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三十六計と卓球 ~第七計 無中生有~

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「日本の友人と世界の卓球界に『三十六計と卓球』を捧げる」 荘則棟

第七計 無中生有 (無の中から有が生まれる)

「無」とは、的を惑わすために偽の現象をつくること。
「有」とは、偽の現象により敵が錯覚し且つ混乱している時を見計らい、
不意を突いた攻撃を仕掛けることである。

 古代戦術の例

36kei-07-01.jpg 紀元755年前後の唐代安史之乱の時代、安録山の武将・令狐潮(れいこちょう)は、雍岳城(ようがくじょう・現河南省杞県)を包囲した。
 一方、城内の将軍・張巡(ちょうじゅん)は孤城を死守し、両軍は相対峙していた。
 張巡は兵士に命じて千体のワラ人形を作り、黒い衣服を着せ、日が暮れると城壁の上からワラ人形を紐で吊しゆっくりと下に降ろした。
 彼は先ず2名の騎士を選び、馬を引き、弓、矢と的を持ち城門を出ると、大手を振ってお濠近くの土手にやって来た。
 包囲していた黄巾軍の方が大変驚いた。よく見ると彼らは、的を地面に挿し込み、射矢の練習を始めたのである。
 これを見た令狐潮の兵隊は、張巡の兵が城を捨てて包囲網を突破するものと思い込み、一斉に矢を放った。
 矢は見事に命中し、令狐潮の兵士の中から歓声が聞こえてきた。
 張巡は兵士に命じてワラ人形を引き上げ、ワラ人形に刺さっていた数十万本の敵の矢をいとも簡単に手に入れたのである。
 またこの作戦は、敵軍の警戒心を麻庫させた。
 数日後の夜、張巡は本物の兵士を前回同様に紐で吊し、城壁の上からゆっくりと下に降ろした。
 これを見た令狐潮の兵士は「張巡がまたワラ人形を使って矢を借りにきた、今度こそ1本も貸さないぞ」と言いながら、大声を出し笑いふざけ合いながら遠くから見ているだけで、戦闘の準備は全くしていなかった。
 一方、張巡の本物の兵士500名は、地面に降りるなり決死隊を組み、令狐潮の指令部をめがけて突進した。不意を突かれた令狐潮の軍隊は大敗した。


卓球における応用例

 中国の容国団選手のサービスとサービスによる先制攻撃を知っている人ほど、騙し球の味と騙し球の恐ろしさを知っている。
 スウェーデンの名将ワルドナー選手もこれに精通している。
 彼は極めて似た動作で回転の全く異なる球をサービスすることが出来る。
 特に得点争いが激しい大事な時に、彼は先ず相手選手の心理状態を読む。相手が最初から攻めて来ると見ると、1~2球下回転サービスを出して相手の返球を、不ッ卜させる。そして彼はその後も相手を観察し、今度はツッツキで応戦してくると読むと、同じ動作で横上回転のサービスを出し、相手がツッツくと高く甘いボールのバウンドとなり、そこを沈着且つ飢えた虎が獲物に襲いかかるが如く、豪快なスイングの一撃で得点する。
 人々は彼の"無中生有(無の中から有が生まれる)"魔法の球を賞賛し、また、相手選手は数回の失敗で往々にして思考は混乱し、闘志を失うが、ワルドナー選手は勢いに乗って勝ちを手にするのである。

感想

1.無中生有(無の中から有が生まれる)の妙は、偽をもって真を乱し、偽中に真有り、偽は誘惑で真は基礎である。
2.最初から最後まで偽のみでは空き城の如く、敵の一撃を受けるまでもなく廃嘘となる。最初から最後まで真のみでは変化に乏しく、相手からみれば一目瞭然で包囲され滅ぼされてしまう。
 要は真偽変幻(真と偽を無限に変化)して虚実交差(虚と実を織りまぜ)を上手に運用してこそ、相手は防備できなくなり、全部防御しようとすればする程、結果として防御していないのと同じになるのだ。
3.この計略は重厚な実力が後ろ盾である。智者が千慮して行動しても一回ぐらいの失敗はある。
 しかし、重厚な実力があれば、仮に計略が多少外れていても、実力で補うことができる。これは火の勢いが強ければ湿った薪でも燃やしてしまうのと同じである。
 したがって、スポーツ選手は基本的技術の素養を充実する必要がある。
(翻訳=佐々木紘)
筆者紹介 荘則棟
chuan_s.jpg1940年8月25日生まれ。
1961-65年世界選手権男子シングルス、男子団体に3回連続優勝。65年は男子ダブルスも制し三冠王。1964-66年3年連続中国チャンピオン。
「右ペン表ソフトラバー攻撃型。前陣で機関銃のような両ハンドスマッシュを連発するプレーは、世界卓球史上これまで類をみない。
1961年の世界選手権北京大会で初めて荘則棟氏を見た。そのすさまじいまでの両ハンドの前陣速攻もさることながら、世界選手権初出場らしからぬ堂々とした王者の風格は立派であり、思わず敵ながら畏敬の念をおぼえたものだ。
1987年に日本人の敦子夫人と結婚。現在卓球を通じての日中友好と、『闖と創』などの著書を通じて、卓球理論の確立に力を注いでいる」(渋谷五郎)
本稿は卓球レポート1992年9月号に掲載されたものです。
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