大会で川上は、ユース世代で頭一つ抜き出た威力のパワードライブを見せた(写真提供=ITTF/WTT)

----用具についてもお聞かせください。

川上 ラケットは樊振東 SUPER ALC、ラバーは両面ザイア03を使っています。
 ラケットを替えたのは1カ月ちょっと前くらいですね。11月前くらいにラケットを替えて、最初はあまり慣れない感じでしたが、練習していくうちにこのラケットの良さを感じてきて、Tリーグに出た時にトップの選手とも打ち合えると実感して、「これ、めっちゃいい!」と思って今も使っています。
 ラバーは3月頃からフォア面だけザイア03を使っていましたが、5月の頭くらい、世界ユースの選考会が終わった後に両面に変えてからずっと使っています。

----ザイア03は最初から違和感なく使えましたか?

川上 最初使った時に「ヤバいラバーだな」と思いました。ちょっと打球点がズレても、振れば入るし、カウンターとかも異次元みたいなボールが入るので、今でも使っていてびっくりするようなボールがめちゃくちゃあります。
 バック面には以前はディグニクス05を使っていて、安定して勝てていたので、すぐには替えませんでしたが、選考会の後、試合があまりなかったので、バック面にも試してみたら、思った以上によくて、早く替えればよかったと思いました。

----ザイア03でやりやすい技術や難しい技術はありますか?

川上 フォア面には以前はディグニクス09Cを使っていましたが、そのときと似ている感じがあります。粘着ラバーみたいな打球感だけど、ディグニクス05みたいなボールがいくイメージですね。サービスも回転をかけやすくて、そこもディグニクス09Cと似ている感じです。
 あとは、ディグニクスに比べて(打球感が)硬くなった部分があって、最初はちょっとブロックが難しいと思いましたが、やってるうちにどんどん慣れてきて、今はもう違和感ないですね。

----樊振東 SUPER ALCとの組み合わせはいかがですか?

川上 樊振東 SUPER ALCの前はビスカリアをずっと使っていたので、めっちゃ飛ぶようになったという意識はないですね。ただ、両面のラバーも入れると以前より10グラムくらい重くなったので、それは気にしてプレーしていました。最初の頃は結構筋肉痛もありましたね。

----木下グループの先輩には全日本王者で国際大会でも活躍している松島輝空選手がいますが、どのような存在ですか?

川上 輝空くんは国際大会に行っていてかぶる期間はあまりありませんが、Tリーグのベンチに数回入ったことがあって、「どうやったら負けるんだろう?」と感じながら試合を見ています。
 スピードもありますが、ボールの質がめっちゃ高くて、ボールに勢いもあって、ダブルスを組んだら絶対に負けない自信があります。
 いずれ倒したい相手ですが、今の自分じゃまだ全然及ばないと思っています。

----川上選手は王楚欽ファンとしても知られていますが、王楚欽選手(中国)のどこに憧れていますか?

川上 プレースタイルもですが、ルックスも好きで、去年の混合団体で1回試合もして、練習とかも見ていましたが、めちゃくちゃ格好よくてべたぼれっていう感じですね。
 試合はまったく勝てる気はしませんでしたが、めっちゃ楽しかったです。1ゲーム5点を目標にプレーしていたので、まさか1ゲーム取れると思っていなくてびっくりしました。

----最後に、これからの目標を教えてください。

川上 まずは来年(2026年)の全日本ジュニアで優勝するのと、一般でもベスト8目指してがんばりたいと思っています。
 11月にはユースオリンピックがあって、まだ出場は確定していませんが、出るとなったら優勝目指してがんばりたいです。
 あと、ちょっと先ですが、ロサンゼルスオリンピック代表も狙える位置に来たんじゃないかと思っています。(了)

(写真提供=ITTF/WTT)

 まったく奇をてらったところのない両ハンドドライブ主戦の右シェーク攻撃型というありふれた戦型ながら、小学生の時から自信に満ち、落ち着いたプレーぶりが目を引く選手だった。もちろん本人の口からはそんな言葉は聞けないだろうが、「自分がこのスポーツの正統を担っていくのだ」と言わんばかりの矜持(きょうじ)を感じさせるようなプレーは子どもの頃から変わらない。
 今回のインタビューで、川上はフィジカルを課題として挙げたが、成長途上の身体はまだまだ大きく強くなっていくだろう。そして、川上には、その成長を余すところなく卓球の強さへと転化できる、堅固な土台がすでにある。
 世界ユース王者が進む「王道」は、彼をどこに導くのだろうか。

(取材・まとめ=卓球レポート)

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