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「卓球は血と魂だ」 特別記録 名手今孝 今選手について(田舛彦介)

特別記録 名手 今孝(こんたかし)

  必勝訓
 勝ち越してゐる時には勢ひに乗ぜよ
 勝利を急ぐな
 負け越してゐる時にも億す勿れ
 どうせ負けるなら真技を発揮する事を考へよ
 必勝法とは之なり
  今 孝

 今選手について

 日本に卓球が入ってきたのは明治三十年前後(一九〇〇年ごろ)と考えられている。
 ある大学の先生が英国から持ち帰った、という説、英国の軍艦が日本に紹介した、という説、そしてもう一つは、初代の国際卓球連盟会長アイボア・モンタギュ氏(英国)のお母さんのスウェースリング伯夫人が持ってきた、という説などがある。

 今日の卓球(テーブル・テニス)は、まずピンポンという名前で呼ばれた、というが、それは約百年前セルロイドの球になった頃のことである。その前の五十年くらいはゴシマという名前でコルクの球だったようだ。いずれにせよ、ゴルフやテニスと同じく、英国貴族の遊びとして始まり、上流社交界でイブニングドレスの婦人や紳士の遊戯だったようだ。百五十年前、インド駐留の英国軍人が遊んだ、という説もある。

 日本では明治から大正の初期、ショートプレーの時代を経てロング(攻撃)の時代になり、昭和に入ってカットの時代もあり、昭和十年以後、本格的オールラウンドの時代となって、卓球日本第一期の黄金時代を迎えることになった。

 この時代(一九三五~四〇年)、関東学生の中に攻撃主戦オールラウンドとカット主戦オールラウンドの対立があり、関西でも同様であるが、昭和十年から十六年ころの間は、カット主戦オールラウンドの早稲田大学と、徹底した攻撃主戦オールラウンドの関西学院大学の両雄が全日本の覇を争っていた。

 事実上の日本一をきめる全日本選手権大会(当時は明治神宮体育大会と兼ね)では、昭和十一、二年は渡辺重五選手(関学大)が、決勝で今孝選手を押えて優勝したが、実力的には全日本学生五連覇など、今選手が上回り、事実十三、四年の全日本は単複ともに今選手が独占優勝した。

 私はその今孝選手から直接指導を受けたいと願い、交渉し、遂に昭和十五年四月、今孝選手(早大)と頼天頣選手(立教大)の二人を柳井に招待したのであるが、以後六年余、戦争中も私にとって今先生との関係(文通)がつづいた。今さんは私より三つ年上、偉大な恩師であった。

 昭和十六年春、今さんは早大卒業後日立製作所に入社、つづいて応召入隊、中国の満州で約一年軍隊生活中、過労で倒れ、千葉の国府台陸軍病院で手術療養、再起後十九年、二十年は戦時下の会社業務に奮闘された。しかし、完璧主義の人格者今さんは再び過労を重ね、遂に昭和二十一年十一月十一日、養父山本弥一郎氏宅において、不帰の客となられた。二十九才の若さで…。

 日本卓球界にとって、戦後の再建に欠くべからざる人であったのに。まことに痛惜の極み、というほか、言葉がない。
 その後、今選手を偲ぶ、いくつかの本も出されたが、ご自身の人柄がにじむ手記はまだ活字になっていなかった。
 私としては戦争のはげしくなった昭和十六年十月、卓球への訣別を覚悟し、遺書のつもりで「私の卓球道」(一五二ページ、五百部印刷)を出したが、その中に、今さんから頂いた手紙を公開したが、あれから四十二年、もう一度それを掲載することにした。

 今さんは昭和二十年のはじめ、現日本卓球協会名誉副会長で大阪卓球協会長(数多く世界大会代表選手団団長をつとめられた)の山本弥一郎氏の長女智子さんと結婚され、以後は東京の勤務先と、堺市浜寺諏訪ノ森の山本氏宅を行き来されていた。

 このたび私は新建設した“バタフライ卓球道場”の中に、世界から集めた卓球史料を展示することになり、今選手の遺品につき山本弥一郎氏に懇請したところご快諾とご協力をいただいた。その中に、今さんがポケットに常携されていた小さい手帳が三冊見つかった。

 昭和十四年のものは、学生リーグ戦から全日本選手権大会の記録や感想が刻明に記されていた。また昭和十九年と二十年の手帳には、日日きびしくなる戦争中の日常生活をうかがう日記やメモが、キメ細かく書きこまれていた。小さい字、鉛筆書き、走り書き等もあり、ある部分は判読に時間を要したけれども、戦後の今日の人々にとって有益と考え、その中のいくつかを公表させて頂くことにした。

 戦中三年間は今さんの日記にも卓球という文字はなかった。あの戦争で日本人でも外国人でも多くの立派なスポーツマンが戦場の花と散っていった。若い卓球人たちがどこまで理解できるかは別として、あのいまわしい時代を知ることは大切なことと念じて-。

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