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「卓球は血と魂だ」 第三章 十七 平壌国際卓球を観戦して

第三章 卓球の炎をかかげて

十七 平壌国際卓球を観戦して

 さる七月二日から八日まで朝鮮民主主義人民共和国の首都平壌市で開催された第三回平壌オープン大会を観戦した。日本から矢尾板団長、田阪監督の下、学生新人チームが出場したが、残念ながら男女とも第七位に終った。日本はなぜ弱いチームを派遣したのか、という声も聞かれたが、学生新人に機会を与える、という意義は認めたい。問題は朝鮮の第四軍に一点もとれないほど日本の学生レベルが低下していることを日本の卓球人が認め、奮起してほしい、ということだ。

 この大会は男子は朝鮮、女子は中国が優勝した。ハンガリー、ユーゴ、スウェーデン、ソ連などの強国が参加しなかったのだから当然だとしても、そして中国は江蘇省(南京)の選抜軍という事情を考慮に入れたとしても、地元朝鮮は男女各四チームが出場し、男子で一・三・四位、女子で二・三・四位に入賞したのは立派で、若い選手たちの進境を見て金得濬会長は久しぶりの笑顔だった。

 大会を観戦して強く印象に残ったのは朝鮮男子選手たちのファイティングスピリットだった。特に団体決勝三-三のあと、ゲームオール八-一四から大挽回したチョ・ヨンホ選手の闘志を讃えたい。五分五分の試合というものは、いつ何が起るかもしれないことを教えた試合だった。また、勢いに乗った時の中国は圧倒的な強さを見せるが、追い込まれた時に見せる中国選手のもろさ、精神的弱さも見せてくれたゲームだった。

 地元朝鮮の側に立って云えば、男女とも優勝のチャンスがあった。それを阻んだのは中国女子コーチ陣だった、と見た。中国は主力の一人一九才の相同一と個人戦出場の一五才の戴勇がホープだったようだ。この二人のペンとシェークの攻撃選手の中の相選手は予選から朝鮮チームに二度苦戦した。夜の試合が終ったあと、会場のコートで下授余と金建蘭(女)両コーチが、各二時間近く熱心に実技指導した。まずレシーブの訓練をくり返し、ついで第三球の訓練をくりかえした。各種のカットサービスを出して両サイドへ返球させる。また下コーチが台に接近した位置から実戦的フォームでバックへ打球し、その球を両サイドへ打つ第三球訓練だ。そのあと男子のカット選手を呼んできて、カット打ちをさせるなどである。

 特に下コーチには頭の下る思いで見学した。相手がバックへ打ち抜けば何十回でも自分で球を拾いに走る。走りながら何かを口走り教える。相と戴選手はリラックスした態度で球に食いついていく。むしろコーチの方が真剣そのもの、中国のプロコーチの存在がいかにきびしいものであるかをかい間みた。二晩目、また一時間半やったところで選手の方がもういいじゃないか、という態度を見せ、それで特訓練習は終った。

 そして中国は決勝に臨んだ。準決勝で一敗苦戦し、決勝は危うい?と見ていた私達(辻、山岡、伊藤)の前で、中国は必死に食い下がる朝鮮を危気なくストレートで下したが、その裏側に両コーチの連夜のアセが流されていた。選手は自身の力で荒浪を乗り越えていく場合が多い。しかしこの様な場合もある。三〇年前に私にもコーチの体験があるが、選手指導者合作の芸術の一例として紹介したい。
(卓球レポート一九八三年九月号)

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