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「卓球は血と魂だ」 第二章 二-ロ、相互信頼が基本

二 コーチの哲学

ロ、相互信頼が基本


 元世界チャンピオンで全日本男子単優勝六回の日本記録を保持する長谷川信彦君は「気力」「集中力」「努力」「基本」ということばをよく使う。その彼が斉藤清君(全日本チャンピオン)にこう言った。「全日本選手権の会場では、僕はなるべく人に会わないようにしているんだ。マスコミの人にインタビューされたり、ファンにサインをせがまれたりに、いちいち応じていたらとてもよい試合はできないよ。集中力が出ませんよ。僕は兄貴の車の中に逃げこんで、一人になることを心がけていたんだ-」これは非常によいアドバイスなのだ。

 監督・コーチの立場からいえば、まず、選手にどうして自信を与えるかが大切であり、試合直前は選手が自身の精神面に充電できるように、コンディションづくりにいろいろ気くばりをしてあげなければならない。だが、それ以上に大切なことは、平素から、どうすれば選手が燃えるか、ということに配慮していかねばならない。選手を怒らせることも非常の場合には役立つが、信頼関係のない間柄でできることではない。

 信頼ということで面白い?話を一つ。

 昭和三二年の全日本選手権大会の時のことだ。楢原静世(現姓中条)さんは、広島県三原高校時代に姉さんの静(現姓山脇)さんと二人に少しばかり私がコーチした人だ。その楢原選手の準々決勝の始まる前に、私は激励した。そして試合の進行を見て勝てそうと思い、他の試合の方のコーチをしていた。沢山のコートがあり、私は反対側の遠い所から時折り見ていたが、セットオールの苦戦となり、ファイナルもリードしていたのに20-19と追い込まれていた。

 でも、今さらそのコートに戻るのもどうか、とためらっていた。ところが楢原選手はサービスを出す姿勢に入らず、じっと遠くにいる私の方を見て、何かの指図を待っていることに気付いた。楢原にはベンチがいるはずなのに、と思ったが、何かしてやらねば、と私はあせり迷った。が、えいこれでいけ、とばかりに相手のバックを指さし、ゼスチュアでロングサービスを指示した。彼女はすかさずバックへロングサービスを出し、第三球スマッシュであざやかに快勝したのである。

 私の自慢をするようであるが、あの場合、私が会場にいなければ、楢原選手はもっと別な方法で勝った、と思う。だが、私が近くにいる、という意識を彼女に持たせていたんだなあ、とあとで気付いたのである。そんならその信頼にこたえてやらねばならぬのである。ところで私の指図だが、私は自信はなかった。しかし迷っている彼女に対しては思いきったプレーをさせねばならぬ。彼女の戦法の主戦がバック攻めであるのだから、それをやらせたまでである。

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