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「作戦あれこれ」第2回 全日本での対高島規郎作戦

 全日本準決勝 高島3(17、18、-19、20)1長谷川
 テレビ放送で、幸運にも入った準決勝の長谷川対高島戦。3セット目に逆転して会場を沸かせたが、2年前の全日本決勝に続いて3-1で負けて雪辱はならなかった。高島選手は壁のように打っても打っても返ってくる守備範囲の広いカットとすばらしい攻撃力があった。それに対して、私は、高島選手とどのように戦ったかをとりあげることにした。


ドライブとストップで前後にゆさぶってスマッシュ

 11月16日、準々決勝で仲村渠選手に勝ったあと、試合前に、対高島戦の作戦をノートに走り書きした。
 高島規郎選手―両面裏ソフトのシェークハンド・グリップ。フットワーク抜群で守備範囲が広い。フォア・バックとも鋭い攻撃力がありスピードがある。
 弱点は次のように書いた。
・コートに寄せられてからの、スマッシュと、スピードのあるドライブに弱い
・フォアへ大きく寄せられたあと、バックへのスマッシュに弱い
・ドライブの変化にときどきミスが出る
・両ハンドのカットで待つときのフォアミドルが弱い
・左右の動きは強いが、比較的前後が弱い
 注意する事は、勝負どころでバックに、あるいはフォアに変化をつけてゆさぶったあとドライブをスマッシュするのがうまい。だからゆさぶられたときは、できるだけストレートにドライブをかける。または、ドライブに変化をつけて返す。相手は攻撃力があるのから、反撃をしてきたらロングマンと対戦しているときの気持ちでやる。
 それと、カットマンと対戦するときの基本的な心構えとしていることも書いた。
・相手が10本ねばってきたら、11本ねばり返す。20本ねばってきたら21本ねばり返す。何しろ相手より1本余計に返す
・素早く動いて一球一球に腰を入れて正確に打つ
・変化をしっかり見て打つ
・相手より先に無理せず、焦らずやる
・自信を持って打つ
 そして、全体的な心構えとして、2年前に負けているし、最近はカットに対して成績が悪い。思い切ったプレーをするしかないと考えてコートに出た。
 試合開始1時30分
 1セット目、ロングマンのときもそうだが、今までの経験から前半に思い切った攻撃をしないと後半に思い切れないので、浮いてきたボールを思い切りスマッシュした。だが、前後のゆさぶりからのスマッシュを、カットでガッチリ返球され、一進一退のスタート。
 そして、6オールになったあとの4、5本、高島選手のカットにどれぐらいの粘りがあるかを見るために、ドライブに少しずつの変化をつけながら前後左右に粘ってみた。30本近くのラリーが続いただろうか、長いラリーになったときはすべて粘り負けをした。このとき私は、この試合に勝つのはむずかしいと心の中で思った。それは、私のストップは、ストップというよりツッツキで、相手をコートから離してもラクにとられてしまい効果的なストップではない。となると、フットワークのいい高島選手にドライブで態勢をくずすのはむずかしい。ドライブだけでは得点できないし、体力も使い疲労が出る。また、高島選手に攻撃力があり、最後は威力がなくなったドライブをねらわれる。ということから、どうしても十分な態勢でカットした重いボールに対してスマッシュで勝負しなければならない。私は、スマッシュはうまい方ではないにもかかわらず、高島選手の長所と勝負をしなければならなく、非常にまずい攻め方となるからである。
 そして、1本の攻防が長かったために14対17で促進ルールのタイムがかかった。初めての経験であった。促進ルールは、サーバーは13本以内で決めなければ失点となり、レシーバーは相手の打球を13本返せば得点となる。高島選手には鋭い攻撃があるし、守備範囲が広いからますます苦しい試合になると思った。
 得点したのは、スピードのあるドライブで左右にピッチを早くして連続攻撃したときとか、フォアサイドをめがけて4本、5本と曲るドライブで攻めてフォアへ釘づけにして、バクにスマッシュを決めたときである。あるいは左右にゆさぶりながら、ドライブにサイド回転を入れておいて、まっすぐに伸びる回転をかけて、オーバーミスをさそうとき。3セット目の後半から、レシーブのときに相手のフォアへ速いドライブを強引にかけて相手に攻撃のスキを与えず、無理な態勢から打たせたときとか、フォアに釘づけにしたあとバックへ動こうとする体の真ん中にめがけて速いドライブで攻めたときなどであったが、なかなかチャンスを作るのが困難であった。

相手にさあいらっしゃい、と待っているところへスマッシュした頭の悪い作戦

 私の戦法は単調な攻めが多かった。とくにコースのつき方が単調であった。たとえば、守備のうまい選手に勝つには相手がハッとするような攻め方、コースのつき方をしなければいけないが、自分のうちやすいフォアへ多く打ったのは大きな敗因となった。それはいうまでもなく、高島選手のフォアは強く、さあいらっしゃい、と待ち構えているところへ打ったからちっとも決定打にならない、非常に損な作戦をしたり、ドライブでストレートに攻めてクロスにスマッシュという同じパターンを繰り返したり、変化のついているボールを無理な態勢からバックへ攻めようとしてミスを重ねたり、あるいは前に寄せてもドライブだけという、パターンが同じであったからである。
 しかし、なぜこのようにコースが単調になったのだろうか。やはりストップが下手すぎて相手のカットを攻めることができず、ストレートに無理をして打つとミスが出る、というところからクロスにスマッシュが多くなってしまったのだと思う。
 この試合で、守備の広い本格派のカットマンには、ドライブからスマッシュの1つの攻略法だけではとても勝てない。やはり、2バウンドするストップでコートに寄せておいてから強打とか、ループドライブからスマッシュとか、連続強打からストップとか、あるいはツッツキからスマッシュなど、この中の3つぐらいの戦法を持たないとレベルの高いカットマンには勝てないと、つくづく痛感した。

相手の動き、ヨミをよく考えた高島選手のすばらしい作戦

 私とは反対に、高島選手の作戦は非常にしっかりしていた。
 レシーブのときは、ドライブを台から離れてできるだけ低く深く返球して、スマッシュミスを誘う作戦と13本を粘りきる作戦だっただろう。重いカットで一球一球コースを考えて攻め、相手に連続攻撃をさせないようにしていた。サーブのときは、13本で決めなくてはならない。ラリーの途中に鋭く変化をつけたカットで相手を攻めたあと、クロスにくるつなぎのドライブを攻撃したり、また、こちらがストップしたボールを逆に左右にツッツキとか、サイド回転をかけて攻め次の威力のないボールをねらったりしてきた。あるいは、ラリーから2回ほど攻撃したあとは横回転のサービスをフォアに1バウンドでコートぎりぎりにでるかでないかぐらいのサービスをだして山なりのドライブボールを3球目攻撃。ツッツいてレシーブしたときは、ドライブをかけて5球目をスマッシュという2段構えの攻め方で、今度もラリーからの攻撃だなと思って安全なレシーブをして、かなり3球目攻撃をあび反撃に変化があった。それにコースも実にすばらしかった。
 たとえば、バック側からフォアドライブをかけると、フォアが大きくあくためにフォアへ移動すると、1番スキのできたミドルにスマッシュとか、次もミドルかなと思うとフォアとか、あるいは3球目攻撃のコースでも相手を非常に良く考えた攻め方で、ストレートとか、両ハンドで待ち構えているとミドルとかに攻めてきて、守備に自信がある私もコースがよめずボールをラケットにあてることもできなかったことがたびたびあった。
 ドライブをまわりこんで打つのと、フォアへ動いて打つスマッシュ練習とスマッシュをとる練習をかなりやったのだろう。

練習時間の割りあてと、練習内容の失敗だった長谷川

 この試合の勝敗は、今考えればもう戦う前から決まっていたと思う。
 それは、高島選手に2年前の全日本決勝で負けている。また、9月のテヘランであったアジア大会でも、カット攻略が単調で今まで負けたことのない梁戈亮(中国)と、無名の香港のカットマンに負けているにもかかわらず、カットマンに対する練習量が少なかったことである。
 社会人であるために、練習は3時間から4時間の少ない時間であったが、40分前後のカット打ちしかやらなかった。これだけの練習では、高島選手の一流のカットを攻略できるはずはない。私のブロックには、大屋選手(日楽)、仲村渠選手(シチズン)と苦手なタイプがいたこともあるが、カット打ちを積めばロングにもかなり役立つことが多い。とくにカット打ちは基本動作、基本のフォームができていないと打てないだけに、効果の高い練習になる。カット打ちを練習時間の半分ぐらいは必要だったと思う。
 それともう1つは、決定的な敗戦につながったカット打ちの練習内容である。早大2年生のホープである白井君と練習をしてもらったが、ゲーム練習以外にはノーミスでカットを粘る練習。カットでオールサイドにまわしてもらい、フォアドライブだけで動くフットワーク練習、ドライブからクロスにスマッシュの3つの練習しかやらなかった。これでは、高島選手のカットを打ちくずす内容の練習は1つもない。同じ時間をやるにしても高島選手の守備の強いカットを、どのようにしたら攻略できるか、そのためにはどんな練習が必要だったか、深く考えてやるべきであった。2年前の全日本、テヘランの試合を振りかえれば、台上で2バウンドするストップは絶対に必要であった。それとストレートにスマッシュ。ミドルにスマッシュは必要であった。高島選手に対する完全なコンディションを作るにはいたらなかった。
 もうドライブからスマッシュだけの時代は終わった。
 最後の全日本で高島君とやれたのはしあわせだった。高島君はカットも、攻撃力もすばらしい。感じたのは、スマッシュに対してカットの変化が単調のように思う。もう一つは写真で見るとよくわかるが、1コマ分、約0.2秒くらい基本姿勢にもどるのが遅いことである。そのためにツッツキから攻撃してくる中国選手に苦戦するのではないだろうか?世界のカットマンのためにも、世界選手権のシングルスの優勝を目指して頑張って欲しい。

筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1975年2月号に掲載されたものです。

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