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三十六計と卓球 ~第六計 聲東撃西~

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「日本の友人と世界の卓球界に『三十六計と卓球』を捧げる」 荘則棟

第六計 聲東撃西 (東を攻撃するように見せかけ、西を攻撃する)

東側で虚勢を上げ、相手に錯覚を与え、
秘密裡に兵を出して西側を攻撃し、
相手の不備を突く一種の戦術である。

 古代戦術の例

36kei-06-01.jpg 紀元220年前後の三国時代のこと袁紹(えんしょう)は70万の大群を率いて官渡(かんと)攻略に向かった。
 曹操は兵7万を率いて敵を迎え撃ち、官渡を死守した。
しかし、8月から9月にかけて、軍馬兵士に疲れが見え始め、食糧も底を突いてきた。
 この困難な事態の中で、曹操は「聲東撃西」の戦術を立てた。すなわち一方では虚勢を上げ、官渡を死守するように将兵に命じ、一方では5000人の歩兵と騎兵隊を自ら率いて、こっそりと袁軍の食糧備蓄基地である烏巣(うそう)に潜り込むことであった。
 彼と兵士は哀軍部隊に変装し、哀軍の旗を掲げ、暗閣の中、哀軍の包囲網を抜け出した。
 途中で哀軍の歩哨の質問に出会ったが、哀紹将軍の命令により増援に来た部隊であることを伝え、難関を突破して、鳥巣に着いた。
 曹操の兵士達は手分けして、食糧が入れである倉庫に一斉に火をつけた。
 警備していた袁軍は、暗闇の中で突然火事となり、何がなんだかわけが分からず、大混乱になった。
 曹操は兵士に猛攻を命じ、哀軍の食糧備蓄基地を全焼し、警備隊の将兵を全滅させることにより官渡を救った。
 奇襲作戦は大成功し、官渡一戦を勝利に導いた。


卓球における応用例

 日本の選手は、フォアハンド攻撃時に全身の力を利用し、打球音が全会場に響くような重いスマッシュを特に重視しており、大変良いことである。
 また彼らはフォアハンド攻撃時に、斜線(クロス)攻めを多用しているが、それは斜線の方が直線より長いため、命中率がおのずと高くなるからである。
 以上のふたつは、力が強くかつ命中率が高いという利点がある。
 しかし、ものごとは必ず継承され発展する。
 中国卓球チームは日本チームの利点を学び吸収し、これを基礎にしてさらに精密・巧妙に仕上げた。
 中国の容国団選手や徐寅生選手のプレーを見た人は、彼らの強硬な攻めと巧妙な術に魅了される。
 彼らはスマッシュする前、攻めるコースをあらかじめ決めているにもかかわらず、相手選手がすでに備えているのを見ると、臨機応変に急きょスマッシュのコースを変えて打ち、左を見ながら右に打つ、あるいは右を見ながら左へ打つというように、相手を翻弄し、巧みに点を稼ぐのである。
 第26回世界卓球選手権大会男子団体戦の中国対日本の決勝戦で、徐寅生選手は日本選手に対し12本連続スマッシュしたかと思うと、軽く"流し打ち球"を打って、「聾東撃西」で相手と球を遊離させ、人が右へ行けば球は左へ落ち、したがって相手選手に対し心理的にも闘志の上でも大きな挫折感を与えた。

感想

1.偽の現象を作り、相手の思考錯誤を誘導し、相手が騙されたすきを見て、相手の無防備側を攻撃する。
2.相手にステップや体勢の乱れがなく、錯覚や支離滅裂の感を起こしていない時、強引にこの計略を遂行することは、自分で自分を編すのと同じで、往々にして自分が痛い目に会う。
3."虚"と"実"の併用は、兵法で言う計略の両手であり、基未的要素である。
 "虚"は形を必要とし、かつ本物とそっくりであること。"実"は勢いを隠し、チャンスの時に応用する際、初めて本当の姿と巧妙さをあらわす。
4.用兵の達人は、虚と実、快と慢、正と奇、真と偽、長と短、迂と直、得と失、安と危、労と逸、勇と怯、乱と治、など陰陽対立の知識と性質を上手に運用する。
 これらを臨機応変に運用できれば、事がみな順調にいき、最終的に益をなす。
5.この計略の運用を得意とする者は、労多くして功少ないが、日々大きく育つ。
 愚かで無知な者は、労少なくして功多いかも知れないが、自分で自分を滅ぼす。
6.時に東・時に西、時に打ち・時に離れ、攻めないと見せかけ攻める、形は必然的に見え実は必然ではない、形は必然ではないように見え実は必然である、仕掛けるようで仕掛けない、仕掛けないようで仕掛ける等を上手に運用し、相手に情況から推理しても当然と思い込ませ罠にはめる。
 このように周辺の情況により計略を用いることができれば、自分が主導権を握り局面を演出することになり、将棋で言えば相手より1ランク上で、自然に勝利の切符を手にするものである。
(翻訳=佐々木紘)
筆者紹介 荘則棟
chuan_s.jpg1940年8月25日生まれ。
1961-65年世界選手権男子シングルス、男子団体に3回連続優勝。65年は男子ダブルスも制し三冠王。1964-66年3年連続中国チャンピオン。
「右ペン表ソフトラバー攻撃型。前陣で機関銃のような両ハンドスマッシュを連発するプレーは、世界卓球史上これまで類をみない。
1961年の世界選手権北京大会で初めて荘則棟氏を見た。そのすさまじいまでの両ハンドの前陣速攻もさることながら、世界選手権初出場らしからぬ堂々とした王者の風格は立派であり、思わず敵ながら畏敬の念をおぼえたものだ。
1987年に日本人の敦子夫人と結婚。現在卓球を通じての日中友好と、『闖と創』などの著書を通じて、卓球理論の確立に力を注いでいる」(渋谷五郎)
本稿は卓球レポート1992年8月号に掲載されたものです。
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